賞翫しょうがん)” の例文
○立ち廻りとか、だんまりとか号するものは、前後の筋に関係なき、独立したる体操、もしくは滑稽踊こっけいおどりとして賞翫しょうがんされているらしい。
この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その末段にいわく、アンドラの王は臣民の新婦を最初に賞翫しょうがんする権利あり。ヴァツアグルマ民の俗、大臣の妻、夜間、王に奉仕す。
食物に対した時は外の事を考えないで食物の味を賞翫しょうがんする事の出来る人がその心に綽々しゃくしゃくたる余裕もあるので真の英雄豪傑と言うべきだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
道阿弥の首を賞翫しょうがんしながら、若夫婦が蚊帳かやの中の寝床でさかずきの遣り取りをするのも、草双紙の趣向にもありそうなことである。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
一口も賞翫しょうがんしたことがねえんでございます、宮重大根みやしげだいこんの太った白いところの風味は、また格別だってえ話じゃありませんか。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然しトルストイは理想を賞翫しょうがんして生涯をおわる理想家で無い、トルストイは一切の執着しゅうちゃく煩悩ぼんのうを軽々にすべける木石人で無い
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
道阿弥の首を賞翫しょうがんしながら、若夫婦が蚊帳かやの中の寝床でさかずきの遣り取りをするのも、草双紙の趣向にもありそうなことである。
和歌を父母として生まれた俳句にも自然この初音という文字が踏襲され賞翫しょうがんの意味がそのうちに含まれていることも争われない事実であります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
仮小屋かりごやまくうちまたは青空の下で、賞翫しょうがんする場合のほうが昔から多く、それはまたわたしたちの親々の、なにか変った仕事をする日でもあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこでまあ、食味のことは巣を採ってから、お互いに賞翫しょうがんすることにして、食うことよりも巣を発見するまでが面白い。
採峰徘菌愚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
単に一種の変り物を賞翫しょうがんするような心持ちで自分をもてあそぼうというに過ぎないことも、お絹にはよく見透かされた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも今世の仏法修行者は、世人の賞翫しょうがんする所であれば非道と知る時にもなお修行する。世人の讃嘆しないものは、正道と知る時にも棄てて修しない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その代りに当時はマダ大学生であった佐々醒雪さっさせいせつ笹川臨風ささかわりんぷう田岡嶺雲たおかれいうんというような面々がしばしば緑雨のお客さんとなって「いろは」の団子を賞翫しょうがんした。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「まずあの女もこっちのものだ。生身なまみ賞翫しょうがんした上に、いや応なしに献金させる。悪くないなア、おれの商売は」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桑の実の味はあまり世人に賞翫しょうがんされぬのであるが、その旨さ加減は他にくらべる者もないほどよい味である。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
先方ではそれを一年作って、さらにその大きさを増さしめ、そして次年じねんいきおいよく花を咲かせてその花を賞翫しょうがんする。花が咲いた後、弱った球根は捨ててかえりみない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
岡は上手じょうずに入れられた甘露かんろをすすり終わったちゃわんを手の先にえて綿密にその作りを賞翫しょうがんしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただ月に対するのみで満足せず、月光のうつるのを賞翫しょうがんするすさびらしい。月光を受けた塗団扇は銀扇ほど美しくはないが、月を受けて光る点だけは普通の団扇と違う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
前の庭の木立ちだけは春らしく見えて、咲いた紅梅なども賞翫しょうがんする人のないのをながめて
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「うまいものですね。どこも直す事が出来ません。」と言いながら、なお仔細しさいらしくその娘の文章を賞翫しょうがんするのである。何でもそれは、こんな工合の何の奇もない文章であった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「武芸の師と、自ら言われる方々が、それだけ押し並んで、子供ばかりを挨拶に出されるとは何ごと? 折角せっかくのお招き、雪之丞、お太刀たちすじが賞翫しょうがんいたしとうござります。いざ!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「——で、急に君と、その小梅の実を煮て賞翫しょうがんしながら、一酌くみ交わしたいものと思い出したわけなんだ。まあ来たまえ。梅林を逍遥しょうようしながら、設けの宴席へ、予が案内するから」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
微力ではありますが、古陶作家の心構えを第一に窺いそれらを賞翫しょうがんする古人今日の動向を察し自己の信念と器学に於て相合する点を作陶の心として、十年一日の如く作陶してまいりました。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
いずれ大家の女隠居などが、ふたを開けてにこにこ顔で賞翫しょうがんしたらしい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
なに? すがすがしくも散る? 僕——わしはそう思うがね、花でも何でも日本人はあまり散るのを賞翫しょうがんするが、それも潔白でいいが、過ぎるとよくないね。戦争いくさでも早く討死うちじにする方が負けだよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
嬉気うれしげ賞翫しょうがんしながら彼もきたるを我にるゝおかしさ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此の節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたく目玉めだまなどはつひに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさへ、世にもまれな珍味と聞く。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
局部局部を断片的に賞翫しょうがんすればよいという説——二宮君のような説ですが、まあその説に同意してみたらどんなものでしょう。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しきりに語る側で小山の妻君梅干の煮たるを賞翫しょうがんし「お登和さん、これはどうしてお煮なさいます」と先ずその料理法を問う。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
草津の町の名代のうばもちに足をとめて、しきりにお砂糖を利かせた姥ヶ餅を賞翫しょうがんしているところの一行がありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一刻も早く狸肉に接して、その漿しょう賞翫しょうがんしたいと思っているのだが、なかなか本ものが出てこないのである。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
軽焼の後身の風船霰ふうせんあられでさえこの頃は忘られてるので、場末の駄菓子屋にだって滅多に軽焼を見掛けない。が、昔は江戸の名物の一つとして頗る賞翫しょうがんされたものだ。
句意は世の中の有為転変ういてんぺんなるは桜花の少しの間に咲き満ちたると同じとなり。誰にもく分る句にてしかも理想を含みたれば世人には賞翫しょうがんせらるるものと覚えたり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
(織江は柱へくくりつけてある。逃げようとしても逃げられない。賞翫しょうがんはゆるゆるすることにしよう)
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、にわかに自分たちの寝床をその部屋へ運ばせ、夫婦で道阿弥の赤鼻を賞翫しょうがんしながら眠りについた。
一般の観客はやはり生きた俳優を通してその情味を賞翫しょうがんしたいように思っているらしい。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支那や後インドで蚺蛇肉ぜんじゃにく賞翫しょうがんし、その胆を薬用する事は本篇の初回に述べた。プリニウス言う、エチオピアの長生人マクロビイアトス山の住民等蝮を常食とし、しらみ生ぜず四百歳の寿を保つと。
では、一つ関東風の、鋭い切っ先きというものを、今夜は充分に賞翫しょうがんして見ようか?
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
京都や奈良でこそすでに足利期の末頃から、珍しい形の盆燈籠の、貴人の間に賞翫しょうがんせられたことが見えているが、それを地方に住む者が利用し得たのは、また大分後のことでなくてはならぬ。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これが特に秋の空の澄み渡るのを賞翫しょうがんするのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
賞翫しょうがんした。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分の胃の状況から察すると、芋中いもちゅうのヽヽとも云わるべきこの御薩おさつを快よく賞翫しょうがんする食欲は十分有ったように思う。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いささか、あやかしがついていて、一層寂れた。くわえたあゆは、殺生ながら賞翫しょうがんしても、獺の抱えた岩魚は、色恋といえども気味が悪かったものらしい。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一刻も早く狸肉に接して、その漿しょう賞翫しょうがんしたいと思つてゐるのだが、なか/\本ものが出てこないのである。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
ベースボールはもと亜米利加アメリカ合衆国の国技とも称すべきものにしてその遊技の国民一般に賞翫しょうがんせらるるはあたかも我邦わがくに相撲すもう西班牙スペイン闘牛とうぎゅうなどにも類せりとか聞きぬ。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
声の美しさとか、節のうまさとか云うような、細かい点を賞翫しょうがんする事は出来ないまでも、己は何か知ら、一種不可解な感銘に魅せられて、恍惚とせずには居られなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
噛占かみしめて益々味の出るものよりは舌の先きでめて直ぐ賞翫しょうがんされるものが読者に受ける。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
僕の家でも今日料理研究のために十余品の御馳走をこしらえているからこれを悉皆そっくり持って行ってその献立中に加えよう。第一が菓子だ。君一つこの珍菓を賞翫しょうがんしてくれ給え、今出来たてだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
牛驢の陰具を明の宮中で賞翫しょうがんした話ついでに録して、西洋通諸君の高教をつ。