瓜実顔うりざねがお)” の例文
旧字:瓜實顏
浜龍は東金とうがねの姉娘の養女で、東京の蠣殻町かきがらちょう育ちだったが、ちょっと下脹しもぶくれの瓜実顔うりざねがおで、上脊うわぜいもあり、きっそりした好い芸者だった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真面目まじめな顔になっている。美しい瓜実顔うりざねがおが正面になって、かすかな社燈の光に浮き出たとき、マンは、あッと、思いだした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
如何いかにも色の白かったこと、眉が三日月形に細く整って、二重瞼ふたえまぶたの目が如何にも涼しい、面長な、鼻の高い、瓜実顔うりざねがおであったことを覚えている。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼が大きく、唇が厚く、そして何処までも純日本式の、浮世絵にでもありそうな細長い鼻つきをした瓜実顔うりざねがお輪廓りんかくでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お染はひなに稀なる——と形容された方で、色白で瓜実顔うりざねがおで、夢みるような眼や、赤い唇や、小野小町を生んだ国から出ただけの魅力は充分でした。
昔しのまげを今の世にしばし許せとかぶ瓜実顔うりざねがおは、花に臨んで風にえず、俯目ふしめに人を避けて、名物の団子をながめている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつぎぬ檜扇おうぎをさしかざしたといったらよいでしょうか、王朝式といっても、丸いお顔じゃありません、ほんとに輪郭のよくととのった、瓜実顔うりざねがおです。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
極めて色が白く、肌のこまやかな瓜実顔うりざねがおで、薄くひき緊った唇が紅をさしたように赤く、黒眼の大きな双眸そうぼうは、いかにも賢そうな、澄んだ光をたたえていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その半面よこがおを文三がぬすむが如く眺めれば、眼鼻口の美しさは常にかわッたこともないが、月の光を受けて些し蒼味をんだ瓜実顔うりざねがおにほつれ掛ッたいたずら髪
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
顴骨かんこつも出ていない。下顎したあごにも癖がない。その幅のある瓜実顔うりざねがおの両側に大きな耳朶みみたぶが少し位置高く開いている。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
姉の勝美は瓜実顔うりざねがおの美人であるが、次女のミドリは丸顔の美人で、目にも鼻にも共通点がない。勝美はオチョボ口でうけ唇だが、ミドリは大口で時々カラカラ笑っている。
心霊殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それは昔風の形容の詞句を胸のうちに思いうかべさせる美人だなと思った。いわゆる瓜実顔うりざねがおに整った目鼻立ちが、描けるように位置の坪にはまっていて、まゆはやや迫って濃かった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
似絵にせえ師のことばでよく、“藤原顔”というあの瓜実顔うりざねがおではあるが、鳳眼ほうがんするどく、濃いおん眉、意志のつよげなお唇もと、また、ひげ痕も青々と、皇系にはまれな男性的な御風貌であった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どちらかと云えば昔風の瓜実顔うりざねがおで、まゆも鼻も口も首筋も、肩も、ことごとくの線が優に弱々しく、なよなよとしていて、よく昔の小説家が形容した様な、さわれば消えて行くかと思われる風情ふぜいであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
坐ると一緒に首垂うなだれたが、細い首には保ち兼ねるようなたっぷりとした黒髪に、瓜実顔うりざねがおをふっくりと包ませ、パラリと下がったおくれ毛を時々掻き上げる細い指先が白魚のように白いのだけでも
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
顔は色の浅黒い、左の眼尻めじり黒子ほくろのある、小さい瓜実顔うりざねがおでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
高島田の金元結きんもとゆいなまめかしい、黒い大きな瞳を一パイに見開いた人形のような瓜実顔うりざねがおが、月の光りに浮彫うきぼりされたまま、半分以上雨樋の蔭から覗き出して、彼の姿を一心に凝視しているのであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その可愛らしい瓜実顔うりざねがおは新らしい玉子のような円味まるみをもち
瓜実顔うりざねがおの優しい眼と眉を持った琴子の顔なのです。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その男の、髭をはやしている瓜実顔うりざねがおを見た。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
まるき顔瓜実顔うりざねがおや松の内
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「身上くらいは潰し度くなりますよ。瓜実顔うりざねがおで眼が大きくて、鼻筋が通って、口許が可愛らしくて、そりゃもう——」
ひたいのひろい、上品な瓜実顔うりざねがおの、のっぺりした皮膚が優雅な目鼻立ちを包んでいて、寝顔で判断すると、武士と云うよりは公卿のような印象を受ける。
「目のりんとした、一の字眉の、瓜実顔うりざねがおの、すそを引いたなり薄い片膝立てで黒縮緬の羽織を着ていた、芸妓島田げいこしまだの。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれど、やはり瓜実顔うりざねがおしもぶくれ——鶏卵形が尊重され、かくばったのや、ひたいの出たのや、あごの突出たのをも異国情緒——個性美の現われと悦ぶようなことはなかった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
瓜実顔うりざねがおで富士額、生死いきしにを含む眼元の塩にピンとはねたまゆ力味りきみを付け、壺々口つぼつぼぐち緊笑しめわらいにも愛嬌あいきょうをくくんで無暗むやみにはこぼさぬほどのさび、せいはスラリとして風にゆらめく女郎花おみなえし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
イベットはもともと南欧ラテン民族の抜ける様な白いひたいから頬へかけうっすり素焼の赭土あかつち色を帯びた下ぶくれの瓜実顔うりざねがおを持つ女なのだが彼女が斯うした無心の態度に入る時には
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白痴の女房はこれもしかるべき家柄の然るべき娘のような品の良さで、眼の細々とうっとうしい、瓜実顔うりざねがおの古風の人形か能面のような美しい顔立ちで、二人並べて眺めただけでは、美男美女
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
きわだって白い女の瓜実顔うりざねがおが、かれの視線を受けとって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瓜実顔うりざねがおの色の白いのが、おさげとかいう、うしろへさげ髪にした濃いつやのあるふっさりした、その黒髪のびんが、わざとならずふっくりして、優しい眉の、目の涼しい、引しめた唇の
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お屋敷風とも町家風ともつかぬ、十八九の賢そうな瓜実顔うりざねがお、どこかおきゃんなところはありますが、育ちはいらしく、相応に美しくも可愛らしくもあるうちに何となく品があります。
父は鏡子の明治型の瓜実顔うりざねがおの面だちから、これを日本娘の典型とよろこび、母は父が初老に近い男でも、永らく外国生活をして灰汁抜あくぬけのしたさばきや、エキゾチックな性格に興味を持ち
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
糸織の筒袖に博多の献上の帯を締め、黄八丈の羽織を着てきゃらこの白足袋に雪駄せったを穿いた様子が、色の白い瓜実顔うりざねがお面立おもだちとよく似合って、今更品位に打たれたように、私はうっとりとして了った。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母は眼は少し窪んでいましたが瓜実顔うりざねがおに肉附きのよい美人で、その当時はやりの花月巻というのを結って黒襟の小紋縮緬ちりめんあわせでも着たら品もあり仇っぽくもあり、誰でもみなふりかえりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日伝わっている春琴女が三十七歳の時の写真というものを見るのに、輪郭りんかくの整った瓜実顔うりざねがおに、一つ一つ可愛かわいい指でまみ上げたような小柄こがらな今にも消えてなくなりそうなやわらかな目鼻がついている。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はやゝ下膨しもぶくれの瓜実顔うりざねがおの、こんもり高い鼻の根に迫らぬやう切れ目正しくついてゐる両眼の黒い瞳に、長い睫毛まつげを煙らせて、地を見入つてゐるときには、何を考へてゐるか誰も察しがつかなかつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)