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赭土
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あかつち
ふりがな文庫
“
赭土
(
あかつち
)” の例文
彼は
起
(
た
)
ちあがって
中敷
(
ちゅうじき
)
の障子を体の出られるぐらいに開け、そこからそっと庭へおりて、
裸足
(
はだし
)
のままで冷びえした
赭土
(
あかつち
)
を踏んで往った。
岐阜提灯
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
濡れた
赭土
(
あかつち
)
の盛られたそばで、下水工事の人夫達が路傍に炭をおこして
鰯
(
いわし
)
を焼いていた。そのまま塩を振りかけてお弁当に食べるのだ。
踊る地平線:08 しっぷ・あほうい!
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
向うは傾斜の急な山腹で、杉林がずっと上のほうまで繁っているが、ひとところ大きく崩れて、
赭土
(
あかつち
)
の
剥
(
む
)
きだしになっている処があった。
似而非物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
バラスが十分入れられていない
赭土
(
あかつち
)
道が、乱暴なトラックの往来で幾条も車軸がめりこむほどの深さにほじくりかえされている。
播州平野
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
ぐいと抜きとりながらあたりを見まわすと、河原をはじめ、町へ登りになっている低い
赭土
(
あかつち
)
の小みちにも、誰ひとり、人影はありません。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
▼ もっと見る
母親は叔父の着換えなどを、そっと奥から取り出して来て、そこへ脱ぎ棄てられた白足袋の
赭土
(
あかつち
)
を、早速
刷毛
(
はけ
)
で落しなどした。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
低い堤に立って見おろすと、流れはずいぶん急で、堤の
赭土
(
あかつち
)
を食いかきながら、白く濁った泡をふいて
轟々
(
ごうごう
)
と落ちて行った。
麻畑の一夜
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
肥料は明後日間違いなしに全部届けるからと自転車に乗りながら云って、飛び乗ると、今度は下りばかりで、
赭土
(
あかつち
)
の道を砂煙をあげて疾走し出した。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
そこは
赭土
(
あかつち
)
のくずれを見せた崖近くだった。どうっと、
逞
(
たくま
)
しい甲冑の全体と、
棹立
(
さおだ
)
ちの馬の影とが、
濛々
(
もうもう
)
、土けむりにつつまれたのを見たとき、兵助は早や
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
澄んだ山の陽ざしは
赭土
(
あかつち
)
色のグラウンドいっぱいに溢れきっており、それはそのままの明るさで、そこに集ってきている子供や、その家族たちやの胸のなかに射しこんできた。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
イベットはもともと南欧ラテン民族の抜ける様な白い
額
(
ひたい
)
から頬へかけうっすり素焼の
赭土
(
あかつち
)
色を帯びた下ぶくれの
瓜実顔
(
うりざねがお
)
を持つ女なのだが彼女が斯うした無心の態度に入る時には
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
へどろの
赭土
(
あかつち
)
を
洒
(
さら
)
して、洒し尽して何の濁りも立てずに、浅く走つて行く水は、時々ものに
堰
(
せ
)
かれて、ぎらりぎらりと
柄
(
がら
)
になく
閃
(
ひらめ
)
いたり、さうかと思ふと
縮緬
(
ちりめん
)
の
皺
(
しわ
)
のやうに繊細に
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
予は人の葬を送って墓穴に臨んだ時、遺族の少年男女の優しい手が、
浄
(
きよ
)
い
赭土
(
あかつち
)
をぼろぼろと穴の中に
翻
(
こぼ
)
すのを見て、地下の客がいかにも
軟
(
やわらか
)
な暖な感を作すであろうと思ったことがある。
鴎外漁史とは誰ぞ
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
だらだら坂になっているアカシア並木の
赭土
(
あかつち
)
の途を揺られながら、ペル・ヸュウ村の木立の上に風車の廻っているロダンさんの粗末なお宅につくと、薔薇園の木戸口に肉体の彫刻的に締った
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
夕ばえの明るさが燃え立つような赤さであった。しかし、
赭土
(
あかつち
)
色に染めだされた彼らの顔の半分は暗い蔭にかくれていた。ほーッと誰かが
溜息
(
ためいき
)
を吐いた。すると堀はあごをしゃくって云った。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
鉄道線路の
高土堤
(
たかどて
)
が町
端
(
はず
)
れの畑の中を走っていた。さながら町の北側に立ち回した緑色の
屏風
(
びょうぶ
)
だった。長い緑の土堤には晩春の陽光がいっぱいに当たっていた。その下は土を取った
赭土
(
あかつち
)
の窪地。
汽笛
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
すぐ眼の前に隣家の小さな土蔵が見え、屋根近くその白壁の一ところが
剥脱
(
はくだつ
)
していて
粗
(
あら
)
い
赭土
(
あかつち
)
を露出させた寂しい眺めが、——そういう
些細
(
ささい
)
な部分だけが、昔ながらの面影を
湛
(
たた
)
えているようであった。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
二勺より路は
黒鉄
(
くろがね
)
を鍛へたる如く、天の一方より急斜して、
爛沙
(
らんさ
)
、
焦石
(
せうせき
)
、
截々
(
せつ/\
)
、風の
噪
(
さわ
)
ぐ音して人と伴ひ落下す、
偶
(
たまた
)
ま雲を破りて額上
微
(
かす
)
かに見るところの宝永山の
赭土
(
あかつち
)
より、冷乳の
缸
(
かめ
)
を傾けたる如く
霧の不二、月の不二
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
赭土
(
あかつち
)
の多い丘陵地方の
定本青猫:01 定本青猫
(旧字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
向うは
赭土
(
あかつち
)
の
崖
(
がけ
)
で、庭は右へと広くなっているが、ここからの眺めは、ひと
跨
(
また
)
ぎの芝生と、鼻につかえそうな崖であった。
山彦乙女
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
緑樹に挟まれた
赭土
(
あかつち
)
の道が、長く一ぽん私達の前に伸びて、いたるところに新式の農園が拓かれつつあるのを見る。古い土に若い力が感じられる。
踊る地平線:12 海のモザイク
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
街燈一つないその
路
(
みち
)
は曲りくねっているので、一歩あやまれば
転
(
ころ
)
がって
尻端折
(
しりはしょり
)
にしている
単衣
(
ひとえもの
)
を
赭土
(
あかつち
)
だらけにするか
馬の顔
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
同体になって、
赭土
(
あかつち
)
の上を転がり合った。——と思うまに、崖の下へ、そのまま廻転して行った。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
麻袋の中には
赭土
(
あかつち
)
色をした
粉薬
(
こなぐすり
)
のようなものが貯えてあって、まず蛇の来る前路にその粉薬を一文字にふりまく。それから四、五間ほど引下がったところにまた振りまく。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
赭土
(
あかつち
)
の中にころがった大小さまざまの西瓜は
埃
(
ほこり
)
にまみれて
禿
(
は
)
げたような青い色を
晒
(
さら
)
している。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
雨上りの日で、そこらあたりはサヨの靴が吸いとられそうに
赭土
(
あかつち
)
が
泥濘
(
ぬか
)
っているのである。
朝の風
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
山はどこも
彼処
(
かしこ
)
も
咽
(
むせ
)
かえるような若葉が
鬱蒼
(
うっそう
)
としていた。
痩
(
や
)
せた
菜花
(
なたね
)
の咲いているところがあったり、
赭土
(
あかつち
)
の多い
禿山
(
はげやま
)
の蔭に、瀬戸物を焼いている
竈
(
かまど
)
の煙が、ほのぼのと立昇っていたりした。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
その緩い坂を登りつめてしまえば、大震災の当時の市区改正のため築山のうしろは断ち切られた
俄崖
(
にわかがけ
)
になり、見下ろす崖の肌にも寒竹の根や灌木の根が瓦石と混って
赭土
(
あかつち
)
の断面にむくじり出ています。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そこは
赭土
(
あかつち
)
に雑草がまばらに枯れているだけで、なにも変ったようすはなかったが、彼はその前にしゃがみこんで、じっと赭土の一点を見まもった。
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
二丁ばかりも往くともう左側に耕地がなくなって松原の
赭土
(
あかつち
)
の台地が来た。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
ざらざら……と、老先生の足もとへ、崖の
赭土
(
あかつち
)
がくずれて来た。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
片側は低い
赭土
(
あかつち
)
の崖、片側は
藪
(
やぶ
)
で、長いこと人が住んでいなかったのだろう、夏草の茂った中に、踏みつけ道が一と筋、赭土の崖のほうから空地へ通じている。
失蝶記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
土の
上
(
うわ
)
っ
面
(
つら
)
を
断
(
き
)
り
執
(
と
)
った
赭土
(
あかつち
)
の肌の見えている処では、草は短くなってそこでは路があっちこっちに乱れていた。
傍視
(
わきめ
)
も
揮
(
ふ
)
らずに一心になって草の路を追っている菊江の耳に物の気配がした。
女の怪異
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
雑木林の端が、切崩された
崖
(
がけ
)
になっており、その下の裸な
赭土
(
あかつち
)
の空地で、一人の老人が土を掘っていた。
若き日の摂津守
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
どこへいっても丘はむざんに切り崩され、皮を剥がれた人間の肌のように、
赭土
(
あかつち
)
や岩が裸になっている。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
どこへいっても丘はむざんに切り崩され、皮を剥がれた人間の
肌
(
はだ
)
のように、
赭土
(
あかつち
)
や岩が裸になっている。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼は唇を
歪
(
ゆが
)
めた。幾曲りかすると、もう道にも石は敷いてない。下駄の歯の跡の付いた、裸の
赭土
(
あかつち
)
つづきで、安い線香と土の、気のめいるような匂いが漂っていた。
夕靄の中
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
田原家のある竹坂というのは町名で、実際には坂というほどの
勾配
(
こうばい
)
はないのだが、そのゆるやかな坂道は
赭土
(
あかつち
)
なので、ちょっと雨が降ってもひどいぬかるみになる。
その木戸を通って
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
勾配
(
こうばい
)
はゆるやかであるが、
赭土
(
あかつち
)
のその道は霜柱が立っていて、浮いた土が
雪駄
(
せった
)
の裏にねばり着くため、歩くのにひどく骨が折れた。初めに左へ登り、次に右へ登る。
霜柱
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
赭土
(
あかつち
)
まじりの地面に、ところどころ草が生えているのは、老衰して毛の抜けた犬の横腹のようであり、見る限り石ころや欠け茶碗や、あき
罐
(
かん
)
や
紙屑
(
かみくず
)
のちらばっている中に、ひねこびた
櫟
(
くぬぎ
)
が五
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
台地のゆるい傾斜を登りきると、そこは
赭土
(
あかつち
)
の
崖
(
がけ
)
になっていた。高さは三十尺ばかり、
断崖
(
だんがい
)
というほどではなく、下は枯木林で、向うに寺院のような建物が見えた。休之助は崖をとびおりた。
風流太平記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
杉林はいうまでもなく、植込はみな勝手なほうへ枝を伸ばしているし、池は干あがって
塵芥
(
ちりあくた
)
が
溜
(
た
)
まっているし、築山は去年の霜と雪で一部が崩れ、皮の
剥
(
は
)
げた
傷痕
(
きずあと
)
のように
赭土
(
あかつち
)
の肌が見えていた。
あだこ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
老人は顔面を
赭土
(
あかつち
)
色にし、歯をくいしめたまま
鄭重
(
ていちょう
)
に云った。
思い違い物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
赭
漢検1級
部首:⾚
16画
土
常用漢字
小1
部首:⼟
3画
“赭土”で始まる語句
赭土色
赭土山
赭土丘
赭土塊
赭土庭
赭土褐砂