煽動せんどう)” の例文
彼はそのことに驚きはじながらも一方その残忍な肉感——それは決して快感ではない——を自ら誇張し、煽動せんどうしようと努力していた。
そしてその結論としての国民の覚悟かくごについて述べだしたが、もうそのころには、かれはかなり狂気きょうきじみた煽動せんどう演説家になっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
イエスは決して政治運動を組織し、もしくは暴動を煽動せんどうする人ではなかったが、ヘロデはヘロデ流にイエスを恐怖したのである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
内乱を煽動せんどうする記事を毎日掲げていた。実を言えば、それもただ言葉の上のことだけで、実際の腕力沙汰ざたになることはめったになかった。
文學作品は、この視角から見たとき、直接間接の宣傳もしくは煽動せんどうの手段としてしか意味がない。これは、政治的に全く正しい解釋である。
親類の者や、友人たちからも、そう煽動せんどうされるくらいだったが、それが生れつきであろう、彼自身にもどうにもならなかった。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「工員を煽動せんどうしてストライキを起こさせ、そいつを種に社長を強請ゆする。……きみのような人間がいるからだよ、運動が途中で挫折ざせつするのは」
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さて、広庭のざわめきが一瞬静まって一同が己の方を振向いたと知ると、今度は群集に向って煽動せんどうを始めた。太子は音に聞えた臆病者おくびょうものだぞ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これに煽動せんどうされた吉田、原、早水、堀部などは、皆一種の興奮を感じたように、いよいよ手ひどく、乱臣賊子を罵殺ばさつしにかかった。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わるいのは校長でもなけりゃ、おれでもない、生徒だけにきまってる。もし山嵐が煽動せんどうしたとすれば、生徒と山嵐を退治たいじればそれでたくさんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
排日熱が過度に煽動せんどうされ出したので、何事も米国人との交渉は思うように行かずにその点で行きなやんでいるとの事だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
せっかくここまでおとなしくついて来たのにいろいろな注智恵さしちえをしてこの正直な男を煽動せんどうしちゃあ困るわいと気遣って居ると
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だとすれば、それを現実の政略や煽動せんどうの目的で何と呼ぼうとも、実はそれ自身が、新しい国家的統制組織のほかの何物でもあり得ないのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
部下の不正行為を煽動せんどうして、ますます松浦屋を窮地に落させた、いわば涜職とくしょく事件の首魁しゅかいといってもいい人物なのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その結果が意外な根柢ある革命的煽動せんどうが下層社会に初まったり、美くしいヒューマニチーが貧民の間に発現されたりする。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
須山は考えていたが、「こゝまで準備は整っているし、みんなの意気も上がっているのだから、あとは大衆的煽動せんどうで一気に持って行くことだ。」
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
煽動せんどうし、怠業たいぎょうの仲間にひき入れ、故意に予定を支障させて、表には出し得ない卑屈な反抗を、当事者の狼狽と、秀吉軍の敗北という結果に見て
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎政治家の煽動せんどう演説におだてられて、中学生的無邪気の感激でね廻るような文学は、何等の叙事詩エピックでもなく叙事詩的エピカルなものでもありはしない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
この強力な煽動せんどう者は、その知力と信念と性格とによって、ヨーロッパのあらゆる革命運動の指導的頭脳となっていた。
阿諛おべつか煽動せんどうとで育てられた、手の付けやうのない自惚うぬぼれとがあり、考へやうでは、この頃の大身の武家にありさうな、世間並の若樣でもあつたのです。
始終心安くなっている小侍従という宮の女房を煽動せんどうするようなことを言い、無常の世であるから、御出家のお志の深い院が御遁世とんせいになる場合もあったなら
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その周囲にあつまっているもろもろの者どもが何か詰まらないことを言って彼らを煽動せんどうしたり、あるいは虎の威を仮りて座方をいじめたりしたのであろう。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも彼女という肉体のない幽霊を使って、彼の蜂の巣のように破れた脳を煽動せんどうしているようにさえ思えた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
ぢや、梅子、わし明朝一番滊車ぎしやで九州まで行つて来るから——是れもみんな篠田の仕業しわざだ、坑夫共を煽動せんどうして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「フン、それもよかろう。だが何かね。波田、おまえは自分から進んで、この要求書に捺印なついんしたんじゃないだろうな。だれかが、お前を煽動せんどうしたんだろうな」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
本国でシベリアへ流された外に、諸方で獄につながれたことがある。無政府党事件としては一番大きい Juraユラ の時計職人の騒動も、この人が煽動せんどうしたのだ。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こんな話を聞くと、但馬が意識して、周囲に働きかけるわけではないことがわかるんだが、——但馬のそうした妙な作用は、もちろん悪事の煽動せんどうだけじゃない。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
二十世紀の新しい芸術は君たちの手中に在ると大声で煽動せんどうせられても、私は苦しく顔をゆがめて笑っただけでした、という事だけを申し上げて、その余の愚痴めいた事は
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
皆と一緒いっしょにいるときは、軽蔑けいべつした風をしていますが、ひとりで逢うと、時々、「おおいに、若いときのおもをつくれよ」とか、文科の学生らしく、煽動せんどうしてくれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「残った連中を煽動せんどうして、同盟罷業ひぎょうをやらせようと、さかんき廻っているということですが」
ああ、いまになって妾はこの社会の共産主義的煽動せんどうの任務を放棄したいとさえ考えるのです。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
日ごろ西郷にこころよからぬ人々が西郷の挙動をもって正反対の意味あるがごとくに言い放ち、西郷は名を浪士の鎮撫ちんぶるが、実はこれを煽動せんどうするものであると、島津久光しまづひさみつ公に告口つげぐちした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
昨日きのう、西村商会の工場を訪ねて、工員を煽動せんどうする首領が舟木であるということを知り、その行方を部下の者に捜させておりますと、この病院へ松本正雄の仮名で入院していることが分かったので
浅井は女を煽動せんどうするような、危険な自分の好奇心を感じながら言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
およそ一週間ばかり毎日のように社説欄内をうずめて、又藤田、箕浦が筆を加えて東京の同業者を煽動せんどうするように書立かきたてゝ、世間の形勢如何いかんと見て居た所が、不思議なるかなおよそ二、三ヶ月もつと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
オンドリは前に集まっているトロ族たちを煽動せんどうした。さっきまでは彼は平和愛好者のような顔をしていたのに、今はもうがらりと変って煽動者をつとめている。なんといういやしい根性こんじょうの持主だろう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四人を使嗾しそうして綱宗に遊蕩をすすめ、かれらを使嗾したという事実、を湮滅いんめつするために、七兵衛らを煽動せんどうしてこれを暗殺した。
彼らは芝居でも見るような気になっていた。群集を煽動せんどうしていた。心痛な焦慮に少しおののきながら、兵士らが襲いかかるのを待っていた。
鏡は己惚うぬぼれの醸造器であるごとく、同時に自慢の消毒器である。もし浮華虚栄の念をもってこれに対する時はこれほど愚物を煽動せんどうする道具はない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
イエスが国民を煽動せんどうして、ローマ皇帝にみつぎを納むることを禁じたなどということは、全く事実に反した誣言ふげんであった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
田畑を奪われそうになっている内地の貧農を煽動せんどうして、移民を奨励して置きながら、四、五寸も掘り返せば、下が粘土ばかりの土地に放り出される。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
僕は大学に在学中、雲州うんしう松江まつえ恒藤つねとうの家にひと夏居候ゐさふらふになりしことあり。その頃恒藤に煽動せんどうせられ、松江紀行一篇を作り、松陽新報しようやうしんぱうと言ふ新聞に寄す。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一揆の僧俗そうぞくは七万をこえ、なお、一向僧の煽動せんどうにのって、くわをすて、あきないをなげうって、自暴自滅の騒乱へ身を投じるものが日に増しふえるばかりだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこれらが一見大衆の自発的運動のようにみえるときにも、必ず背後にこれを発案し、組織し、煽動せんどうし、指導する者が存在することはいうまでもない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
それは、藤原が説きすすめたためであっただろうか、あるいは彼が「煽動せんどう」したものであっただろうか。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
近来社会党がナカ/\跋扈ばつこ致しまして、今回坑夫の同盟なども全く、社会党の煽動せんどうから起つたので御座ります、此分では将来何の事業でも発達上、非常な妨碍をかうむりまするわけで
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と三人の人間が——外伝と新助と女勘助とであったが、三方に分かれて煽動せんどうしていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこへつけ込んで、争議で飯を食っている連中の、煽動せんどうよろしきを得たのである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
広九鉄道を破壊して汕頭スワトウ方面に向けて敗走したが、再び共産主義の煽動せんどうによって市内に農民工人を一団にした暴動が勃発して吉祥路きっしょうろの司令部を襲い、公安局その他政府諸官庁に向ったが
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
常に丹之丞とお勝を煽動せんどうして、レールへ乘せない工夫ばかりして居るのでした。