追従ついしょう)” の例文
旧字:追從
されど軽卒にあちらへ行ってはお追従ついしょうをいい、こちらへ来ては体裁能くやっている小才子を以て、教育の目的を遂げた者とはいわぬ。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「これは改まった……御貴殿の御分別は城内一と……ハハ……追従ついしょうでは御座らぬ。それに上越うえこす知恵なぞはトテモ拙者に……ハハ……」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わしはあの吉助きちすけが心からきらいなのだ。腹の悪いくせにお追従ついしょうを使って。この春だってそ知らぬ顔でうちの田地の境界をせばめていたのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
主人の僧は先客があってもその上にどうかしてこの連中を泊めようとして、道に出て頭をきながら、ひょこひょこと追従ついしょうをしていた。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私の方でも一遍切り出したからにはお世辞やお追従ついしょうで申してるわけではございませんから、いかがです、越前屋さん、もう五円色を
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
祖父はいつまでも立止って、低くお辞儀をし、やたらに追従ついしょう的なお世辞を並べたてた。子供はそれを見て、なぜともなく顔を赤くした。
「お追従ついしょうは止して下さい。ひとりの姜維を得たとて、街亭の大敗はおぎなえません。いわんや失った蜀兵をや。へつらいは軍中の禁物です」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはそうだろうが、いつぞやも申したとおり、私立中学校は玉石混淆ぎょくせきこんこうです。無礼を働くものがあると追従ついしょう以上にめいわくいたします」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私が大金持になった時には、世辞も追従ついしょうもしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。やさしい顔さえもして見せはしません。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そのような武将のかぶり物を折りまするは、わたくしの職のほまれでござりまする」と、千枝太郎は追従ついしょうでもないらしく言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
追従ついしょうを並べていないが、大塩中斎あたりが、雪はきよし聖君立旗の野、風はなまぐさ豎子じゅし山を走るの路なんぞとお太鼓を叩いているのが心外じゃ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最初わたしは彼をほんとうに怒らせたかと思ったが、彼は怒りをおさえて再び腰をおろして、ほとんど追従ついしょうに近い様子でわたしの腕をとった。
「全部読んだよ。面白かった。つくしって、いいひとだね。僕は、好きになっちゃった。」心にもない、あさはかなお追従ついしょうばかり言っている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
はい、はい、いえ、御坊様の前で申しましては、お追従ついしょうのようでござりますが、仏様は御方便、難有ありがたいことでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近所の碁会所ごかいしょのようになっている土蔵裏の二階で追従ついしょうたらたらの手代とでもこっそり碁の手合わせをしているほうがどんなにましだったか解らない。
だが、この渡世を知って夫婦になったんでござんしょうからむだなお追従ついしょうは抜きにしておきます。ご免なすっておくんなさいまし。(入口から出て行く)
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「では、貴殿のところへだけ参ってごきげん取り結ぶために、ひとつおせじを使いますかな。お追従ついしょうを申しておくと、これからさき憎まれますまいからな」
追従ついしょうとおべんちゃらに馴らされてマイルドになった頭には、なんのことやら、よくのみこめないふうだった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あの美しい夫人は、彼女を囲む阿諛あゆ追従ついしょうや甘言や、戯恋に倦き/\しているのかも知れない。実際彼女は純真な男性を、心から求めているかも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
格太郎は、それがいたいけな子供の精一杯の追従ついしょうの様な気がして、涙ぐましいいじらしさと、同時に自分自身に対する不快とを感じないではいられなかった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ、彼は、上級生の一寸ちょっとした冗談をさも面白そうに笑ったりする私達の態度の中に「卑屈な追従ついしょう」を見出して、それを苦々しく思っているに違いないのだ。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「おのぶのことだよ」と棒立ちになった男が、まだ右手を振りながら、追従ついしょうするような口ぶりで答えた、「すみよしにいるおのぶだ、そう云えばわかるだろう」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ことによると、実は自分自身の中にも、そういうふうに外国人に追従ついしょうを売るようなさもしい情け無い弱点があるのを、平素は自分で無理にごまかし押しかくしている。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かくて、女性がこれぞと思う作家にねらいをつけて、これをサロンに手なずけておこうという段になると、彼女はお世辞、お愛想、お追従ついしょうの限りをつくして包囲攻撃を加える
決して心にもない世辞せじ追従ついしょうをいうて他を傲慢ごうまんならしめる必要を感ぜぬごとく、両方が一致して対等の位地を保ちながら、ともに国のために力をつくしているように見受ける。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
追従ついしょうと暗中飛躍と賄賂わいろとがあまりによくくのに愛想をつかして、隠退する者が多くあった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
もうお得意の追従ついしょう口を、こう利きながら鬼火の姥は、さらにいっそうあおるように云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
公卿たちは、自分の身に直接関わりのないことなので口々に勝手な追従ついしょうをいっていた。
追従ついしょう、暗闘、——それから事務員某の醜悪見るに堪えないかっぽれ踊り、それから、そうだ、間もなく誰かと何かしきりにののしり合ってあげくの果てがなぐり合いとなり、さら類のこわれる音
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「日本ラインという名称は感心しないね、卑下と追従ついしょうと生ハイカラはしてもらいたいな。毛唐けとうがライン川をドイツの木曾川とも蘇川そせん峡とも呼ばないかぎりはね。おはずかしいじゃないか」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ののしりながら軒先へ出て来た店の者は、軍曹の姿に慌てて追従ついしょう笑いをした。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
まるできつねみたいに狡そうに肩をすりながら、彼女のそばへ寄って行って、彼女の掛けている椅子いすの背に、伊達だて格好かっこうをしてもたれかかり、さも得意げな、追従ついしょうたらたらの薄笑うすわらいをうかべながら
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
亭主の弥助は、額を叩いて追従ついしょうらしく深々とお辞儀をしております。
とお追従ついしょう笑いをされまして、新しく、煙管を吸いつけられました。
と、顔には追従ついしょう笑いをうかべて、心にはさげすむ長崎屋三郎兵衛
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
趙が、ありったけの追従ついしょう笑いをしながらいった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
(歩み寄り、メフィストフェレスに追従ついしょうす。)
聞こえよがしのお追従ついしょうを言った。
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
五歳いつつになるよしが追従ついしょうした。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そしてだれも皆、印象派の画を集め、頽廃たいはい派の書物を読み、彼らの思想とは大敵である極端に貴族的な芸術を、追従ついしょう的に味わっていた。
「むだな追従ついしょう、いくら賞めても、おれの眼にとまったからには、生かして帰すわけにはゆかん。——この国境を生きてもどる気か」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに大尽の力を以てしても、雇人たちの追従ついしょうを以てしても、病気ばかりは医者の手を借らなければならないのであります。
小桶こおけ玉網たもを持ち添えてちょこちょこと店へやって来て、金魚屋の番頭にやたらにお辞儀をしてお追従ついしょう笑いなどしている。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
俊寛 (ふすまを地になげうつ)わしはあなたを友とは思わぬ。早くみやこに帰るがいい。そして自分の敵に追従ついしょうするがいい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
幾分はお追従ついしょうもまじっているであろうが、若旦那の勘平をぜひ拝見したいというので、この前の幕があく頃から遅れ馳せの見物人がだんだんに詰めかけて来た。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とたんに「や! この女は!」という色が文次の表情かおにゆらいだが、たちまち追従ついしょう笑いとともに、文次は米つき飛蝗ばったのように二、三度首を縮めておじぎをした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
追従ついしょうするような笑いに、一種の皮肉なものが感じられた。それから約半年、おれは「すばらしい花」という言葉をそのまま信じ、藩主はんしゅ参覲さんきんの供で江戸へいった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ああ、いや、追従ついしょうとばかし思うまい。わしのこの心が物を選りわくる主となって、人の性をく見別くるようになってからは、おぬしに無上という印をした」
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つちで庭掃く追従ついしょうならで、手をもて畳を掃くは真実まこと。美人は新仏しんぼとけの身辺に坐りて、死顔を恐怖こわごわのぞ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明智のするどい眼ににらみつけられて、虎男はオドオドしながら、また例のお追従ついしょう笑いをした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)