誹謗ひぼう)” の例文
傾き切った屋台骨を踏まえている身になってみると、いろいろの誹謗ひぼうが出るのはやむを得まい、井伊掃部頭いいかもんのかみを見てもわかることだわな
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出師すいしの不在中孔明を誹謗ひぼうしたり、根もない流説を触れまわったりしていた悪質の者数人は前から分っていたのですぐ拉致らっちされて来た。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰かがヨーゼフ・Kを誹謗ひぼうしたにちがいなかった。なぜなら、何もわるいことをしなかったのに、ある朝、逮捕されたからである。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
貪吝たんりん奢侈しゃし誹謗ひぼうの類はいずれも不徳のいちじるしきものなれども、よくこれを吟味すれば、その働きの素質において不善なるにあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
祖父が藩侯から皮肉を云われるほど庭に凝ったのは、そういう不快な、理由のない誹謗ひぼうからのがれるためだったかもしれない。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
誹謗ひぼうに抗し屈辱に堪え、或はいかり、或はもだえ、或はくやみなどしたとすれば、さしもの父も痩せずにはいなかったであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとい誹謗ひぼうされる危険を冒しても——そして誹謗されるにきまっていたが——卑怯ひきょうに隠しだてするにも及ばないと考えた。
のみならず同翁の死後といえども、同翁の生涯を誹謗ひぼうし、侮蔑する人々がすくなくないのは、更に更に情ない事実である。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
誹謗ひぼうはされても、一生楽々と暮らしうることは願わしいと処世法の要領を得た男であったから、決心をして
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それを聞いた知人で、いぶかしがらぬ者はありません。祖父があまりに頑固がんこだと誹謗ひぼうする人さえあったのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それは日華事変の起こった直後であって、キリスト教の信仰と平和思想に対し政府と国民のとった、あの狂気じみた迫害・誹謗ひぼうのまっただ中においてであった。
前にも私が往来で見かけましたように、摩利の教を誹謗ひぼうしたり、その信者を呵責かしゃくしたり致しますと、あの沙門は即座にその相手に、恐ろしい神罰を祈り下しました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小川派と南派とがそれぞれ相手を誹謗ひぼうする目的でそうした説を流したのだろう。俺が赤坂の待合へ行ったときのことを思うと、あれでは露見するのも当り前だ。……
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
無風流の誹謗ひぼうを真向から浴びせかけるというわけで、まことに苦笑禁じ得ないものばかりである。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
わが知れる人々のうちにはいかにもして我国の演劇を改良なし意味ある芸術を起さんものをと家人かじんの誤解世上の誹謗ひぼうもものかは、今になほ十年の宿志しゅくしをまげざるものあり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
当時フランス楽壇に雄飛したグノーはその取巻き一隊と共に来場し、演奏後感想を求められたのに対して、「無能な肯定——」と公言して明らかにフランクを誹謗ひぼうした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それにもかかわらず、この物語以来、彼女はヴィール夫人の弟の友達などから誹謗ひぼうされている。
陵の従弟いとこに当たる李敢りかんが太子のちょうを頼んで驕恣きょうしであることまでが、陵への誹謗ひぼうの種子になった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天下の勢を有つ者も朕なり、の富勢を以て此の尊像を造ること、事成りやすくして、心至り難し、ただし恐らくは徒らに人を労する有りてく聖を感ずる無く、或は誹謗ひぼうを生じ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
立身した人々が常に受くることになってる中傷や誹謗ひぼうなどは、初めマドレーヌ氏に対してもかなりなされたが、やがてそれらは単なる悪口になり、次ぎには単に陰口になり
一人の俳人のそれを低声に誹謗ひぼうしつつあるのを聞きながら余はうつらうつらと夢に入った。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
曾て西欧の水を飲まれた事のあるだけに「殿様風」という事がキツイおきらいと見えて、常に口を極めて御同僚方の尊大の風を御誹謗ひぼう遊ばすが、御自分は評判の気むずかし屋で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
僕はけっして神を誹謗ひぼうするわけではないよ! もしも、天上天下のものがことごとく一つの賛美の声となって、生きとし生けるものと、かつて生ありしものとが声を合わせて
ただ外見上は至極沈静端粛のていであるから、天下の凡眼はこれらの知識巨匠をもって昏睡仮死こんすいかし庸人ようじん見做みなして無用の長物とか穀潰ごくつぶしとか入らざる誹謗ひぼうの声を立てるのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不備に対して当事者を攻撃し誹謗ひぼうする事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一般読者とともにその不備を除去する方法を講究する機関となる事を心がけたいものである。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ソクラテスは容貌のみにくい人で、世人せじんが彼を誹謗ひぼうするときは、必ずこの点を指摘した。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼らは組織の圧力でブハーリンを支持し、コミンターンとコミンターンの批判を承認する同志たちを誹謗ひぼうし、フランスの党におこっているようにうりわたしさえやっていたのだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この批評家の人格の野鄙やひらさ、こせこせした誹謗ひぼうと毒舌、思いあがった冷酷な機智、一口にいえばその発散する「検事みたいな悪臭」に、チェーホフは嘔吐おうとをもよおしたのである。
秋壑はそれを聞いて、その詩を作った士人を誹謗ひぼうの罪に問うて獄につないだ。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もしいささかでも英国官吏を誹謗ひぼうする印度民衆があれば直ちにこれを讒謗律ざんぼうりつの重刑に処し、印度は殺されもせず生かされもせず牢獄のうちに閉じめられて、ただ原料と製品の消費地として
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
其の後、売薬規則の改備によって、医師の誹謗ひぼうが禁じられると、こんどは肺病全快写真を毎日掲載して、何某博士、何某医院の投薬で治らなかった病人が、川那子薬で全快した云々と書き立てた。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ダンネベルグ夫人との関係などは、実に驚くべき誹謗ひぼうです
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あはれ侮蔑ぶべつや、誹謗ひぼうをや、大凶事おほまがごと迫害せまりをや。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
と、逆に望月を誹謗ひぼうしている。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
だが、それは全くの誹謗ひぼうだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
誹謗ひぼうする者があるそうじゃ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一身の誹謗ひぼうのごときは官兵衛すこしも意にかけません。また、たとえこの場で殺されようとも、日ごろの信念は決して変えもしませぬ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろ世間に、皇学・漢学・洋学などいい、おのおの自家じかの学流をたてて、たがいに相誹謗ひぼうするよし。もってのほかの事なり。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、おせんはもうびくともしなかった、お地蔵さまの前で受けたようなはずかしめのあとでは、そんな蔭口や誹謗ひぼうくらいなんでもないことだ。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多少の美を、多少の力を、多少の喜びを、他人にもたらそうと欲した者に、人は感謝すべきである。しかるに彼は、冷淡もしくは誹謗ひぼうにばかり出会った。
その人が翁の稽古をがえんぜず、色々と難癖を附けて翁を誹謗ひぼうしたので、祖父は出会う度に喧嘩をした。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
何故と申し候はば、貴殿平生の行状誠に面白からず、別して、私始め村方の者の神仏を拝み候を、悪魔外道げだうかれたる所行なりなど、しばしば誹謗ひぼう致され候由、しかと承り居り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「勅勘を受けた人というものは、自由に普通の人らしく生活することができないものなのだ。風流な家に住んで現代を誹謗ひぼうして鹿しかを馬だと言おうとする人間におもねる者がある」
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それはいま読んだ「恐れなが売弘うりひろめの為の口上、家伝いゑもち、別製ねりやうくん」と書いた、まぎれもなく今の将軍家を誹謗ひぼうした刷物すりものです。悪い奴に、悪い物を拾われました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はそうした誹謗ひぼうに対して主人を弁護したばかりか、主人のために喧嘩口論までして、多くの人の意見をくつがえした。『あの下種げす女の自業自得だ』と、彼は断固として言った。
『街巷新聞』に出ていた記事は誹謗ひぼうでも中傷でもない。むしろ君江の容姿をほめたたえた当りさわりのない記事であるが、その中に君江さんの内腿うちももには子供の時から黒子ほくろが一つあった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むろん男のことを「女らしい」というときは、十に八、九まで誹謗ひぼうする意旨いしであるが、しかし女自身に使用するときでも、おもしろからぬ意味をふうすることはしばしば見るところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今まで彼が知っていたところでは、部下は常に身をかがむべきものであり、背反し誹謗ひぼうし議論してはいけないものであり、あまりに無茶な上官に対しては辞表を呈するのほかはなかった。
つねに適当な距離を保っている傍観者ほど憎むべきものはない。「自由」の名のもとに様々の批評が出てきた。他人の罪禍を列挙することも自由だ。あらゆる誹謗ひぼうの声を放つことも可能だ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
多少の異議誹謗ひぼうはあっても、大義大道のためと、虫をころして服従一致を望んでいるものを——何で今の時代を難しい時勢というのか。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)