のが)” の例文
「この難場をのがれることができるなら、これ以上おやじやおふくろを泣かせたかあねえさ、本当のところせっぱ詰ってるんだから」
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
う云う時勢であるから、私はただ一身をつつしんでドウでもしてわざわいのがれさえすればいと云うことに心掛けて居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
宮はこの散歩の間につとめて気をたひらげ、色ををさめて、ともかくも人目をのがれんと計れるなり。されどもこは酒をぬすみて酔はざらんと欲するにおなじかるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
若し運悪く現場を誰かに見られたとしても、そんな場所であれば、鳥かけだものか、何かを射とうとして誤って殺したとでも何とでも言いのがれるみちがあるのです。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
されば彼等の仲間にて、賤しき限りなる業に墮ちぬは稀なりとぞいふなる。エリスがこれをのがれしは、おとなしき性質と、剛氣ある父の守護とに依りてなり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
主人の蔭多き大柳樹の下にありて、あつらへし朝餉あさげの支度する間に、我等はこの烟煤えんばいの窟をのがれ、古祠ふるほこらを見に往くことゝしたり。委它いだたる細徑は荊榛けいしんの間に通ぜり。
大正二年「みみずのたはこと」の出版をさながらのきっかけに、日一日、歩一歩、私は死に近づいて来ました。死にたくない。のがれたい、私は随分もがきました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「では君は、君が犯人でないと言う証拠を提出しない限り当面の容疑者たらざるを得ない。又池内君は、完全なるアリバイがない限り、又被疑者たるをのがれないだろう」
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
其は知らねど、政治小説でも書く人ならば、見のがすまじきシーンなるべしと思ひたりき。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
假令たとひ監視かんしからのがれてをんな接近せつきんしたとしても、んだをんなじやうこはければ蛸壺たこつぼたこだまされるやうにころりとおと工夫くふうのつくまではをとこ忍耐にんたいむし危險きけんとをあわせてしのがねばらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
祖「エーイ黙れ、確かの証拠あって知る事だ、天命のがれ難い、さすぐにまいれ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三膳出しましたといって、かえってこの男をあやしんだ、ここおいてこの男は主人の妻子が付纏つきまとって、こんな不思議を見せるのだと思い、とてのがれぬと観念した、自訴じそせんととっえす途上捕縛ほばくされて
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「明朝になればできるんだが……」と私は当座のがれを言う。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
それにしても辛いことです、怠惰をのがれるすべがない!
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
身をもだえながら、その夢からのがれようとして、思わず叫んだ。その声で眼はさめたが、同時に自分が誰かに抱かれているのを知った。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つひには溜息ためいききてその目を閉づれば、片寝にめるおもて内向うちむけて、すその寒さをわびしげに身動みうごきしたりしが、なほ底止無そこひなき思のふちは彼を沈めてのがさざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されば彼等の仲間にて、いやしき限りなる業にちぬはまれなりとぞいふなる。エリスがこれをのがれしは、おとなしき性質と、剛気ある父の守護とに依りてなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人々は我齡を算へ、我がためにさでかなはぬ事を商量したり。その何事なるかは知らねど、善きことにはあらず。奈何いかにしてこゝをばのがれむ。われは穉心をさなごころにあらん限りの智慧を絞り出しつ。
野武士のぶしのポチは郎等のデカとなって、犬相が大に良くなった。其かわり以前の強味はなくなった。富国強兵兎角両立し難いものとあって、デカが柔和に即ちよわくなったのものがれぬ処であろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よき機会があり、それをのがさなければ、それは重要な価値を生ずる。ことによれば、雅楽頭を取って押えることができるかもしれない。
赤坂氷川あかさかひかわほとりに写真の御前ごぜんと言へば知らぬ者無く、にこの殿のづるに写真機械を車に積みてしたがへざることあらざれば、おのづから人目をのがれず、かかる異名いみようは呼るるにぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
玄機はのがるべからざる規律のもとにこれを修すること一年余にして忽然こつぜん悟入する所があった。玄機は真に女子になって、李の林亭にいた日に知らなかった事を知った。これが咸通二年の春の事である。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
素姓を隠して、こんな山の中へのがれて来て、ひっそりと病を養っている、訪ねて来る者もないらしい、家族なども有るのか無いのか。……
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おみきは二人を出してやったあと、むだな思案からのがれるため、仕事に没頭した、そしてそこへ、その男がたずねて来たのだ。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
利き腕を掴まれた侍はじたばたするが、どうしても伊兵衛の手からのがれることができない。これを見てれの四人は怒って
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いっときのがれに云ったまでであるが、するとその日の午後、もう陽が傾きかけたじぶんに、野だての席へ足助がやって来た。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
右のように周到な手順と力闘の労によって、私たちはようやく一本のビールと食事だけで難をのがれることができた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
右のように周到な手順と力闘の労によって、私たちはようやく一本のビールと食事だけで難をのがれることができた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小次郎が神童と云われて、どんなに人々の賞讃を集めるとしても、宗利に受けた恩典からのがれることはできない。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それはのがれることのできないものですか」と主水が初めて口をきった、「なにか逭れる方法はないのですか」
汐の退くときに汐が退くことをど忘れして、気がついてみると干潟の中の汐溜りに残されてしまい、そこからのがれ出ようとしていたずらにあばけるのだという。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「待て」と主計は云った、「おれはまる腰だ、そうでなくともこれだけの人数ではのがれることはできない、みれんなまねはしないからおれの云うことを聞いてくれ」
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「もしも貴女が、柿崎どのの手からのがれて、平安な暮しにはいりたいと思うなら」と玄四郎が云った。
「この機をのがしてはならない」と安芸は続けた、「酒井侯に対立する勢力があって、そのため評定が中途半端にされたり、ごまかして遷延せんえんされたりしてはならない、 ...
「きさまは黙れ、中の者に用があるのだ」と同心態の男はどなり返し、ふところから朱房の十手を出した、「もはやのがれぬぞ、紬屋藤吉、てまをかけずに出てまいれ」
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうすればこの苦しみからのがれられる、でもそうしたらお母上はどうなさるだろう、あんなによろこんでいらっしゃるお母上はどうあそばすか、……云ってはならない
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お下屋敷へ伺候したときのことです、幸い供の者と、良源院どのの機転で、危ういところをのがれましたが、その人間がなぜ私を刺そうとしたか、おわかりでしょうか」
泣こうと喚こうとのがれるすべのないことは三歳の童でも知って居りましょう、多少なり御国のために働くほどの者が、其の場に臨んで、命が惜しくて泣くと思召しますか
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんなにまで清七と夫婦になりたいというのか、本心からそう望んでいるのか、それともまた清七と夫婦になることで、なにか面倒なことからのがれるつもりではないのか。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
船岡はいま家中からにらまれており、いかなる動静もその注目からのがれることはできません、また、一ノ関さまについてどう陳弁するかは、船岡がよく心得ていると存じます。
そのこと自身には意味がなくとも、それをのがさずにあじわう、という気持は大切なのだ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だがどんな幸福も決して永遠ではない、人間は不幸や悲嘆からのがれることはできない。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私にしても、仮にふところがもっとあたたかであったら、容易にかれらの手からのがれがたかったろうと思う。人は黄白こうはくの前には、しばしば恥を忍んで屈しなければならないものだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私にしても、仮にふところがもっとあたたかであったら、容易にかれらの手からのがれがたかったろうと思う。人は黄白こうはくの前には、しばしば恥を忍んで屈しなければならないものだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「事が危なくなったので、御自分だけ身をのがれて、安楽に暮そうと仰しゃるのですか」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どんな幸福も永遠ではない、たしかなのは人間が不幸や悲しみを背負っているということだ。多くの史書が証明しているとおり、誰一人としてそれをのがれることができないということだ。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「七人と一人では」と又三郎は頭を垂れて云った、「……とうていのがれるみちは」
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
殆んど世間を知らず、十六といってもおくてのわたくしには、ただもうあの方がおそろしく、あの方からのがれるためには、死ぬよりほかにみちはない、としか考えられなかったのだと思う。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その胸のむかつきからのがれるように、十兵衛のようすを診よう、と彼は云った。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たまたまそうでなく、二人だけ特に親しいとか、水道端のパーティーを好まないような者がいれば、「おへんじん」とか「おきちさん」などという悪評からのがれるすべはないのであった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)