蓮根れんこん)” の例文
「あれで、なかなか、蓮根れんこん食いやけ、そんな野暮はせんやろ。話したってええやないか。どうせ、このままでは、すみはすまいもん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と僕は赤くなって詰問しようとすると、次のベルがなって、再び僕らはハンドルを執らせられる——と、Rが、蓮根れんこん牛蒡ごぼうかかえて現れ
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
蓮根はす蓮根はすとははず、蓮根れんこんとばかりとなふ、あぢよし、やはらかにして東京とうきやう所謂いはゆる餅蓮根もちばすなり。郊外かうぐわい南北なんぼくおよみな蓮池はすいけにて、はなひらとき紅々こう/\白々はく/\
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だが、その人達が、ほりばたまで来て見たときは、すでにその子は救われていた。掘りたての蓮根れんこんみたいに上げられて、わんわん泣きぬいていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、蓮根れんこんの穴の中に辛子からしをうんとめてげた天麩羅てんぷらを一つ買った。そうして私は、母とその島を見ながら、一つの天麩羅を分けあって食べた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼の足は蓮根れんこんのやうに細つてゐるがまだ歩調はしつかりして居る。庭門をくぐるとき彼は思ひ出したやうにまた云つた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その途中に裏二階から見おろすと、台所口とも思われる流れの末に長さ三じゃくほどの蓮根れんこんをひたしてあるのが眼についた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蓮根れんこんだか何だか知らないけど、うれしい気性はお前さんさ。全体このことは、お前さんが言い出したんじゃないか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つけものは蓮根れんこんのぬかづけが好き。だがちかごろは洋食のメニューを並べている。ときどきこっそり支那街へ海蛇うみへびの料理を食しにいらっしゃる。婦人病の薬だとて。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
福井大将狙撃に使ったピストルは同志がこの上海に潜行して買ったのだが、苦心して入手したにもかかわらず、チャチな蓮根れんこん式のピストルで役に立たなかったものだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
病院で手術した患者の血や、解剖学教室で屍体したい解剖をした学生の手洗水が、下水を通して不忍池しのばずのいけに流れ込み、そこの蓮根れんこんを肥やすのだと云うゴシップは、あれは嘘らしい。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
路地の入り口で牛蒡ごぼう蓮根れんこんいも、三ツ葉、蒟蒻こんにゃく紅生姜べにしょうがするめ、鰯など一銭天婦羅てんぷらげて商っている種吉たねきちは借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉うどんこをこねる真似まねした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
玉菜たまな赤茄子あかなすねぎ玉葱たまねぎ大根だいこんかぶ人参にんじん牛蒡ごぼう南瓜かぼちゃ冬瓜とうがん胡瓜きゅうり馬鈴薯ばれいしょ蓮根れんこん慈姑くわい生姜しょうが、三つ葉——あらゆる野菜に蔽われている。蔽われている? 蔽わ——そうではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして非常に美味な蓮根れんこん、鋭い扇形に切ったウォーター・チェスナット〔辞書には菱とあるが慈姑くわいであろう〕、緑色の海藻でくるくる捲いて縛った魚、切った冷たい玉子焼、菓子、茶
竹の皮を別にして包んだ蓮根れんこん煮附につけと、きざするめとに、少々あますぎるほど砂糖の入れられていたのも、わたくしには下町育ちの人の好むあじわいのように思われて、一層うれしい心持がしたのである。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
佐太郎は気を取りはずせり、彼は満面に笑みの波立て直ちに出で行き、近処に法事の案内をし、帰るさには膳椀ぜんわんを借り燗瓶かんびん杯洗を調ととのえ、蓮根れんこんを掘り、薯蕷やまのいもを掘り、帰り来たって阿園の飯を炊く間に
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
味噌汁みそしるの身に入れてあった小芋と、煮付けの蓮根れんこんことに美味であったこと、などを覚えているのであるが、義兄の姉に当るその家の女主人が、今では未亡人になっていて、気軽な身分でもあるせいか
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
菜籠なかごを担って晨朝あしたに銭六、七百を携え、蔓菁かぶら、大根、蓮根れんこん、芋を買い、わが力の限り肩の痛むももののかずともせず、脚にまかせてちまたを声ふり立て、かぶらめせ、大根はいかに、蓮も候、芋やいも、と呼ばわりて
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「からいも、八頭やつがしら蓮根れんこん、ごぼう、市場へ出たそうでございます」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蓮根れんこん白煮しらに 春 第八十五 軽い鍋
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
間四里、聞えた加賀の松並木の、西東あっちこち、津幡まではほとんど家続きで、蓮根れんこんが名産の、蓮田はすだが稲田より風薫る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あかるくなった膳所ぜぜの辺では、蓮池はすいけを見かけて、われがちに蓮根れんこんをひきぬき、それを生でかじりかじり歩いたりした。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花柳の巷で、海千山千のしたたかな修練を積んだ女、「蓮根れんこんを食う」すべは百も心得ている。彼女が宴席から金五郎を呼びだしたのは、別の理由からだった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
弁当は菱屋でこしらえてくれたもので、山女やまめの塩辛く煮たのと、玉子焼と蓮根れんこんと奈良漬の胡瓜きゅうりとをさいにして、腹のすいているわたしは、折詰の飯をひと粒も残さずに食ってしまいました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一軒の小さな八百屋やおやがあって、あかる瓦斯ガスの燃えた下に、大根、人参にんじんねぎ小蕪こかぶ慈姑くわい牛蒡ごぼうがしら小松菜こまつな独活うど蓮根れんこん、里芋、林檎りんご、蜜柑の類がうずたかく店に積み上げてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あなたは知らないのか、と声さえはばかってお町が言った。——この乾物屋と直角に向合むかいあって、蓮根れんこんの問屋がある。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蓮根れんこんの菓子があった。劉備はそれを少し買い求めた。——けれど少し歩いてから
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闘鶏師の連中が、そこを駈け抜けるとすぐ、蓮根れんこんのように真っ黒な半身を出して、彼は首を廻して四方を見ていた。ヌマの中へ落とした刀を、足の指でそっと探してみたが分からない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえ、蓮根れんこん焼豆腐やきどうふ、ほかには乾章魚ほしだこましたものぐらいで」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓮根れんこん
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)