遣手やりて)” の例文
ここいらは廓外くるわそとで、お物見下のような処だから、いや遣手やりてだわ、新造しんぞだわ、その妹だわ、破落戸ごろつきの兄貴だわ、口入宿くちいれやどだわ、慶庵だわ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その住職なるものは何者か知らないが、なかなかの遣手やりてと見える、ひとつあたってみようかな、というこころざしを起しました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
綾衣はすぐに遣手やりてのおきんを浅草の観音さまへ病気平癒の代参にやった。その帰りに田町たまちの占い者へも寄って来てくれと頼んだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当時頭をもたげて来たのが東金家だった。東金君のお父さんは一代で身上しんしょうを拵えるくらいの人だから、ナカ/\の遣手やりてで、兎角の風評があった。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……花子の母親ってのは吉原の遣手やりてで、十二三の頃まで花も廓で育ったんだというから、きっと花魁にでも教わったのさ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
第二ンガクバ(真言族)というのは、その祖先のラマが非常な遣手やりてであっていろいろ不思議な事をした。そのラマがつまり妻帯をして子が出来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「なあに、そんなに大変な事もないんです。登場の人物は御客と、船頭と、花魁おいらん仲居なかい遣手やりて見番けんばんだけですから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仲々の遣手やりてでシッカリ者という評判であったが、これに頭山先生が、何かの用を頼むべく会いに行った事がある。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またその時分抱主や遣手やりてへの義理で、日活の俳優を内緒の客にしたこともあると、意外な話を打ち明けたが、しかしその俳優の名を三人まで挙げている内に
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
駕籠舁の云うままに、裏通りの、それが小格子というのだろう、『菱岡田ひしおかだ』という店へあがった。遣手やりての女が駕籠舁になにか訊き、彼を奥の部屋に案内した。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あげ廿日程の中に十四五日續けて來りしにいつも二日づつは居續けに遊びしが或時遣手やりて若い者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おかしな身装こしらえでお客の積りで瀧の戸が音羽の手を曳いて、そッと遣手やりて部屋の前を通る。
姉なる人が全盛の余波なごりいては遣手やりて新造しんぞが姉への世辞にも、美いちやん人形をお買ひなされ、これはほんの手鞠代てまりだいと、くれるに恩を着せねば貰ふ身の有がたくも覚えず、まくはまくは
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
遣手やりてといいますか、娼妓の監督をする年寄としよりの女が、意見をしたり責めたり、種々手を尽しても仕方のない時は、離れへ連れ込んでしばって棒か何かで打つのだそうで、女の泣く声がれがれになる頃
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
わたし達がいないあいだは、花魁の枕もとへ行っておとなしく坐っていろ、何か変った事があったら直ぐに遣手やりて衆を呼べ。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それときまっては、内所ないしょの飼猫でも、遊女おいらんの秘蔵でも、遣手やりて懐児ふところごでも、町内の三毛、ぶちでも、何のと引手茶屋の娘のいきおい
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも仏法の方に掛けてはなかなか遣手やりてであるけれども、今の時に当って仏法だけの見込みでこの国に来るということは余程不思議な事である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
花里は遣手やりて新造までにいろ/\と意見させて見ましたが、いっかな動きません。
八丁堀に旅宿して當分たうぶん上方かみがたへは歸らぬつもり上方より御當地は勿々なか/\面白おもしろく來年にならば古郷は親類にあづけ江戸住居えどずまひに致さんと思ふなり夫に附て在所へ金五百兩程とりつかはしたりいまこゝには少しなれども四百兩有れば五六日御亭主へ預けたし其仔細そのしさいは我々江の島鎌倉へ參る間道中だうちう邪魔じやまになる故預けて行きたし頼み入と申ければ若い者遣手やりて詞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……廊下に台のものッて寸法にいかないし、遣手やりて部屋というのがないんだもの、湯呑みの工面がつきやしません。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それらは大抵その家に遣手やりてが出ますと、総理大臣あるいは陸軍、大蔵等の各大臣になることが出来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それを、上目づかいのあごで下から睨上ねめあげ、薄笑うすわらいをしている老婆ばばあがある、家造やづくりが茅葺かやぶきですから、勿論、遣手やりてが責めるのではない、しゅうとしえたげるのでもない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遣手やりてらしい三階の婆々ばばあの影が、蚊帳の前を真暗まっくらな空の高い処で見えなくなる、——とやがてだ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まして、大王だいわうひざがくれに、ばゞ遣手やりて木乃伊みいらごとくひそんで、あまつさへ脇立わきだち正面しやうめんに、赫耀かくえうとして觀世晉くわんぜおんたせたまふ。小兒衆こどもしうも、むすめたちも、こゝろやすくさいしてよからう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
遣手やりても、仲居なかゐも、をんなどももけつけたが、あきれて廊下らうかつばかり、はなしいた芝天狗しばてんぐと、河太郎かはたらうが、紫川むらさきがはからけてたやうにえたらう。恐怖おそれをなして遠卷とほまきいてゐる。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蛞蝓なめくじの舌を出しそうな様子ですが、ふるえるほど寒くはありませんから、まずいとして、その隅っ子の柱に凭掛よりかかって、遣手やりてという三途河さんずがわの婆さんが、蒼黒あおぐろい、せた脚を突出してましてね。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもお相伴を難有ありがとうございますよ。」とむこうへ坐ったのは、遣手やりてが老いたりという面構つらがまえ目肉めじしが落ちたのに美しく歯を染めている、胡麻塩天窓ごましおあたま、これが秘薬の服方のみかた煎法せんぽう堕胎おろした後始末
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……川柳にさえあるのです……(細首をつかんで遣手やりて蔵へ入れ)……そのかぼそい遊女の責殺された幻が裏階子うらばしごたたずんだり、火の車を引いて鬼が駆けたり、真夜中の戸障子が縁の方から、幾重いくえにも
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遣手やりてです、風が、大引前おおびけまえを見廻ったろう。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)