きら)” の例文
と言って土間へ出たが、振返ると、若いひとは泣いていました。露がきらめく葉を分けて、明石に透いた素膚すはだを焼くか、と鬼百合がかっあかい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月は段々高くなつて、水の如き光は既に夜の空に名残なごりなく充ち渡つて、地上に置き余つた露は煌々きら/\とさも美しくきらめいて居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
陽春三月の花のそら遽然きよぜん電光きらめけるかとばかり眉打ちひそめたる老紳士のかほを、見るより早くの一客は、殆どはんばかりに腰打ちかがめつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いかつい舅の顔は赫つと朱をそそぎ、両の眼が怪しくきらめいた。「父親がわが監督みはりをせずに誰がするのぢや!」
兎角とかくするほどあやしふねはます/\接近せつきんきたつて、しろあかみどり燈光とうくわう闇夜やみきらめく魔神まじん巨眼まなこのごとく、本船ほんせん左舷さげん後方こうほうやく四五百米突メートルところかゞやいてる。
二人の武士も義理で長いのを引抜き三人の武士さむらいが長いきらつくのを持って立並んでいるから、近辺の者は驚きました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
禿山に照り映えていた夕日もいつしか消えて、星の光りがきらめいた。切り落されたような谷間から仰いでも空は広い。して限りなく深い深い奥に運命の通る穴がある。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
思わず転ぶを得たりやとかさにかかって清吉が振りかぶったる釿の刃先に夕日の光のきらりと宿って空に知られぬ電光いなずまの、しや遅しやその時この時、背面うしろの方に乳虎一声、馬鹿め
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
妻の説明を聞いた時余は死とはそれほどはかないものかと思った。そうして余の頭の上にしかく卒然ときらめいた生死二面の対照の、いかにも急劇でかつ没交渉なのに深く感じた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る素晴しい精神科学の作用が電光の如くきらめき起って……オヤッ……そうだったかッ……俺はこんな人間だったのかッ……と思うと同時に、今度こそホントウに気絶するかも知れぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手には小さき舷燈げんとうげたり。舷燈の光す口をかなたこなたとめぐらすごとに、薄く積みし雪の上を末広がりし火影走りて雪は美しくきらめき、辻を囲める家々の暗き軒下を丸き火影ほかげ飛びぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
きらめく黄金は、美女の肌を洗って、床に、壁に、窓に、鏘然しょうぜんと鳴ります。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
密生林みつせいりん眞白ましろきらめき
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
なんだかその波のきらめきも色の調子も空気のこい影もすべて自分のおどりがちな心としっくり相合っているように感じられた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うろ/\方々を見廻すうちに、侍がきらつく長いのを持って立って居たのを火影ほかげに見たから、小僧は驚き提灯をほうり出して向うへ逃げ出したから提灯は燃え上る
身を翻へして退くはずみに足を突込む道具箱、ぐざと踏み貫く五寸釘、思はず転ぶを得たりやと笠にかゝつて清吉が振り冠つたる釿の刃先に夕日の光のきらりと宿つて空に知られぬ電光いなづま
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
すると床の上に釣るした電気灯がぐらぐらと動いた。硝子ガラスの中に彎曲わんきょくした一本の光が、線香煙花せんこうはなびのようにきらめいた。余は生れてからこの時ほど強くまた恐ろしく光力を感じた事がなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「梅子さん」突如銀子は梅子のひざに身を投げ出し、涙に濡れたる二つの顔を重ねつ「梅子さん——寄宿舎の二階からきらめく星をかぞへながら、『自然』にあこがれた少女をとめ昔日むかしが、恋しいワ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
大佐たいさ一顧いつこ軍刀ぐんたうさやはらつて、きつ屹立つゝた司令塔上しれいたうじやう、一れいたちまたかく、本艦々上ほんかんかんじやう戰鬪喇叭せんとうらつぱる、士官しくわん肩章けんしやうきらめく、水兵すいへいその配置はいちく、此時このときすではやし、すでおそし、海賊船かいぞくせんから打出うちだ彈丸だんぐわんあめか、あられか。
白堊の夕日にきらめけるを望みては、其家にすめる少女をとめの美しきを思ひ、山巓に沈み行く一片の雲を仰ぎては、わが愁の甚だその行衞に似たるを嘆じ、一道の坦途たんと漸く其の古驛に達したるは
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
と云いながらきらりッと長いのをひっこ抜いて、ずぶりッと草原へ突立つきたてますと
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
星が降るやうにきらめいて居るが、十六日の月はやゝ遅く、今しも高社山かうしやざんの真黒な姿の間から、其の最初の光を放たうとして、その先鋒せんぽうとも称すべき一帯の余光を既に夜露の深い野に山にみなぎらして居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)