よし)” の例文
彼は総理大臣になったかもしれないが、私にとってはただの芦田君で、逢えばお前仕掛で話すのも、旧友のよしみというものだろう。
しかし片岡という武士は、さすがに、同宿のよしみある浪人の悲運を、見殺しに出来ないと思ったか、夢中のように、紙帳へ斬り付けた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恩義もあるし、同宗のよしみもあるし、などと口のなかで繰り返している。それを見て、侍将じしょうのひとり劉巴りゅうはあざな子初ししょというものが
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その節は、亡父のよしみもあり、東海道愛好者としても呉々くれぐれ一臂いっぴの力を添えるよう主人に今から頼んで置くというのであった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勿論僕はいわゆる昔のよしみで今でも彼のことを気にかけてはいるが、このごろはずっとあの男にめったに会ったことがない。
そこは隣同士のよしみで、詰らんことまで一々私の所へ相談に来るようになりました。そこで私が色々と極りをつけて、智慧を貸してやる……。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
クリストフはオックスの凡庸ぼんようなことを感じてはいたが、同僚のよしみから、自分の音楽会にその作品を一つ加えたのであった。
山崎の宝寺に日頃よしみのある僧を頼って行ったが、寺から伏見へ訴え出たので、やがて検使が立ち、主人秀次と同じ七月の十五日に腹を切った。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一杯売の外には多量に分けられぬというのを、近所のよしみでと無理に頼み込んで、時々一升びんを持たせて買いに遣る。
……おい、仙波、永らくすっ恍けていやがったが、今度こそは年貢ねんぐの納めどき、昔のよしみで、この藤波友衛が曳いて行ってやる。観念してお繩をいただけ
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
持山 貧友のよしみといふやつさ。こつちは、何処でことわるのもおんなじだ。相手の顔が違ふだけさ。あたりが、馬鹿に静かになつた。おい、炭は何処にある?
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それからまた、このやうな百姓の素朴な心情によしみを求めてゐる今日のある種の教へのことなどを思つた。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
ヴィルプール国もまたその一つであったが、これらの各国王は、英政府の離間政策によって隣国とのよしみを結ぶことも許されず、印度総督ヴァイスロイの派遣する駐在官レジデント副知事レフテナント・ガヴァナー代官エイゼント等は
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
田崎と云うのは、父と同郷のよしみで、つい此のあいだから学僕がくぼくに住込んだ十六七の少年である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
何を悲しもうようもございませぬ、それで、私は友達のよしみに、せめてあの子の後生追善ごしょうついぜんを営みたいと思いまして、今夕こんせきこうやって出て参りました、私の背中をごらん下さいまし
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのよしみに頼る心持を飾りなく面にあらわして、お茂登は息子の身の上をたのんだ。
その年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたくしは連れて参ります、媒介人なこうどは有りますが、まだ結納の取替とりかわせも婚礼も致しません、只許嫁のよしみで病気中看病に遣しただけです、合せ物は離れ物だから私は上げる気は有りません
市川とねと名のっていたから、同門のよしみで、華々しく迎えたのだった。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
現にその翌日「ブル公さまへ御礼」として牛肉が二斤台所へ届いた。ブル公は善隣のよしみとして生垣の隙間から入り込み頻りに吠え立てたのである。泥棒は拵えた包を置いたまま逃げてしまった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そんな風で重吉はそれが道楽のように十年、二十年、遠くは五六十年の昔のよしみをさぐりだしては手桶やすしはんぼを配った。やりたい所は次々と出てきた。時にはわらを買ってきて飯櫃入めしびついれを作った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
厳白虎げんぱくこを捕えて、孫策に献じ、彼とよしみをむすんで、国の安全をおはかりなさい。——それが時代の方向に沿うというものです」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっさい何んのご謀反あろうぞ! ……この一点に心づかば、行動に間違いなかったであろうに! ……が、国長一族のよしみに
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次と同年配で、日頃平次の腕や人柄に推服して居る喜三郎は、十手捕繩のよしみを超えて、平次に親みを持つて居たのです。
先年当家は将軍家の御扱ひに依て薬師寺家と縁者のよしみを結び、良く水魚の交りを可致由いたすべきよし誓紙をかはし侍りしに、今度薬師寺家の滅亡を見ながら和泉守の不義不忠を其儘に捨置すておき
政「親方何にも有りませんが、一口げて兄弟同様のよしみを結びとうござりまする」
粗悪な紙に誤植だらけの印刷も結構至極と喜ぼう。それに対する粗忽千万そこつせんばんなジゥルナリズムの批評も聞こう。同業者のよしみにあんまり黙っていても悪いようなら議論のお相手もしよう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ついに兵馬の決心がここまで上りつめ、多年の仇敵に向けるやいばを、おのれには罪も恨みもない、むしろ新撰組以来のよしみのある山崎譲に向けようとする兵馬の心には、天魔が魅入みいりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
富樫 僕は、誰に頼まれたわけでもないんですが、ふるくからのよしみもあり、見るに見かねて再三忠告めいたことを云つてみたんです。全然効目きゝめがありません。丸で子供扱ひにされて駄目です。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そして二、三日のうちに、近隣のよしみによるふだんの関係から、戦争に先立つ挑発ちょうはつ的な調子に変わっていった。この状況に驚く者は、理性が世界を統べるという幻のうちに生きてる人々ばかりだった。
と卓造君は隣村のよしみで大いに推賞した。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
甲斐かいの武田信玄など、もう姻戚いんせきよしみなどは顧みていられないように、頻りと策動の気はいが見える。北条家も油断ならない存在である。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さう仰しやらずに同町内のよしみ、御面倒でもございませうが、人一人目鼻を明けてやつて下さい。なア、八、手前てめえからもよくお願ひをしな」
たとえ隣家のよしみはあろうとそれはそれこれはこれ、かりにも武士の邸内を家探ししようとは出過ぎた振る舞い! そもそも医師は長袖ながそでの身分
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われら駈落者かけおちものを捕へ候とて、さほど貴殿の御手柄になり候わけにてもあるまじく候間、何とぞ日頃のよしみにこのまゝお見逃し下されよと、たもとすがり、地にひたいり付けて頼み候様子なれど
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御返金がならなければむを得んから、旧来御懇意の君でも勧解かんかいへ持出さなければならぬが、どうも君を被告にして僕が願立ねがいたてるというのははなはだ旧友のよしみにもとるから、したくはないが
しかし日頃のよしみを以て、御辺の首は某がつないで上げたのだと、重ねて申されましたので、兵部殿は顔色を変えられ、何と云われるぞ、不肖ふしょうながら某のことを御前に於いて悪様あしざまに申すような者は
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いやすでに、前代楠木正遠が、北河内の玉櫛たまくししょうの出屋敷にあって、あの辺りの散所を支配していた頃からのよしみでおざった」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「知つてゐるの段ぢやありません。去年友達と江の島へ行つた歸り、川崎の萬年屋から使ひをやつて、旅籠代と小遣を借りましたよ。十手のよしみでね」
「司馬又助は俺の仲間、うぬらを屋敷へ引き入れたも、汝らをここへ引き出したも、仲間同志のよしみと知らぬか!」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二と及ぶ者のない名高い稻垣小左衞門が左様の横死を致したかと同流のよしみでござるゆえ誠に惜しい事をしたと思い、見ずらずの方なれども余り力が落ちましてツイ落涙をいたしました
友達のよしみに他言は致さぬ故、半分山分けに致せと申出で候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは伊勢亀山の城主で、神戸信孝に仕えていたが、つとに、よしみを秀吉に通じ、伊勢ではかくれもない“異心のある者”と見られていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今更かまいたちでも濟されず、俺も今度といふ今度はかぶとを脱いだよ。日頃のよしみ、何んとか智惠を貸してはくれまいか
伊予一円を領するところの能島大掾のしまのだいじょう清行殿こそ愚老が主君にござり申すわ! 十年以前まえ、我が君と、そなた弾正太夫殿と、同盟のよしみ結ぶにつき使者として参ったがすなわち拙者せっしゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昔馴染むかしなじみよしみもあると春見の所へ無心に参れば、打って変った愛想あいそづかし、実ににくむべきは丈助にて、それには引替え、娘おいさの慈悲深く恵んでくれた三円で重二郎は借金の目鼻を附け
忘られし恋と消失せし友のよしみと
事実、ここの太守陶謙はかねてから曹操の盛名を慕って、折あれば曹操とよしみを結びたいと思っていたが、よい機会もなかったのである。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
打つて引つ立てても、文句の出る氣づかひはねえが、十手のよしみてえのもあるから、一應錢形の親分の耳に入れて置かうと思つて、わざ/\やつて來たんだが
師弟のよしみももうこれまで、千葉道場はもちろん破門、立ち廻らば用捨ようしゃせぬぞ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「御意を伺った上でなければ、応とも否ともいえないことだ。——がしかし、同国のよしみ、和殿のことばだけはお伝えしよう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)