はなや)” の例文
皆若い人たちで暗く長い私の文運つたなかりし頃の人たちと違って、もう一年か二年で頭角とうかくを現わしたはなやかな人たちばかりであった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
五色ヶ原の濃紅な白山小桜や濃紫の千島桔梗ちしまぎきょうの大群落に比して、はなやかさに於てとても較べものにはならないが、またなく可憐である。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
いけないと云っても中々かないで逆上のぼせ切ってるのサ、芸者を引きたければはなやかにして箱屋には総羽織そうばおりを出し、赤飯をふかしてやる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄弟よ、ボローニアびとフランコの描けるもののはなやかなるには若かじ、彼今すべてのほまれをうく、我のうくるは一部のみ 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
工部局の警官隊がロッジ部長に引率いんそつされて、レーキス・ホテルにのりこんできた。休憩室のドアは、はなやかに外からうちこわされた。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法隆寺の塔のもつ森厳な風格に比すれば稍々ややはなやかではあるが、同時に雄大な落着をそなえていて微塵みじんの不安も与えない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私の一生のうちで一番はなやかな時だすな。尤も、まかないは向う持ちで、仕事の為なんだすからあきまへんけンど。
山奥の仕事であるから、そうして多くは雑器を作るのであるから、あの輪島わじまのようなまたは会津あいづのようなはなやかな名は伝っていない。もっと田舎くさい仕事をする。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
このはなやかではあるが落着いた色彩の絵巻に、強いタッチを与えるものは、グイ松の濃い緑であった。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たとへば、緩漫なまのろふゆしりへにはなやかなはるめがるのをて、血氣壯けっきさかんわか手合てあひかんずるやうなたのしさ、愉快こゝろよさを、つぼみはな少女をとめらと立交たちまじらうて、今宵こよひ我家わがやりゃうせられませうず。
そうして彼の目前には、はなやかな躁宴の光景が、はっきりとしかも細やかに描き出されていた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
後年「交響曲詩シンフォニック・ポエムの創始者」としての素地そちを作り、十二歳のとき父と共にパリにおもむき、そこで人間リストの仕上げを受け、それから全欧にわたるはなやかに輝かしい楽旅が始まり
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
さる方にて計らず一人の美き女に逢ひ候処、の錦をばはなやかに着飾り、先の持主とも知らず貧き女の前にて散々さんざんひけらかし候上に、恥まで与へ候を、彼女かのをんなは其身のあやまりあきらめ候て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いかなる詩聖の言葉のかげにも又いかばかり偉大な音楽家の韻律のかげにもたとえ表面うわべは舞い狂う——笑いさざめくはなやかさがあってもその見えない影にひそむ尊い悲しみが人の心を
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すぢ日本につぽんうるはしき乙女おとめ舞衣まひぎぬ姿すがたが、月夜げつやにセイヌかは水上みなか彷徨さまよふてるといふ、きはめて優美ゆうびな、またきはめて巧妙こうめう名曲めいきよく一節ひとふし、一は一よりはなやかに、一だんは一だんよりおもしろく
併し、そこには万花鏡の様なはなやかな色彩があるわけではなく、空も森も水も、空はこの世のものならぬいぶし銀、森は黒ずんだ緑と茶、そして水は、それらの単調な色どりを映しているに過ぎないのだ。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
沈着おちついた所もなく、放心なげやりに見渡せば、総てはなやかに、にぎやかで、心配もなく、気あつかいも無く、浮々うかうかとして面白そうに見えるものの、熟々つらつら視れば、それは皆衣物きもので、躶体はだかみにすれば、見るもけがらわしい私欲
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は周囲しゅうい朋友ともだちのようにはなやかな世界がなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうした外観のはなやかさは一層彼を不安にした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このはなやかな七月の日を!
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
はなやかな気球はみるみる虚空こくうにグングン舞いのぼり、それにぶら下る痣蟹の黒い姿はドンドン小さくなっていった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
燻んだ御堂の柱や横木の間に塗られた白壁が、秋には一層映えて、全体として明るいはなやかな感じにあふれ、寺院というよりは宮殿といった方がふさわしいくらいだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
中でも染物は目がめるほどはなやかであります。土地ではこれを「びんがた」と呼びます。色差しの模様染との意であります。着物の類はいずれも型紙を用いて染めます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ところがそのうちにそろそろ北海道の早い木枯こがらしが吹き始める頃になった。写生をするにも野趣のある草花はないし、花屋で売っているはなやかな花を描くには実力がるし、ちょっと困った。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
広い土間どまの上に、薄い板が張ってあって、その一隅いちぐうに、この風船作業が四組固まって毎日のように、風船を貼っているのだった。それは刑務所の中での一番はなやかな手仕事だった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)