渦巻うずまき)” の例文
旧字:渦卷
そうして、その不安の渦巻うずまきの回転する中心点はと言えばやはり近き将来に期待される国際的折衝の難関であることはもちろんである。
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
咲耶子さくやこにあわぬ失望しつぼうは、そのうれしさにおぎなわれて、朱柄あかえやりつばなしの戒刀かいとうは、なんのためらいもなくその渦巻うずまきのなかへおどった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風が吹き過ぎるのを見てる傍観者にすぎないとみずから考えていた。がすでに風は彼の身に触れて、塵埃じんあい渦巻うずまき中に彼を引込みつつあった。
それから青や紺や黄やいろいろの色硝子いろガラスでこしらえた羽虫が波になったり渦巻うずまきになったりきらきらきらきら飛びめぐりました。
と何の苦もなく釿もぎ取り捨てながら上からぬっと出す顔は、八方にらみの大眼おおまなこ、一文字口怒り鼻、渦巻うずまき縮れの両鬢りょうびんは不動をあざむくばかりの相形そうぎょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
福子は黙って台所へ立って行って、渦巻うずまきの線香を捜して来ると、それに火をつけてチャブ台の下へ入れてやった。そして
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを、渦巻うずまきに巻き込まれて、とても命がないと思ったものだから、海へ出ないで、穴の中へ泳ぎ込んでしまったのだよ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恋の渦巻うずまきの中心に立っている今のお前には、恋それ自身の実相が見えないのだ。恋の中には呪いが含まれているのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
充分の思慮もせずにこんな生活の渦巻うずまきの中に我れから飛び込んだのを、君の芸術的欲求はどこかで悔やんでいた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから……。鏡ノ夫人の黙想は、この辺りからぐるぐるめぐりはじめて、しだいに烈しい渦巻うずまきになつていつた。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
袋入りのバター・ピーナッツを入れたびん、それから、ドーナツ、ワップル、シュークリーム、渦巻うずまきカステラのたぐいを収めたガラスの菓子箱がならんでいる。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
遅かれ早かれ自分は谷底に落ちねばならぬとは十分に承知しているくせに。渦巻うずまきにまき込まれないからとて、けっして幸福ではないことも承知しているくせに。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あのようになると、地球と月とに釘付けされたまま、もう自力では宇宙を飛ぶことはできなくなるのだ。引力の場が、あすこに渦巻うずまきをなして巻き込んでいるのだ
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
客席きゃくせきからは浜村屋はまむらやッというこえが、いしげるようにこえてるかとおもうと、御贔屓ごひいきこえわめこえ、そいつがたちま渦巻うずまきになって、わッわッといってるうちに
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
茂緒はひとりうつ伏せになり、この青春の渦巻うずまきにとけこめず、しのび泣きをしていたのだった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
船にいま吹きつけている風のために、私たちはストロムの渦巻うずまきの方へ押し流されることになっているのです、そしてもうどんなことも私たちを救うことができないのです!
名代福山なだいふくやま蕎麦そば(中巻第一図)さては「菊蝶きくちょうの紋所花の露にふけり結綿ゆいわたのやはらかみ鬢付びんつけにたよる」瀬川せがわ白粉店おしろいみせ(中巻第八図)また「大港おおみなと渦巻うずまきさざれ石のいわおに遊ぶ亀蔵かめぞうせんべい」
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
子供に交って遊んだ初から大人になって社交上尊卑種々の集会に出て行くようになった後まで、どんなに感興のき立った時も、僕はその渦巻うずまきに身を投じて、しんから楽んだことがない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何もない虚空こくうに目に見えない力の渦巻うずまきだけがあって、その渦のき方がだんだん速くなる。するとその力がって物質が徐々に生れて来るような幻想が、いつの間にか頭の中に出来てしまった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして艇はなおも続いた喝采の渦巻うずまきの中で静かに水面に漂わされていた。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
佐保山の御陵に眠る聖武天皇ならびに光明皇后のみたま、中天をこがす炎の渦巻うずまきをいかなる御心にて観ぜられたであろうか。御二方の身命をささげられた大伽藍は、一朝にして滅びて行ったのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
千代子と僕に高木を加えてともえを描いた一種の関係が、それぎり発展しないで、そのうちの劣敗者に当る僕が、あたかも運命の先途せんどを予知したごとき態度で、中途から渦巻うずまきの外にのがれたのは
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしだよ、木戸君の犠牲でやっと分かったのは、あの『天母生上の雲湖ハーモ・サムバ・チョウ』の主峰の雲の正体だ。あれは、おおきな気流の渦巻うずまきなんだ。海には、ノルーウェーの海岸にメールストレームの渦がある。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは人が作るというよりも、むしろ自然が産むとこそいうべきであろう。「うま」と呼ばれる皿を見よ、如何なる画家も、あの簡単な渦巻うずまきを、かくも易々やすやすと自由に画くことは出来ないであろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お互いに、渦巻うずまきのなかへ巻きこまれてしまったのね。……あのころのわたしは、子供みたいにはしゃいで暮していたわ——あさ目がさめると、歌をうたいだす。あなたを恋してたり、名声を夢みたり。
多年藤原ふじわら博士の心にかけて来られた渦巻うずまきに関する各種の現象でも、実にいろいろの不思議な問題が包蔵されているようであるが
物理学圏外の物理的現象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
南蛮寺なんばんじ屋根やねてんおかたい、さらに四方の山川まで、たちまち箱庭はこにわを見るように、すぐ目の下へ展開てんかいされて、それが、ゆるい渦巻うずまきのように巻いてながれる……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいつだ。……三重さんじゅう渦巻うずまきだ。……ここに証拠がある。……こいつが殺人鬼だ。アア、恐ろしい」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
渓流が流れて来て断崖だんがいの近くまで来ると、一度渦巻うずまきをまき、さて、それから瀑布ばくふとなって落下する。悟浄よ。お前は今その渦巻の一歩手前で、ためらっているのだな。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
が、そこいらは打寄せる波が崩れるところなので、二人はもろともに幾度も白い泡の渦巻うずまきの中に姿を隠しました。やがて若者はうようにして波打際にたどりつきました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
隆夫はよろこびと、おかしさと、もの足りなさの渦巻うずまきの中にあって、ぼーッとしてしまった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
オリヴィエは沈んでゆく小舟のように、渦巻うずまきの中に没してしまっていた……。彼を目ざしたのではないある剣先が、彼の左の胸に達した。彼は倒れ、群集に踏みつけられた。
又三郎は来ないで、かえってみんな見上げた青空に、小さな小さなすき通った渦巻うずまきが、みずすましの様に、ツイツイと、上ったり下ったりするばかりです。みんなは又叫びました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平静な水面のような外見の底に不断に起こっていた渦巻うずまきがいかに強烈なものであったかは今私の手もとにある各種の手記を見ればわかる。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一種の快いリズムを以て、毒々しい勝利のささやきが、いつまでもいつまでも続いていた。渦巻うずまき花火の様な、目のくらむばかりの光り物が、彼の頭の中を縦横無尽に駈けまわっていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はオリヴィエといっしょに家を出かけたときからの一日のことを、また一々考えてみた。オリヴィエといっしょにパリーを歩いて、ついに渦巻うずまきの中に吸い込まれたところまでたどった。
そのことごとく利己的な、自分よがりなわがままな仕打ちが、その時の彼にはことさら憎々しく思えた。彼はこうしたやんちゃ者の渦巻うずまきの間を、言葉どおりに縫うように歩きながら、しきりに急いだ。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしその時刻にはもうあの恐ろしい前代未聞ぜんだいみもんの火事の渦巻うずまきが下町一帯に広がりつつあった。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真赤な渦巻うずまきの中を縞の様にポンプの水が昇った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たまの後ろに渦巻うずまきを起こして進んでいる様子を写真にとることもできるし、また飛行機のプロペラーが空気を切っている模様を調べたり、そのほかいろいろのおもしろい研究をすることができます。
茶わんの湯 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひょっとしたら、渦巻うずまきかも知れないのです。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通りの片側には八百屋物やおやものを載せた小車が並んでいます。売り子は多くばあさんで黒い頬冠ほおかぶり黒い肩掛けをしています。市庁の前で馬車を降りてノートルダームまで渦巻うずまきの風の中を泳いで行きました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)