溺死できし)” の例文
また世間にては、人の水中に溺死できしせるときに、その死体の沈んでいる所を知るには、水天宮の御札を流せば必ず分かると信じている。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それから、ばあさんの溺死できしの死骸がですな、大川へ流れ出て、潮の加減で向う側の深川の竪川堀へ流れ込みそこで発見されたんです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの中で二十人は凍死したか、ボートで溺死できししたか、どちらにしてもあの船の乗組員が助かるということは考えられないことだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「ああ、そうだった、ぼくが地下道の中で溺死できしするとき、あなたはぼくを助けてくだすったのですね。ありがとう、ありがとう」
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたはK君の溺死できしについて、それが過失だったろうか、自殺だったろうか、自殺ならば、それが何に原因しているのだろう
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
慶応元年六月十五日の夜は、江戸に大風雨おおあらしがあって、深川あたりは高潮たかしおにおそわれた。近在にも出水でみずがみなぎって溺死できし人がたくさん出来た。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
で、女の隙を見て首根っこをおさえつけ、あっさり溺死できしさせてしまう。それから女の下着は窓の外へ投げ、女のドテラを着こんで忍び出す。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
漁舟りょうぶねや、沖を航海している帆前船などが難船して、乗組の漁夫りょうしや水夫が溺死できししたりするのは、いつもその風の吹く時でした。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
彼の運命は遅かれ早かれ溺死できしするのにまっていた。のみならずふかはこの海にも決して少いとは言われなかった。……
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二千匹もの豚が溺死できししたのは、他人の財産に不当な損害を加えたものではあるまいか、所有権の神聖に抵触しはすまいか、などと聖書学者は論じます。
「青年時代に東京湾を横断したことがあります。すると、お互いに溺死できしさせられる心配は、まずないわけですね?」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水難といっても、必ず溺死できしするものと、きまったものではないので、氷水を飲み過ぎて下痢を起こして寝たというのも水難といえばいえない事もないのだ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
私は、なおも流れに沿うて、一心不乱に歩きつづける。この辺で、むかし松本訓導という優しい先生が、教え子を救おうとして、かえって自分が溺死できしなされた。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
業平橋の名もそれゆえに起りましたそうでございますが、都へお帰りの時船がくつがえって溺死できしされましたにより、里人さとびとあわれと思って業平村につかを建てゝ祭りました
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その八十吉は明治廿五年旧暦六月二十六日のひるすぎに、村の西方をながれてゐる川の深淵しんえん溺死できしした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
泳げないものでも決して溺死できしをするということがない、また身投げをしても、死ねないからおかしい
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又三郎はその子供たちや、みかけた人々に呼びかけて、この付近で溺死できしした者はなかったかどうか、と訊きながら、すっかりうちひしがれたような気持で歩いていった。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
単に溺死できしした場合にあるようなあわは出ていなかった。細胞組織の変色はなかった。咽喉のどのあたりには傷痕きずあとと指の痕とがあった。両腕は胸の上に曲げられ、硬くなっていた。
しかしいずれにおいても、投ぜられた女らは腕をねじ合わして苦しんだ。一方には波濤はとうがあり、一方には墓穴があった。一つは溺死できし、一つは埋没。おぞましき類似である。
山から海へ、避難民は続々としておしかけたが、そこでもまた猛火に包まれて焼死する者、あるいは海に入って溺死できしする者など、その惨状は全く眼のあてられないものがあった。
焦土に残る怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すなわち今朝! そこでそれがし申し上げる! お捨てなさるがよい、一切の過去を! 溺死できしと一緒に、海の底へな! ……過去における貴殿の思い立ち、私見をもって致しますれば
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時々は家の主も瓜の種なぞひたして置く。松葉まつばが沈み、蟻や螟虫あおむし溺死できしして居ることもある。尺に五寸の大海に鱗々の波が立ったり、青空や白雲がこころ長閑のどかに浮いて居る日もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それらの屍骸は皆全身に土砂がこびり着いていて顔も風態ふうていも分らぬこと、神戸市内も相当の出水で、阪神電車の地下線に水が流れ込んだために乗客の溺死できし者が可なりあるらしいこと
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それからチーリンスへ還ってアンテアを欺き、飛馬に同乗するうち、突き落して海中に溺死できしせしめたまでは結構だったが、ベレロフォン毎度の幸運におごって飛馬に乗り昇天せんとす。
伊東は愛する懐かしい人たちばかりで埋まった死人台帳に宝沢の名を書き込み、その日の日記の終わりに——宝沢法人、鴨猟かもりょうのため、兜岩に赴き、暴風雨に遭難、溺死できしす。享年四十二歳。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
アリスが溺死できししたとみると、ブラドンはそっと部屋へ帰って、買ってあった鶏卵を六個その商店の紙袋に入れたたまま抱えてたれにも見られないように表玄関からコッカア街の通りへ出た。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼女はただぼんやりとそれに従った。晩になって、彼女は口をききだした。連絡のない言葉ばかりだった。ライン河のことが出た。彼女は河に溺死できししたがっていたが、十分の水がなかった。
ひとり病気のみでない。彼らは、餓死する。凍死もする。溺死できしする。焚死ふんしする。震死する。轢死れきしする。工場の機械にまきこまれて死ぬる。鉱坑のガスで窒息して死ぬる。私欲のために謀殺される。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
駅中えきちゆうは人の往来ゆきゝために雪をふみへしてひくきゆゑ、流水りうすゐみなぎきたなほあぶれて人家に入り、水難すゐなんふ事まへにいへるがごとし。いく百人の力をつくして水道すゐだうをひらかざれば、家財かざいながあるひ溺死できしにおよぶもあり。
此処このところ寛政三年波あれの時、家流れ人死するもの少からず、此の後高波の変はかりがたく、溺死できしの難なしというべからず、これに寄りて西入船町を限り、東吉祥寺前に至るまでおよそ長さ二百八十間余の所
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こりゃ、君、僕に……溺死できしするなというなぞだネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「みな溺死できししました。しかし諸君は何者です」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
わしは今、お前に溺死できしするように宣告する!
判決 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「でも、そのために、みんな溺死できしします」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
その水中にて溺死できしするはめでたいように思い、ひとたびその水にて手足を洗えば六根清浄ろっこんしょうじょうとなり、身心のけがれが一時になくなると信じておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
八木君は、溺死できししたのではなかろうか。土台石を元へもどすよりも、早く八木君をかいほうしてもらいたいと、この際、誰でも思うであろう。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は肉体的にはもちろんであるが、精神的にもこの上ない疲労を感じて、チエンロッカーから上がった時はまるで溺死できししそこねた人のようであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
老女中の島はと訊きますと、わたくしが家出後二三日目に誤って河へ滑り込み溺死できしをしてしまったということです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕はこの商標に人工の翼をよりにした古代の希臘人を思い出した。彼は空中に舞い上った揚句、太陽の光に翼を焼かれ、とうとう海中に溺死できししていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小さな洗面器による溺死できしという奇矯性に面白さがある。しかし、これは小説上のことで、実際には相手が無力な病人ででもない限り、なかなかできるものではない。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一八二三年十一月十七日——昨日、オリオン号の甲板で労役に従事していた一囚徒は、一人の水夫を救助して帰り来る時、海中に墜落して溺死できしした。死体は発見されなかった。
十一月二十六日より二十九日にわたって数万のフランス兵が殺戮さつりくされあるいは溺死できしした。
峻厳しゅんげん執拗しつよう、わが首すじおさえては、ごぼごぼ沈めて水底這わせ、人の子まさに溺死できしせんとの刹那せつな、すこし御手ゆるめ、そっと浮かせていただいて陽の目うれしく、ほうと深い溜息、せめて
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あのしまきがこの海岸に達すると、もう本物の南東風くだりだ、もう、それも十分じっぷんがない、——白山、南東風くだり、難破船、溺死できし——、こういうかんがえがごっちゃになって為吉の頭の中を往来しました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
彼は海に落ちて溺死できしせしものにて、その左手にしかと彼の麦藁帽子をつかみおり候より察するに、風に吹払われて海へとびし帽子を拾わんとして、過ってこの結果をみたるやと、一同の意見一致し候。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
○ 漁夫ぎよふ溺死できし
「いいや、そうはいえない。僕の説の方が正しい。そうでしょう、この実験動物は、まさ溺死できししてしまったじゃないですか」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてまた一方は湖になっていて毎年一人ずつ、その中学の生徒が溺死できしするならわしになっていた。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
この実例は水中にて溺死できしせるものに毎度ある出来事なれば、余が地方巡遊中にもたびたびこれについて質問を受けることがある。よって、ここに一言しておこうと思う。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ポン・トー・シャンジュとポン・ヌーフの二つの橋の間の洗濯舟せんたくぶねの下に溺死できししてるのが発見された、しかるに彼は元来上官からもごく重んぜられ何ら非難すべき点もない男であって