まぶし)” の例文
そして夕方には久しぶりで、太陽がまぶしく輝きだした。「あすはお月さまにかくされることも知らないで、お日さまは煌々こうこうと照っていますね」
日食記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
沢崎に対して始終左半面をさらすような角度になっており、まぶしいような初夏の庭の反射が、その顔の上に真正面まともに照っていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しなわづか日數ひかずよこつてたばかりにおとろへたものかやゝまぶしいのをかんじつゝひかり全身ぜんしんびながら二人ふたりのするのをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まぶしいほどの電気で照し出され、絶えず出入りする人の気配と、土間づたひの台所の方から流れて来る何かの匂ひや湯気でぬくもつた空気のために
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その時分知っていたこのの女を誘って何処か凉しい処へ遊びに行くつもりで立寄ったのであるが、窓外まどそと物干台ものほしだいへ照付ける日の光のまぶしさに辟易へきえきして
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私も娘もよろこんだ。この辺の砂はまぶしいくらい白く、椰子やしの密林の列端はすそ端折はしょったように海の中に入っている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
松太郎は、何がなしに生甲斐がある様な気がして、深く深く、杉の樹脂やにの香る空気を吸つた。が、霎時しばらく経つとまぶしい光に眼が疲れてか、気が少し、焦立つて来た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
口に含んだうがみずを、ゴロゴロとのどで鳴らしながら、まぶしげに、青空へ向けて顔をひっくりかえしていると
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺たちが見れば、薄暗い人間界に、まぶしい虹のような、その花のパッと咲いた処は鮮麗あざやかだ。な、家を忘れ、身を忘れ、生命いのちを忘れて咲く怪しい花ほど、美しい眺望ながめはない。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「打たば打て。取らば取れ。ただし、天上皇帝の御罰は立ち所に下ろうぞよ。」と、嘲笑あざわらうような声を出しますと、その時胸に下っていた十文字の護符が日を受けて、まぶしくきらりと光ると同時に
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
根津の通りのゴチャゴチャした商店のつらなりは、私の目をまぶしくした。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
俺たちが見れば、薄暗い人間界に、まぶしい虹のやうな、其の花のパツと咲いたところ鮮麗あざやかだ。な、家を忘れ、身を忘れ、生命いのちを忘れて咲く怪しい花ほど、美しい眺望ながめはない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
気病きやみの後の様なたるんだ顔にまぶしい午後の日を受けて、物珍らし相にこの村を瞰下みおろしてゐると、不図、生村うまれむら父親おやぢの建てた会堂の丘から、その村を見渡した時の心地が胸に浮んだ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しばらくしてあきまぶしほどえたそらせた。はたけにはひる餘計よけいあかるいほど黄褐色くわうかつしよく成熟せいじゆくした陸稻をかぼが一ぱい首肯うなづいた。蕎麥そばさわやかでほそつよ秋雨あきさめがしと/\とあらつて秋風あきかぜがそれをかわかした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こんなまぶしい名幅を持込まれ、ちょっと返辞にも困り、また浅ましいことには、これは何かうるさい事情でもありはしないか、さもなくてこんな品を小向いに持って歩くわけもないなどと疑った。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火光あかりまぶしく洩れて、街路を横さまに白い線を引いてゐたが、蟲の音も憚からぬ醉うた濁聲だみごゑが、時々けたゝましい其店の嬶の笑聲を伴つて、喧嘩でもあるかの樣に一町先までも聞える。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うらは、すぐ四谷見附よつやみつけやぐら見透みとほすのだが、とほひろいあたりは、まぶしいのと、樹木じゆもく薄霧うすぎりかゝつたのにまぎれて、およそ、どのくらゐまでぶか、すか、そのほどははかられない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なつかしい姿を見るにつけても、お蔦に思較べて、いよいよ後暗うしろめたさに、あとねだりをなさらないなら、久しぶりですから一銚子ひとちょうし、と莞爾にっこりして仰せある、優しい顔が、まぶしいように後退しりごみして、いずれまた
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)