がん)” の例文
ハイハードルの練習中にこしらえた小さなきずが、現在の医学では説明不可能な……しかもがん以上に恐ろしい生命いのち取りだと云われている
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このあざのようながんに似た不死身の一処をさすりながら、彼は生き彼は書き、ありもしない才華へのあこがれに悶えている残酷さである。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「それをかくかく)の病いというんだ」こんどは又左衛門が冷やかした、「胃のがんの出来るやつさ、藤蔓ふじづるこぶをやぶれば治る」
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひもといふもんはがん見たいなもんで、切り離したら生きちやゐられないし、と言つて喰つつけといてもやつぱり、なアんて縁起でもないことを
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
健康保全に関するものでは伝染病研究所やがん研究所のようなもの、それから衛生試験所とか栄養研究所のようなものもある。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
健康な子供の血液からはさかんに生物線が出る。動物にがんを植えたらその血液からは出なくなったなどという研究が沢山専門学者の手で発表された。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし——当世のことはさむらいと百姓、つまり兵農の分離ということのほかにがんはないかというと、事は左様に単純なものではないのですな。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不治のがんだと宣告されてからかえって長い病床の母親は急に機嫌よくなった。やっと自儘じままに出来る身体になれたと言った。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この放射線ががんという病気をなおすことは、誰でも知っているが、このごろでは、人類のためもっと貴重なはたらきをしてくれることがわかった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうかと思うと、がんで見込のない病人の癖に、から景気をつけて、回診の時に医師の顔を見るや否や、すぐ起き直ってしりまくるというのがあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
劉表も袁紹も、世子問題では、大きな内政のがんを作っている。いずれも正統の嫡男を立てていない。曹操は大いに笑い
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし昔は人のこの病を恐るること、ろうを恐れ、がんを恐れ、らいを恐るるよりも甚だしく、その流行のさかんなるに当っては、社会は一種のパニックに襲われた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
皆 Präputium などが無く思ひきり単純化されたものである。中江兆民はがんかかつて余命いくばくもないといふとき、「一年有半」といふ随筆を書いた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
私の父は胃にがんが出来てからもなお、素人浄るり大会で、忠臣蔵の茶屋場の実演に平右衛門へいえもんとなって登場した。その時のあわれな姿は、むしろ亡霊に近いものだった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
がんと同じに、幼時の細胞が皮膜のようになって組織内にのこっていて、それが成長するにつれ育ったり分裂したりして害をおよぼすのだそうです。そういうものの由。
まったく、人も建物も腐朽しきっていて、それが大きながんのような形で覗かれたのかもしれない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この蓋世がいせい不抜の一代の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでもなおす暇を与えなかった。そうして彼の田虫は彼の腹へがんのようにますます深刻に根を張っていった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「貘さんのがんと、なにか因縁でもありそうにいうんだな。それきりだまりこんでたね。おれもだまってた。しかし、なんにも云わんところに、やっぱり、なにか、思いがこもってたね」
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
胃腸の潰瘍かいようでもあるまい、がんでもあるまいなどと、しきりに病状を案じているばかりでなく、もしトルストイに死なれたら自分の生活には大きな穴が明くだろう、自分は不信心者だが
「もうがんは胃の方ばかりじゃないそうだ。咽喉のどの辺へも来ているということだ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おじいさんがんがあったのだね、驚いたなあ、何時いつころからなんだ。」
「顔だけ見ているとそうでもないが、裸体はだかになると骸骨がいこつだ。ももなんか天秤棒てんびんぼうぐらいしかない。能く立ってられると思う、」と大学でがんと鑑定された顛末てんまつを他人のはなしのように静かに沈着おちついて話して
病気ががんという不治のものだったので、はやくからたがいに覚悟ができていた。かなしさもつらさもいまさらのものではない。
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
荊州の領土貸借問題は、両国の国交上、多年にわたるがんであったが、ここにようやく、その全部とまではゆかないが、一部的解決を見ることができた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしても真犯人を見出して処刑し、永年のがんであった彼等一味の、のさばり加減かげんたわめる必要があった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
がんはときどき激しく痛み出した。服用の鎮痛剤ぐらいでは利かなかった。彼は医者に強請せがんで麻痺薬まひやくを注射して貰う。身体が弱るからとてなかなかしてれない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
がんのやうな悪性腫瘍しゆやうも、もう動物に移し植ゑることが出来て見れば、早晩予防の手掛りを見出すかも知れない。近くは梅毒が Salvarsanサルワルサン で直るやうになつた。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大瀧の叔母に当る人が永く胃がんでいたのが亡くなり、そのお通夜ということになりました。
僕は、神保博士の意見として、どうも黄疸は単純な加答児かたる性のものでなく肝の方から来てゐることを手紙に書いたのであつた。それでもがんの転移証状であることは書けなかつたのである。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この胃潰瘍ががんになっているかいないかを調べる目的でX光線レントゲンにかかって
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この活字道楽というのは今日までも自分にとって一つのがんのようなもので、かなり苦しめられつつあって、容易に縁の切れない道楽の一つであるが、本来どうか自分は一つ印刷所を持ちたい
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日は朝十時から子宮がん患者の手術があります。千恵はG先生のお手伝ひをすることになつてゐるので、明るくならないうちに一時間でも二時間でも眠つておかなくてはなりません。では御機嫌よう。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
甲斐かいざかいの憂惧うれいがされば、これで心をやすらかにして、はた中原ちゅうげんにこころざすことができるというもの。家康いえやすにとって、伊那丸はおそろしいがんであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは躯に三つのがんを持っているようなものだ。このままにしておいては、必ずどれかが命取りになる。たとえば取潰すことが無理なら、分割して力を弱める策だけはとらなければならない。
最初誰かに脹満ちょうまんだと云われたので、水を取って貰うには、外科のお医者が好かろうと思って、誰かの処へ行くと、どうも堅いからがんかも知れないと云って、針を刺してくれなかったと云うのです
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
檜垣の主人は一年ほどまえから左のうしろくびがんが出はじめた。始めは痛みもなかった。ちょっと悪性のものだから切らん方がよいという医師の意見と処法に従ってレントゲンなどかけていたが。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この超短波をデアテルミーのように、人体じんたいに通しますと、がんなどに大変き目のあることが発見されました。これをラジオテルミーと呼んでいますが、デアテルミーよりもずっと効き目が強いのです。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
しかし、要路の者たちの議がまとまらないので、かれは、所司代として京都へのぞみながら、まだ充分に、反幕府のがんと睨む公卿くげたちへ手をのばしかねていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めるから、がんになったりよいよいになったりするんだってよ
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多少の犠牲は忍んでも、いまのうちに鎌倉の手をかりて、宮廷のがん剔抉てっけつしてしまうにくはない、と。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……研究の課題は「がん」であった。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして抜本的に、中央のがん足利あしかが初世以来の幕府勢力までことごとく京都から追い払ってしまった彼である。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ今なお、董卓の遺臣の郭汜かくし李傕りかくのふたりがあくまで、漢室のがんとなって、帝に禍いしていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって後日のがんにならないとも限らない——どうだろう? いっそ今のうちに、彼を刺し殺しては
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思うに、もうその頃、潰瘍かいようがんになりかけていたのだろう。かかりつけの小宮博士は「あなたが酒をやめないなら、私は医師として良心が果せないからもうお宅へは来ない」
「この大事を挙げながら、そんな手ぬるい宣言を将軍の口から発しては困ります。今にして、宮闕きゅうけつがんを除き、根を刈り尽しておかなければ、後日かならず後悔なさいますぞ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祇園藤次が逐電ちくてんしてしまうやら、また家政のがんはこの年暮くれへ来ていよいよ重体なもようとなり、日々、掛取に押しかけられるようで——清十郎の心は、心構えを持ついとまがない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくまでも、彼奴きゃつらはがんですよ。根こそぎ切ってしまわなければ、どう懲らしても、日が経てばすぐ芽を生やし、根を張って、増長わがまま、陰謀暗躍、手がつけられない物になるんです
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がんは体じゅうにできている物じゃない。一個の元兇を抜けばいいのだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元来、紀州の統治は、信長すら手を焼いた宿痾しゅくあがんだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)