粗相そそう)” の例文
村越 (あきれたるさまして続く)小父さん、小父さん、どうなすった……どうなさるんです。おいくさん、お前粗相そそうをしやしないかい。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家中うちじゅうのものが、そのために不自由をする。あたしゃ、お前さんが気の毒だから、万一の粗相そそうがないように、そういってあげたまでだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いつもは女中をやるんですけれど、ゆうべに限って自分が二階へあがって行って、どうしたはずみか、そんな粗相そそうをしてしまったんです
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わざとでなければ出来ない様に、キチンと行儀よく、ななめにはってあるではありませんか。それは決して偶然の粗相そそうなぞではないのです。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お旗本のお使いと聞いたから、滅多めった粗相そそうがあっちゃならねえと思って断らせたんだが、なぜまともに、おきただといいなさらねえんだ」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もうこれ以上我慢をすると、女の身にとって顔から火の出るような粗相そそうを演ずることになる。彼女は極度に狼狽ろうばいしていたのだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「妻はのうてもわしとて男でござりますわい。若い時に粗相そそうをしてな。おとだねじゃ、落し胤じゃ。——伜よ。参ろうぞい」
こんなに見事なものが一ダースそっくりあるのは非常に珍しいとあって、その家でも大いに大事にしていたところが、何かの粗相そそうで一枚こわしてしまった。
(一益ともあろう老巧ろうこうが、亀山や峰の小城などるに、何で時も計らず粗相そそうに兵を動かしおったか。愚かな沙汰よ)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その手紙を枝の長いおぎにつけて、そっと見せるようにとは言ったが、源氏の内心では粗相そそうして少将に見つかった時、妻の以前の情人の自分であることを知ったら
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あれッ! とんだ、また、粗相そそうをいたしまして! どうぞ殿様、どうぞ御料簡ごりょうけんなされてくださりませ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
忠義の道を欠く時は矢張やはり孝行は立たない道理、一旦主人と頼みしお方を、粗相そそうとは云いながら槍先にかけたはわたくしあやまり、おわびの為に此の場にて切腹いたして相果てます
今朝使ひの子供の粗相そそうで卵が割れてしまつたので、食事が九時半になつた。体温が二分もさがつて気持のいい朝だつた。それに耳のせゐだらうか、今朝は海の音がはつきりと聞えた。
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「出て行けッ、ママんでもねえ餓鬼がきだ、お客になんかねだりゃアがって、二度と店へ入って来やがったらたたき殺……ヘッへッ、へ……いらっしゃいまし、どうもママんでもない粗相そそうを……」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
何も知らない雛妓おしゃく時代に、座敷の客と先輩との間に交される露骨な話に笑い過ぎて畳の上に粗相そそうをして仕舞い、座が立てなくなって泣き出してしまったことから始めて、囲いもの時代に
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それに叔父が今日曲馬団に来ておりまして、あのようにわたしたちの仕事を察して、粗相そそうのないように保護しているのを見ますと、叔父はもう、とっくに何もかも見破って、わたくし達三人を
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余はこの雑誌の健在を喜ぶと共にたやすく人言じんげんを信じたる粗相そそうとを謝す。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「とんだ粗相そそうをいたしました。ホッ、ホッ、ホッ、ご免あそばせ」——で、スルリと抜けたのである。だがその瞬間に右の手が上がって、真白い腕がひじの辺まで現われ、それが夕陽にひらめいた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ああ、私が悪うございました、どうぞ赤瀬の大将には秘密にお願いいたします、酒癖が悪いため、とんだ粗相そそうをしました、どうぞ、どうぞ、お許し願います。そう云って、ぺこぺこと頭を下げた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「何か粗相そそうでもしたのか」
「わたしの牛は今まで一度もお客を落したことはねえのに、どうしてこんな粗相そそうを仕出かしたのか。まあ、どうぞ勘弁しておくんなせえ。」
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うそをつけ。つらあらったやつが、そんな粗相そそうをするはずァなかろう。ここへて、よく人形にんぎょうあしねえ。こうに、こんなにろうれているじゃねえか
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
粗忽者そこつもの共よ喃。みい。油ではないまるで水じゃ。納戸なんどの者共が粗相そそう致して水を差したであろう。取り替えさせい」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「知らぬこととはもうせ、飛んだ粗相そそうをいたした。どうかゆるしてくれい、そこで、あらためて聞きたいが、御身おんみはその手紙にある果心居士かしんこじのお弟子でしか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまけに意地を張ってさ、自分の粗相そそうは棚に上げて、他人に、あたしに、罪をなすくろうとする。こうなったら、あたしゃどこまでもお前さんをとっちめるよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
もう御到着になった頃です。粗相そそうがあっては一大事です。我々は舞台と木戸口は充分検べました。併し見物席はこの満員で、検べ様がありません。で、諸君に御願いです。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その一人 おっと! これはこれは、とんだ粗相そそうを。なにとぞ御容赦のほどを——。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
されて、一つはそれでのぼせて粗相そそうなこともするのでございましょう
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「とんだ粗相そそうをいたしました。ホッ、ホッ、ホッ、ごめんあそばせ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「世間の口に戸はてられねえ。粗相そそうで死んだのか、身を投げたのか、自然に人が知っているのさ。高巌寺でもそんなことを云っていたっけ」
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何か粗相そそうでもして、役目を取りあげられたようにでも考えたらしい。気の弱い眼にすぐ涙をいっぱいめた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小僧こぞう粗相そそう番頭ばんとう粗相そそう手前てまえから、どのようにもおわびはいたしましょうから、御勘弁ごかんべんねがえるものでございましたら、この幸兵衛こうべえ御免ごめんくださいまして。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これが、洗濯だとか、なんとか、そういう大きな仕事は、まあ、半分の粗相そそうですむにしたところで、細かな仕事になると、こりゃもう、お前さんの手にゃおえない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
風船屋が粗相そそうをして、ゴム風船を、一度に空へ飛ばしたものと分りましたが、その時分は、ゴム風船そのものが、今よりはずっと珍らしゅうござんしたから正体が分っても
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あアいや。下女げじょめの粗相そそう、呼んで直させまするで、そのままに、そのままに」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「困るね。おまえ。こんなお客さん毎日のことだから、あとでもいいんだよ。御前さま、おまえにお目が止まったようだから、早くあちらへご挨拶にお行きよ! 粗相そそうがあっちゃいけないよ」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
またいつもの粗相そそうやさんがそんなことを
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
栄之丞もその話を聴いて吐胸とむねをついた。まだ新参の身、殊に年のゆかない妹がこんな粗相そそうをしでかしては、主人におめおめと顔を向けられまい。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御大切おたいせつなおしなゆえ、粗相そそうがあってはならんよって、はようおかえもうすが上分別じょうふんべつと、おもってさんじました」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「よけいなお世話のようですが、さっき掛けた女衆が、嬰児あかご粗相そそうをさせたんでまだ、尿ししれている筈で、——お値だんは同じ事、こちらへ、お腰かけなさいまし」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何とも、誰の粗相そそうでもねえんで——運でごわす。」
「イヤ、つい粗相そそうをしました。勘弁かんべんして下さい」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
相手は侍、しかも粗相そそうはこっちにある。それと気がついて綾鶴はひらにあやまった。綾衣もにっこり笑って会釈した。侍も黙ってほほえんで行き過ぎた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはにごり井じゃ、これはれ井じゃなどと、だいじゅう(大衆)を粗相そそうに見て、釣瓶の仕替えや
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……いえ、やはり中村の姉へ帰しましょう。もしお姑様かあさまなどへ、粗相そそうがあるといけませんから」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わたしの代りにあなたの命を取っても仕方がありません。わたしの亡い後に、老母や幼な児の世話をして下さるというならば、わたしは自分の粗相そそうで滑り落ちたと申し立てます」
僧は、かぶっている法師頭巾ずきんいでみせた。哨兵たちは、粗相そそうを詫びて、うしろの柵へ手合図を振った。木戸にはべつな一隊がかたまっている。僧はそこの番将へ向って何か話しかけた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、燭を執ってちあがる時、かれは粗相そそうの振りをして、燭の火をかれらの着物にこすり付けると、着物の焦げるのがあたかも毛を燃やしたように匂ったので、もう疑うまでもないと思った。
「分っております。ですから顔から離しません。早く高麗村へ帰って、御隠家様にこれを見せ、次郎の粗相そそうをおわびした上に、改めておいとまをいただいて江戸の尾州様へこれを届けるつもりです」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客につかえ、自分に慎み、低頭屈身ていとうくっしん、すこしの粗相そそうもないように、終始、おのれの心を人の満足と歓びのために提供しきるなどという行いは、とても信長のしょうには合わぬことと思われもするのだが
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)