道理もっとも)” の例文
われわれは馴れているのでさのみとも思わぬが、はじめて見た者はおどろくのも道理もっともだ。かならず此の事は世間に沙汰してくれるな。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて盗賊とうぞくどもは、生人形いきにんぎょうおくからってきましたが、くびはぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿すがたになっていました。それも道理もっともです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
物数寄ものずきな人もあったものというような顔を宿屋の主婦がしていたのも道理もっとも、一本三円でも高いといった言葉も本当のことでありました。
悲しくてたまらなくなッて、駈け出して裏梯子を上ッて、座敷へ来て泣き倒れた自分の姿が意気地なさそうにも、道理もっともらしくも見える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
叔母の心を汲分けて見れば道理もっともな所もあるからと云い、叔母のにがり切ッた顔を見るも心苦しいからと云うは少分しょうぶんで、その多分は
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と父親は主張したが、これは至極道理もっともだった。スカートを短くすればそれ丈け羅紗らしゃが節約される。然るに西川さんは銀座の羅紗問屋である。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時に井上先生は「新門様しんもんさまのお考えはどうでございますか。」上人しょうにんの言われますには「河口さんの言うところも道理もっともなところもあるけれども、 ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
荻沢は少し道理もっともなる議論と思い「成る程わかった天然うまれつき縮毛ちゞれげで無いからお紺の毛では無いと云うのだナ(大)サア夫が分れば追々云いましょう、 ...
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
頭の怪我けがは大した事はないとの事で御座いますが、云う事は辻褄つじつまが合うたり合わなんだりするそうで、道理もっともとも何とも申しようが御座いません。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
オヽ道理もっともじゃと抱き寄すればそのまますや/\とねむるいじらしさ、アヽ死なれぬ身の疾病やまいこれほどなさけなき者あろうか。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ああ、しばらく、一旦の御見、路傍みちばた老耄おいぼれです。令嬢おあねえさま、お見忘れは道理もっともじゃ。もし、これ、この夏、八月の下旬、彼これ八ツ下り四時頃と覚えます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は昔の古典時代の人々がうらやましい気がします。私の仲間が過去のりっぱな秩序を回復しようとしてるのは道理もっともです。
それを他にしてなにがなる? それさえあれば下町の娘も高貴の令嬢もあまり変わりはない——道理もっともなことである。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
初め植木屋夫婦が引越して来た時、井戸がないので何卒どうか水を汲ましてくれと大庭家に依頼たのみに来た。大庭の家ではそれは道理もっともなことだと承諾ゆるしてやった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「これはいかにもご道理もっとも、信玄公には鉄砲と女子おなごを、厳重に吟味される筈、うかとはいることは出来ませぬ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
借金もあるうちですから漸々だん/\行立ゆきたたなくなって、居候どころじゃアごぜえませんから、出てくれろと云われるのは道理もっともと思って出ましたが、ほかに親類身寄もありませんから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そう、おやすみなさい、子供が来るんだからおとなしくしなければいけませんって、サンプリスさんのおっしゃるのは道理もっともだわ。ここの人たちのおっしゃることは皆本当だわ。」
みずから時計を出してみて、「道理もっともだ」という顔をして、そのままポケットに収めた。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
店員諸子がこれではならぬと思い、店を改造し、手をふやし、千客万来に備えて遺憾なきようにしたいと希望するのも、まことに道理もっとものことであり、主人として諸子の熱心を深く感謝する次第である。
「成程。それも御道理もっともでがす。」
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
これは道理もっともだ。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「君の説も一応は道理もっともように聞えるが、五個の庄の住民ははり普通の人間で、決して𤢖や山男のたぐいでは無いと云うじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三枝家の方では、婿の貨一郎さんの真意のある所が分りませんから、やはり疑惑をいだき、先方の仕打ちを面白く思わないのも道理もっともな次第です。
「秀子さんの言分は道理もっともだよ。僕は敬意を表する。この上チョッカイをかけると駄目になるばかりだぜ。東京へ帰ろう」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いかにも……それは道理もっともな観察ですが、しかし万一兇器としても単に嵌込すげるだけの目的ならば、附近にシッカリした花崗岩みかげいしの敷石が沢山に在るのに
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
免職と聞くより早くガラリと変る人の心のさもしさは、道理もっともらしい愚痴のふた隠蔽かくそうとしても看透みすかされる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
道理もっともだわ、」と彼女は言った、「私も軽蔑しててよ。それに、私は安心だわ、決して嘘をつかないから。」
君が疑うのは道理もっともだよ。そして、実は、君がその疑いを達子へ洩らしたために、僕は可なり安心したのだ。うち明けて云えば、僕は達子に暗示を与えて、君の心を
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
お吉は夫の顔を見て、いつもの癖が出て来たかと困った風情はしながらも自己の胸にものっそりの憎さがあれば、幾らかは清が言葉を道理もっともと聞く傾きもあるなるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
道理もっともだと控えました。もっとも私も及ばずながら医師いしゃの世話もしたんです、薬も飲ませました。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
至極道理もっともだ、最う千代/\と続けては呼ばんよ、一言ひとことだよ、成程何うもえらい、賢女だ、成程どうも親孝心、誠に正しいものだ、心掛けと云い器量と云い、余り気に入ったから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なるほどな、」とテナルディエは言った、「ご道理もっともだ。」
「なるほど、こいつあ道理もっともだ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主家を案じるのは道理もっともであるが、夜詣りをするようになってから、彼は決して供を連れて行かないということが妻の注意をひいた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大人おとな玩弄おもちゃには持って来いのように出来ているものであるから、西洋人の眼にそれが珍奇に見えて購買慾をそそられたのは道理もっとものことと思われる。
「挙式前のお話に、春子が百パーセントまで嫁入先の人にはなり切れないと申したのです。私も道理もっともと思って、九十パーセント丈けにお願い致しました」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
両親も聞いて見れば成る程道理もっともですから、一つは濃紅姫の可愛さと親の贔負目ひいきめで、やっとの事それにめて両親揃って濃紅姫のへやへ相談に出かけました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「ああ!」とゴットフリートは平気で言った、「そりゃ道理もっともに違いない。あの人はたいへん学者だ。音楽に通じてる。ところがおれは音楽をよく知らないんだ。」
御心みこころ安く思召おぼしめせ、と七国のいにしえを引きてこたうれば、太孫は子澄が答を、げに道理もっともなりと信じたまいぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「なるほど世の中は忙しいや。呑気なのは俺一人かも知れない。お久の云うのも道理もっともだ。だが、俺には全く何の当もないんだからな。当がないのに急げったって……。」
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
とじろりと見ますれば、お座なりで言われているとは存じませぬ海上渡さん、熱心に花里の言葉をきいていらッしたが、道理もっともとお思召したやら、うなずいておいでになるはしめたと
「うんにゃ、道理もっともじゃ。おらも阿弥陀仏より、御開山より、娘の顔が見たいぞいの。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道理もっともです。これを読んでもらいましょう。」
まことに道理もっとものことであるから、なんとかしてやろうと請け合っておいて、村の重立った者にそれを相談すると、誰も彼も首をかしげた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私も傍で聞いておって、なるほど、ベンケイのいう所至極道理もっともであると思わぬわけに行きませんで、よく、先方の意味が了解された気がしました。
此方が相手にならなくってもこの通りだから、お母さんが来ると半日仕事になるのも道理もっともだと思った。幸いそこへ三輪さんが帰って来たので、僕は助かった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あなたのおっしゃるのは道理もっともです。私はもう若々しくはありません。私は疲れております。あなたのようにごく強い者でないと、生活にり減らされるのです……。
将来どれ位、実地の参考になるか知れん……という註文を受けましたものですから、まことに道理もっとも千万と思いまして、実は御相談に伺った次第ですが……如何いかがでしょうか。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
親方がやさし過ぎるので増長した謀反人め、謀反人も明智あけちのようなは道理もっともだと伯龍はくりゅうが講釈しましたがあいつのようなは大悪無道ぶどう、親方はいつのっそりの頭を鉄扇でちました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでもまだ人形はきませんでした。かないのも道理もっともです。人形の中のさるは、たぬきき声を知らなかったのです。甚兵衛はそんなこととは気づかないで、三くりかえしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)