立場たてば)” の例文
その権十郎が今度の狂言では合邦がっぽう立場たてばの太平次をするのですから、権ちゃん贔屓は大涎れですが、藤崎さんは少し納まりません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この「柿の木屋」の少し東手に「ます屋」といったのが、やはり同族で宿屋となり、また人力車の立場たてば(中継所)でもあった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奥州……花巻より十余里の路上には、立場たてば三ヶ所あり。その他はただ青き山と原野なり。人煙の稀少まれなること北海道石狩の平野よりも甚し。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はたけの麦は熟し、田植えもすでに終わりかけるころで、行く先の立場たてばは青葉に包まれ、草も木も共に六月の生気を呼吸していた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで一行の駕籠が、朝まだきの活劇を一幕残して、東海道の並木の嵐を合方あいかたに、大はまの立場たてばも素通りをしてしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて粕壁かすかべ立場たてばあたりまで、遂にそれらしい人にも会えず、がッかりすると同時に足も精根も疲れ、陽もどッぷりと暮れ落ちてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお更にこのレーヌ公園と云うのは、大変人通りのある処である上に、更にその家から百ヤードもないくらいの処に、車の立場たてばもあるのであった。
七瀬は、多勢の者に取巻かれて戦っている、夫と、子とを想像すると、もう、立場たてばで見張っては居れなくなってきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
峯「若衆わかいしゅ大きに御苦労だのう、骨が折れても急いで遣ってくんねえな、十時までに中の立場たてばまでこうじゃアねえか」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
序幕山崎街道立場たてばの場は明智の雑兵の乱暴を羽柴はしばの侍が制する処なるが合戦中の事としては、百姓が長閑気のどかに酒を呑み女にたわむるるなど無理なる筋多し。
八番の右は立場たてばと見えて坊さんを乗せたかご一梃いっちょう地に据ゑてある。一人の雲助は何か餅の如きものを頬ばつて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大抵の登山者は、ここで一息いれる、水を飲む、床几しょうぎにごろりと横になるのもある。五合目は山中の立場たてばである。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
日本国中の立場たてば・居酒屋に、めし、にしめと障子に記したるはあれども、メシ、ニシメと記したるを見ず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二軒ともこの邊の甲州と信州との間の唯一の運送機關になつてゐる荷馬車の休む立場たてばの樣な茶店で、一軒は念場が原の眞中、丁度甲信の國境に當つた所であつた。
又三郎は立場たてばへ馬を預け、かいばを頼んでから、帳場で訊き、駕籠かきや馬子たちに訊いてみた。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浦和からの戻るさ、立場たてば立場の茶屋で拵えさせた握飯を兵糧に、四日というもの物置に忍んで、昨夜、翫之丞を手に懸けおおせたものの、あまりと言えば細工が過ぎた。
金五郎は三河島蓮田の古道具屋小林文平の立場たてばへ往って、古い偶形にんぎょうを買って来たところであった。
偶人物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私どもは一定の立場たてば々々で人足や、馬のつぎかえをしつつ進み、その夜は戸塚の宿に泊った。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
文吉はすぐに玉造へお礼まいりに往った。九郎右衛門は文吉の帰るのを待って、手分をして大阪の出口々々を廻って見た。宇平の行方を街道の駕籠かご立場たてば、港の船問屋ふなどいやいて尋ねたのである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なせ共皆々聞入れず早々立去べしと追遣おひやるにぞ老人は是非もなく/\なみだはらひすご/\立歸らんとなしける處に此豐島屋の向うを立場たてばとして日ごとに出て居たる駕籠舁かごかきあり今日も此處にて往來の客を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
網苧の山里の立場たてば茶屋に猪嚇ししおどしの鉄砲が用意してあるほどなら
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
三べんも宿場立場たてばの茶屋茶屋へこの大切な桐の箱を置き忘れた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
立場たてばの裏に頬白が 啼いてゐる 歌つてゐる
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
かの鶴屋南北つるやなんぼくの作で、明治以来上場されたことがないという「敵討合法衢かたきうちがっぽうがつじ」を、駒之助の合法、九蔵の前田大学と立場たてば太平次たへいじで見せられた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
峠の上の立場たてば——五条源治を素通りした竜之助の一行は、やがて、いのじヶ原の一軒家へかかろうとする時分に、後ろから
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立場たてばへ来ると、駕屋宿かごややどをたずねていたが、どこの家も、避難していて、ガラきだった。村を通れば、村も人無し村である。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅は道連みちづれが、立場たてばでも、また並木でも、ことばを掛合ううちには、きっとこの事がなければ納まらなかったほどであったのです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車屋がいつも太尾ふとお立場たてばという話をしていたので、姫路と辻川の中間部にあるというその土地は繁華な土地であろうと、私たちは想像していた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
甚七は午餐ひるめしを食べに茶店へ立寄った。馬上の主人は甚七が、徒歩でこの辺へまで来た頃と計っていたから、立場たてばの前で馬を並足に一軒々々覗いてきた。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
木曾街道きそかいどう方面よりの入り口とも言うべき板橋から、巣鴨すがも立場たてば本郷ほんごう森川宿なぞを通り過ぎて、両国りょうごく旅籠屋はたごや十一屋に旅の草鞋わらじをぬいだ三人の木曾の庄屋しょうやがある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、立場たてばに往ったところでが明けた。が明けると女は着がえの一枚も持っていないことに気がいた。女は衣服きもの杖頭こづかいって来ると云って石川を待たしておいて引返した。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急にひろくなった原の上を、迷い気味に飛んで行く、林の半ばほどの路で、立場たてば茶屋に休む、渋茶を汲んで出された盆の、菓子皿には、一と塊まりの蠅がたかって、最中もなかが真ッ黒になって動いている
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
いつぞや城太郎に追いつめられて覚えのある野火止のびどめ立場たてばまで来た。ところが部落の入口には、乗馬や荷駄や、長持や駕籠かごでいっぱいだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たび道連みちづれが、立場たてばでも、また並木なみきでも、ことば掛合かけあうちには、きつことがなければをさまらなかつたほどであつたのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一方いのじヶ原を再び後へ戻ったところ、峠の上の立場たてば、五条源治の茶屋は、この時、上を下への大騒ぎであります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その春風に吹かれながら、江戸へむかう旅人上下三人が今や鳥居峠をくだって、三軒屋の立場たてばに休んでいた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、おさえがたい落胆と戦いつつ、元来た雪道を帰って行った。一時間あまり乗合馬車の立場たてばで待ったが、そこには車夫が多勢集って話したり笑ったりしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弟はそのころ立場たてばに憩う人力車の背後の武者絵などで、絵画への興味をもちはじめていたらしい。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五人の侍風の者と、商人風の者とが、藤沢の立場たてばの前で、乗継ぎの催促をしていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
牡蠣船のある方の岸は車の立場たてばになっていて柳の下へは車を並べ、その傍には小さな車夫しゃふたまりもうけてあった。車夫小屋と並んで活動写真の客を当て込んでしいの実などを売っている露店ろてんなどもあった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
湯本ゆもと立場たてばに着くと、もう先触さきぶれが通っているので、肩継人足が二十人近く、息杖いきづえをそろえて待ちかまえている。それへ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祠は立場たてばに遠いから、路端みちばたの清水の奥に、あおく蔭り、朱に輝く、けるがごとき大盗賊の風采ふうさいを、車の上からがたがたと、横にながめて通った事こそ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
机竜之助が東海道を下る時、裏宿七兵衛うらじゅくしちべえはまた上方かみがたへ行くと見えて、駿河するがの国薩埵峠さったとうげの麓の倉沢という立場たてばの茶屋で休んでいました。ここの名物は栄螺さざえ壺焼つぼやき
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立場たてば々々へ着くたびに半七はかれに気つけ薬を飲ませて介抱したが、英俊はちっとも弱らなかった。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一時間あまり、乗合馬車の立場たてばで待ったが、そこには車夫が多勢集って、戦争の話をしたり、笑ったりしていた。思わず私も喪心した人のように笑った。やがて小諸行の馬車が出た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土山の立場たてばを突っ切り、松尾村から布引山ぬのびきやまのすそを横にして、まるで一陣のつむじ風が通って行くかのような勢いで止まるところを知らなかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればこそ思い違えた、——峠の立場たてばはここなので。今し猿ヶ馬場ぞと認めたのは、道を急いだ目の迷い、まだそこまでは進まなかったのであった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
では、逃げたか——或いはまた勝って再び立場たてばの五条源治へ引上げ、そこで祝杯を挙げてでもいるのか。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれは主従を立場たてばに休ませて置いて、自分ひとりが駈けぬけて駅へはいったが、やがて又引っ返して来て、今夜は本陣にふた組の大名が泊っている。脇本陣にも一と組とまっている。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸の中心地まで二里と聞いただけでも、三人が踏みしめて行く草鞋わらじの先は軽かった。道中記のたよりになるのも板橋いたばしまでで、巣鴨すがも立場たてばから先は江戸の絵図にでもよるほかはない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)