漸々ようよう)” の例文
など話しながら、足は疲労くたびれても、四方あたりの風景のいのに気も代って、漸々ようよう発光路に着いたのがその日の午後三時過ぎでありました。
事務所から疲れ切って道子は義兄と会食の約束があった竹葉へかけつけ、折角であった御馳走も今漸々ようよう胸に落付いたような工合である。
築地河岸 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして、漸々ようようブランコに這上ることは出来たが、もうとても、葉子の手にぶら下って、元のブランコに飛び帰る事は出来なかった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
世の中は不患議なもので、わたしもそのまま死にもせず、あれから幾十いくその寂しさ厭苦つらさをけみした上でわたしは漸々ようよう死にました。
昨日きのう私が越した時は、先ず第一番の危難に逢うかと、膏汗あぶらあせを流して漸々ようようすがり着いてあがったですが、何、その時の親仁は……平気なものです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はここまで来て漸々ようよう奥さんを説き伏せたのです。しかし私から何にも聞かないKは、この顛末てんまつをまるで知らずにいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おや何かしらん」とあやしみつつ漸々ようようにそのわき近付つかづいて見ると、岩の上に若い女が俯向うつむいている、これはと思って横顔を差覘さしのぞくと、再度ふたたび喫驚びっくりした。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
夜がけるにつれ、夜伽よとぎの人々も、寝気ねむけもよおしたものか、かねの音も漸々ようように、遠く消えて行くように、折々おりおり一人二人の叩くのがきこえるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
御旗本ヘ対シテ不礼言語同断ノ故とがメシナリ、講中漸々ようよう広クナラントスル時ニ、最早心ニおごリヲ生ジタ故、右ノ如ク不礼アリ、随分慎ンデ取続ク様ニトテ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母「本当にまア私はどんなに案じたか知れないよ、何所どこに何うして居るかと思ったうち漸々ようよう天神山に居ることが知れてねえ、手紙を出したが知れましたろう」
それが漸々ようようとその議論を聴き、技倆ぎりょうを認め、ついに崇敬することとなりこちらから降服したという姿です
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
漸々ようようのおもひで、金を貰ひに行つたのさへ、たゞ母親の不機嫌な顔を見るのが嫌なばかりなのに、さうして、どうにか持つて帰つて、まだ座りもしない前からいきなり
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
お勢はその頃になッて漸々ようよう起きて来て、入ろうとする、——縁側でぴッたり出会ッた……はッと狼狽うろたえた文三は、かねした事ながら、それに引替えて、お勢の澄ましようは
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それで漸々ようよう真相ことが解かりましたわい。実は私も見付の在所で、お下りのお客様からそのお噂を承りましていささか奇妙に存じておりましたところで……と申しますのはほかでも御座いませぬ。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
漸々ようよう二人が近寄ってつい通過とおりすぎる途端、私は思わずその煙草たばこを一服強く吸った拍子に、その火でその人の横顔を一寸ちょいと見ると驚いた、その蒼褪あおざめた顔といったら、到底とうてい人間の顔とは思われない
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
この事は非常に秘密にいたしをり候やうにうけたまわりをり候が実は今度東京の慶応義塾にてその文学部を大刷新しこれより漸々ようよう文壇において大活動をさむとする計画これありそれにつき文学部の中心となる人物を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「それで二人は」と岡本が平気で語りだしたので漸々ようよう静まった。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
秋も漸々ようよう終ろうとする頃
母へ (新字新仮名) / 長沢佑(著)
これから漸々ようようそのことについて語り、生活のよりよい建設に参加する意志に立つ文学を生み出すことを、どうして期待せずにいられよう。
明日咲く花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
漸々ようよう人の手にたすおこされると、合羽を解いてくれたのは、五十ばかりの肥ったばあさん。馬士まごが一人腕組うでぐみをして突立つッたっていた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが彼が北の田舎いなかから始めて倫敦ロンドンへ出て来て探しに探し抜いて漸々ようようの事で探してた家である。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ノキ場所ヲ見附ケルニ折悪おりあシク脚気ニテ、久シク煩ッテイタ故、歩クコトガ出来ヌカラ、人ニ頼ンデ漸々ようよう入江町ノ岡野孫一郎トイウ相支配ノ地面ヘ移ッタガ、ソノ時オレハ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彦七が漸々ようよう其の長屋の前まで歩いて来ました時に後ろから瓦屋の隠居が声をかけました。
火つけ彦七 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
わっちおっかねえから真堀の定蓮寺へ逃込んで漸々ようようの事で助かったがうちを出る時ア兄貴と喧嘩アして兄弟きょうでえの縁を切る、二年越も世話になった女と一緒になるも厭になって、まごつき出した日にゃア
夜伽よとぎの人々があつまってる座敷の方へ、フーと入って行った、それが入って行ったあとには、例の薄赤いの影が、漸々ようようと暗くかげって行って、真暗になる、やがて暫時しばらくすると、またそれが奥から出て来て
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「ですから三円だけ漸々ようようこしらえましたから……」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
昨日夕方の六時頃漸々ようよう自分は此丈は間違わずにやってしまい度いと思って居た、「黄銅時代」の第一部の初稿を終った。
「覚えがあるのでございますもの。貴下あなたが気をつけて下すって、あの苫船の中で漸々ようよう自分の身体になりました時も、そうでした、……まあ、お恥かしい。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漸々ようよう切先ガ一寸半モカカッタト思ッタ、大勢ノ混ミ合イ場ハ長刀モヨシワルシダト思ッタ、多羅尾ハ禿頭故ニきずガツイタ、ソレカラ段々喧嘩ヲシナガラ、両国橋マデ来タガ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
であるから近頃に至って漸々ようよう運動の功能を吹聴ふいちょうしたり、海水浴の利益を喋々ちょうちょうして大発明のように考えるのである。吾輩などは生れない前からそのくらいな事はちゃんと心得ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『これで散々待たされた挙句に、漸々ようよう面会して五分と話が出来ないんだから嫌んなちやふよ。ろくに話も何んにも出来やしねえ。五分や十分会はしたつて罰も当らねえだらうがなあ。』
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
真堀の定蓮寺に海禪さんが留守居をして独りで居るから彼所あすこへ行って炉のはたに己が寝て居るから知れねえように中へ這入へえれ、左様そうすればとっくり寝物語にしてやろうと漸々ようようだましてわっちは一足先へ来たが
日本の文芸批評は、十年ほど前に鑑賞批評、印象批評から発展して、漸々ようよう社会的文学的にある客観的な意義をもった評価を試る段階にまで達した。
今だってやっぱり、私は同一おなじこの国の者なんですが、その時は何為なぜか家を出て一月あまり、山へ入って、かれこれ、何でも生れてから死ぬまでの半分は徜徉さまよって、漸々ようよう其処そこを見たように思うですが。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漸々ようよう二叉ふたまたに到着する時分には満樹せきとして片声へんせいをとどめざる事がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近頃、漸々ようよう一体の注意を呼び始めた、ロシアの大飢饉と云うことに対しても、真の意味で、友誼的であるべき諸邦の愛が、私は、余り鈍っていると思う。
アワァビット (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
急にものもいわれなんだが漸々ようよう
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分が人及び女性として、漸々ようよう僅かながら立体的の円みをつけ始めると、同性の生活に対して、概念でない心そのもので対せずにはいられなく成って来た。
概念と心其もの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僅か十四五の時、両親には前後して死去され、漸々ようよう結婚が未来の希望を輝せ始めると、思いもかけず長年の婚約者との間に、家族的な障碍がよこたえられました。
頭の中も漸々ようようまとまりかけ、体も熟して来た今になって、近い内に、そのすべてがこの地上から消滅して仕舞うのだと思うと、人々の記憶に残るほどの仕事も
ひととき (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
漸々ようよう肉体の表現にも美をみとめるところまで来たロマンティシズムが、『明星』特に晶子の芸術において
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
二日経って漸々ようよう保が発見された時、猛毒アリと大きく書いた紙が貼ってあって半地下室へ入れず、外から僅にガラスを破壊して一刻も早く空気交換をせんとすれども
おもかげ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから一時期、沈み切らないで、今漸々ようよう又自分でもやっと力の出し切れそうに思われる沈潜性が、粘りが、絡みが、生じはじめている。何と時間がかかるでしょう。
この頃漸々ようよう、学校の休になって、長い間かかって居たものを二三日前に書きあげたけれ共、それにつける丁度いい題に困りきって、昨夜ゆうべも今もいやな思いをしつづけて居る。
草の根元 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
漸々ようよう、炬燵部屋まで持って来は来ても、早速読む気になれずに、幾度も幾度も、自分で妙だと思う程繰返して、My dearest love! と云う一字丈をながめる。
それだのに、「女大学評論」の公表されたのは漸々ようよう明治三十二年になってからであった。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私たちの文化も、漸々ようようこれから私たちのものとして成長しはじめようとしている。
漸々ようよう新婦人協会が治安警察法第五条の改正を議会に請願し、世界の社会情勢に押されて一九二二年(大正十一年)その改正建議案は貴衆両院を通過したが、その三年後には当時の内閣が
そのやって見てわかるところが漸々ようよう身について来たようなところがあるのです。
先頃までは鈍かった感触が此頃漸々ようよう有るべき発育を遂げたらしい心持がする。
追慕 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)