琥珀色こはくいろ)” の例文
形にして穹窿型きゅうりゅうがた、光にして琥珀色こはくいろ、それが朦朧もうろうと現われたのである。すなわち広太郎の正面へ、別の部屋が姿を現わしたのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
城隍廟じょうこうびょうのそば、観音庵かんのんあんの家にもどると、彼はすぐさま身支度にかかった。胸に銀甲を当て、琥珀色こはくいろほうに、兜巾ときんをつけ髪をしばる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お召物は純白で、琥珀色こはくいろのスカーフが肩からかゝつて胸を蔽ひ、腰のところで結ばれ、長いふちを縫つたはしの方は膝の下まで垂れてゐました。
「これは樽麦酒たるビールだね。おい君樽麦酒の祝杯を一つげようじゃないか」と青年は琥珀色こはくいろの底からき上がるあわをぐいと飲む。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女でもああ云ふ顔をしたのは、存外人を食つてゐるものだ。その上色も白い方ぢやない、浅黒いとまでは行かなくつても、琥珀色こはくいろ位な所はあるな。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
甲斐は箱膳をひきよせ、蓋を盆にして、茶碗を二つ出すと、自在鍵じざいかぎに掛っている茶釜から、琥珀色こはくいろの茶のようなものをんで、一つを周防にすすめた。
しかし純一の目に強い印象を与えたのは、琥珀色こはくいろの薄皮の底に、表情筋が透いて見えるようなこの女の顔と、いかにも鋭敏らしいなざしとであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただ泣いておいで、おまへの琥珀色こはくいろの涙へ、わたしは指環ゆびわしるしを押してあげる、あとの思出のたねとして。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
もろもろの陰は深い瑠璃色るりいろに、もろもろの明るみはうっとりした琥珀色こはくいろの二つに統制されて来ると、道路側のかわら屋根の一角がたちまち灼熱しゃくねつして、紫白しはく光芒こうぼう撥開はっかい
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、ロッセ氏は、琥珀色こはくいろの液体の入ったグラスを高くさしあげて、唇へ持っていった。
末の妹のカロラインが、つきまとわるサン・ベルナール種のレックスを押しのけながら、逸早いちはやく戸を開けると、石油ランプの琥珀色こはくいろの光が焔の剣のような一筋のまぶしさを広縁に投げた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
琥珀色こはくいろの雲が二つ三つ空にうかび、風はそよりともせず、雲は動かなかった。
こおったような姿勢で、琥珀色こはくいろ干涸ひからびた身体に向いあって立っている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
家系に黒人の血でも混入しているのか、浅黒い琥珀色こはくいろの皮膚をしていて、それがまた、魅惑を助けて相手の好奇心をそそる。けだるい光りを放つ、鳶色とびいろの大きな眼。強い口唇に漂っている曖昧あいまいな微笑。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼の足を持ち上げていてくれるその西洋人は、ようやく意識を回復しだした彼の上にかがみながら、ボオイの持ってきたらしい琥珀色こはくいろのグラスを彼のくちびるに押しあてた。彼はそれを一息に飲み干した。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そしてここに住む者の冷静でむらのない気質に相応した波だちのない永久的なおちつきが、琥珀色こはくいろの夕方の空におけるごとくそこを支配している。天はわれわれの頭上のみならず足下あしもとにもあるのだ。
かの女たちは小指のような微生物まで琥珀色こはくいろの液体で染めた。
戦争のファンタジイ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
琥珀色こはくいろに優にやさしくたなびいている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老人は首肯うなずきながら、朱泥しゅでい急須きゅうすから、緑を含む琥珀色こはくいろ玉液ぎょくえきを、二三滴ずつ、茶碗の底へしたたらす。清いかおりがかすかに鼻をおそう気分がした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と思って眠る夜ごとに、彼のまぶたには、琥珀色こはくいろの鷹の眼と、うれいに腫れているお光の眼とが、こもごもに見えて、その間に、母の姿が明滅していた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眉目びもく端正な顔が、迫りるべからざる程の気高い美しさを具えて、あらたに浴を出た時には、琥珀色こはくいろの光を放っている。豊かな肌はきずのない玉のようである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
髮にも亦琥珀色こはくいろの花をつけてゐらつしやいましたが、それが捲毛の眞黒なふさによく引き立つてゐました。
それはくくあごの、眼の大きい、白粉おしろいの下に琥珀色こはくいろ皮膚ひふいて見える、健康そうな娘だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
水戸が酒壜を持ってホーテンスの盃に琥珀色こはくいろの液体を注ぎそえた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
だが、鷹の眼は、彼が良家の女をうかがう時のように冷智に澄ましていた。夕月に光る琥珀色こはくいろの双眸が星のように光る。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから十分ばかりたったあとの事である。白葡萄酒のコップとウイスキイのコップとは、再び無愛想なウェエタアの手で、琥珀色こはくいろの液体がその中にみたされた。いや、そればかりではない。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
琥珀色こはくいろを帯びた円い顔の、目のふちが薄赤い。その目でちょいと花房を見て、直ぐに下を向いてしまった。Clienteクリアント としてこれに対している花房も、ひどくこびのある目だと思った。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
白い男は、にも云わずに、手に持った琥珀色こはくいろくしで軽く自分の頭をたたいた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おほひをかぶせた燈火あかり卓子テエブルの上に据ゑてあつた。もう暗くなりかけてゐるのだ。そこには昔の通りに、琥珀色こはくいろとばりの掛つた大きな四本柱の寢臺ベッドがあり、化粧机があり、肘掛椅子があり、足臺があつた。
そういって帆村は、何か恐ろしいことでも思い出したらしく、大きい溜息をつくと、ビールを口にもっていって、琥珀色こはくいろの液体をグーッとした。筆者わたくしびんをとりあげると、静かにいでやった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、時親はその老い骨を猫背に一そうぺしゃんと腰をすえて、琥珀色こはくいろのひとみでキラキラ見ているだけだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眸が琥珀色こはくいろだった。六尺近くも背があった。生涯六十何度かの試合に勝ちとおした。一生妻もめとらなかった。晩年は髪もくしけずらず湯にもはいらなかった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊織は、野葡萄のぶどうへよく来るむささびの顔を覚えている。あの琥珀色こはくいろの眼が、草庵からのせいか、妖怪のそれのように、怖ろしくぎらぎら光っているのだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時には、おおきなとりが来たり、床下から、山猫が、琥珀色こはくいろの眼で、人の顔を、のぞきあげたりする。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琥珀色こはくいろひとみを、油断なくぎすまして、獲物を空に追う鷹の姿を、巌流の眼がまた、追っていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっと見つめ返すと、その眼は、琥珀色こはくいろになったり暗藍色あんらんしょくになったりいろいろに変って光る気がするのである。武蔵は、遂に眼が痛くなって、先にひとみをそらしてしまった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紀州犬としてもすぐれた名犬にちがいなかろう。琥珀色こはくいろにかがやく眼、黒く濡れ光っている鼻頭びとうのほか、全身の毛は雪を思わせる。そして大きなこと、白熊のようなといってもよい。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひじりのおひとみは二つあって、琥珀色こはくいろをしていらっしゃる)とか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)