さわ)” の例文
旧字:
げに珍しからぬ人の身の上のみ、かかる翁を求めんには山のかげ、水のほとり、国々にはさわなるべし。されどわれいかでこの翁を忘れえんや。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幸い妾宅しょうたくの家屋はお沢の名儀にしてあったので、両人話合の末それを売ってあらた芸者家げいしゃやさわの看板を買う資本にしたわけである。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
番茶をほうじるらしい、いゝ香気においが、真夜中とも思ふ頃ぷんとしたので、うと/\としたやうだつたさわは、はつきりと目が覚めた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この、のら息子の母親というのは、小野政秀おのまさひでの旧臣の後家ごけで、於通にとっても、育ての親——乳母のおさわなのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうさわあたりからはぽつぽつ桜が見え出した。山桜もあるが、東京辺のとは少し違った種類の桜もあるらしい。
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しもさわの勘公の間抜けで、やり損ないという段取りとなり、些少の擦創すりきず、かすり創だけで道庵を取逃がした以上は、第二の作戦に彼等が窮してしまいました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通り一丁目のさわ屋三郎兵衛の娘のお琴が、今日と言う日の真昼に、逆立さかだちをして日本橋を渡ると言うので、高札場こうさつばの前から、蔵屋敷の前へ湧き立つような騒ぎですよ
能代からあじさわへの予定線が今少し延長すると、この引力はさらに一段と強くなる見込みがある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかしておかあさんがむすめを抱かないほうの手を延ばしてその枝をつかむと、松はみずから立ちなおって、うれいにしずむおかあさんをさわの中から救い上げてくれました。
やまにも、さわにも、もはやべるものがなかったので、おおかみはこうしてひもじいはらをして、あたりをあてなくうろついているのです。すずめはそれを毎夜まいよのようにるのでした。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「竹崎と植物園に行く 温室には珍しき草の花数知れず。桜も今を盛りなり。ヒアシンスの紅白紫に咲き乱れたるは更に美し。昔ながらの園生の錦、昔しの人をしのぶ種もさわなり」
『団栗』のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
……梅子事すえの弟をれてとうさわ福住ふくずみへ参り居りそうろう処、水害のため福住はなみに押し流され、浴客よくかく六十名のうち十五名行方不明ゆくえふめいとの事にて、生死の程も分らず、如何いかんとも致し方なく
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何べんしかられてもあのあぶないところに行っていて、この人の形を遠くから見ると、げてどてのかげさわのはんのきのうしろにかくれるものですから、この人は町へ行って、もう一人
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこは信州小県郡ちいさがたごおりの山奥にありまして、一回りすれば二里もあるほど広々とした大牧場です。西のいりさわととなえる谷かげにおじいさんの牧夫が住んでいまして、牛をあずかってくれます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それより素話すばなしになりましてからはさわむらさき粟田口あわだぐち)についでは此の業平文治でございます。その新作の都度つどわたくしどもにも多少相談もありましたが、その作意の力には毎度ながら敬服して居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが、水だけは、じつにたくさんあった。山のけめという裂けめに、みちあふれていたんだ。どこにもかしこにも、みずうみや川や小川がある。もちろん、ぬまさわもひろびろとひろがっている。
独逸ドイツ人の経営しているパンションが、近頃かまさわの方に出来て、そこは冬でも開いていると云うことを、夏のうちから耳にしていたが、私がそれを見たのはついこの間のこと、——クリスマスを前に
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
名はおさわといった。大正三年の夏欧洲おうしゅう戦争が始まってから玩具がんぐ雑貨の輸出を業とした兼太郎の店は大打撃を受けたので、その取返しをする目算で株に手を出した。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おいおい、おいおい。そんな方角ほうがくじゃあない。もっと右の方だ、右の方の道をりろ。まだまだずッとさわの方——あの檜林ひのきばやしがこんもりしげっている向こうの谷だ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば津軽つがるあじさわの柱かつぎ、筑前ちくぜん博多のセンザイロウなどはまだ子どもの管轄に属している。そんな話をけば珍しがるだろうが、東京人の中でも小さなをかかえゆさぶって
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さわらしい不規則な水の形もまた海より近くに、平たい面を鏡のようにべていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しもさわの勘公——てめえ、また何というドジを踏みやがったんだ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いい次ぎつつ、おさわの落葉を掻寄かきよするに、少しずつやや退すさる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見かえして、そういうが早いか、燕作のからだは、いわ着物きものをきせてころがしたように、そこからさわの下の水辺みずべまで一いきにザザザザザとかけおりてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しもさわの勘公
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ、なんでもかでも、早くかえり着くことにあせった燕作は、やくそくの道をふまず、さわをひだりにまわって、八ちょう参道さんどうへ半分でぬけられる近道をいそぎだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはどうも、わざわざ、恐れ入りまするが、実はお内儀様は、昨日きのう、ご親類の老人を連れて、相州のとうさわへ、入湯にお出ましになりまして……しばらくはその」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俗に、霧谷とよぶくらい、そこは、二六時中しょっちゅう、霧のれたことのない陰湿いんしつさわだった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……もしお嬢さん、悪いことはいわないから、この下のさわまでおいでなさい、そこまで行くと、こちとらの中継ぎ小屋があるから、そこで今夜は足を休めて、ゆっくりと先の相談をして上げよう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志賀山と瓜生山うりゅうやまあいさわあたりで、お通から別れ去った宮本武蔵は
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乳母のおさわに育てられ、小野の於通おつうとよばれております。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)