横柄おうへい)” の例文
熱狂的なまた横柄おうへいな気性は、間もなく自分を学友たちのなかでのきわだった人物にさせ、また少しずつ、しかし自然な順序を踏んで
彼らの勇武劇の中には、詩的虚偽がこの上もなく横柄おうへいに現われていた。彼らは英雄というものについて、滑稽こっけいな観念をいだいていた。
と云い云い如何にも横柄おうへいな態度で、自分の背後の古ぼけたボンボン時計を見た。二時半をすこし廻わっている。少々心細くなって来た。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見も知らない小男から、こんな横柄おうへいに臨まれたのは初めてだった。けれど、不思議にも冷笑できない威圧をうけた。——兄の家臣。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横柄おうへいなのは仕方がないが、エラ物であったというではないか、そうして酒を飲んだか、という尋ね方は、おかしいと思いました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれは、帽子ぼうしをとっただけで、べつに頭もさげず、ジャンパー姿の次郎をじろじろ見ながら、いかにも横柄おうへい口調くちょうでたずねた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私共には眼尻にしわをよせて、猫撫声ねこなでごえでものをいう主人が、召使いに対すると、こうも横柄おうへいになるものかと、私は少からず悪感あくかんもよおしました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と大分横柄おうへい……中に居るもののひげのありなしは、よく其のかんで分ると見える。ものを云ふ顔が、反返そりかえるほど仰向あおむいて、沢の目には咽喉のどばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「挨拶、ふん、挨拶、あの横柄おうへい継母かかが、ふんちっとばかい土産みやげを持っての、言い訳ばかいの挨拶じゃ。加藤のうちから二三度、来は来たがの——」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
横柄おうへいに呼びたてながら、ずかずかとはいっていったその鼻先へ、ぬっとその新右衛門が顔を向けると、少し変でした。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
坊さんらしくない横柄おうへいな声で訊いた。僕はどう云おうかと思っていると、縁の下からあとずさりをしながら森君がいだして来た。洋服中泥だらけだ。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
恵門は横柄おうへいにふりかえると、思いのほか真面目な顔で、『さようでござる。御同様大分だいぶ待ち遠い思いをしますな。』
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とずう/\しい奴で、種々いろ/\馳走になり、横柄おうへいな顔をして帰りました故、奉公人は皆不思議がって居りました。
無情冷酷……しかも横柄おうへいな駅員の態度である。精神興奮してる自分は、しゃくさわってたまらなくなった。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかしあの番頭の客あしらいは、横柄おうへいだ。まるで泊らせないために、応対しているようではないか。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
光一が第一に不愉快なのは切符きっぷの売り場に大きなあぐらをかいてしりまであらわしているほていのような男が横柄おうへいな顔をしてお客を下目に見おろしていることである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ああと横柄おうへいに答えて、眼鏡の下から見あげるように、今度は六ヶ月間でしたよ、うまく行きましたが、もうシリンダは取り換えた方がええですな、と口を尖らせて云った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
さも横柄おうへいな言葉付きも、二人を怒らせはしなかった。時にとってのすくぬし、感情を害しては大変であると、数馬も武兵衛もうやうやしく彼の言葉に従った。三人は足早に歩き出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
横柄おうへいなるお声で、おいおいと、ひと声、ふた声お呼びくだされば、打てば響くというふうに、腰元どもなり、あるいはまた、三太夫とも申すべき奴らがたちどころに立現れまして
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
肋骨ろっこつの間から、心臓を目がけて、きりでも刺すように話していると、相手の後明は、最初はいやに横柄おうへいぶって、虚勢を張っていたんだが、しまいには、おそろしくなったらしいんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
島田のいう事は、姉が蔭で聴いていたらさぞおこるだろうと思うように横柄おうへいであった。それから手前勝手な立場からばかり見たゆがんだ事実をひとに押し付けようとする邪気に充ちていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは平気をよそおうて居たのか実際呑気のんきであったのか分らんが、一体チベット人は何か大事に臨むとごく度量が据って居るかのように横柄おうへいくさく構えて居る風が誰にもあるようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そのきびきびした横柄おうへいな早口で、エリザベスの同伴者は、窓のむこうから言った。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
医師は腰を延ばすような構えをして、横柄おうへいにギラリと目を光らせた。そして、又
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
おくれて来りし半白はんぱくの老人大原家とは同格の家柄と見えて横柄おうへいにツト庭先へ入り来り
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その老婆は馬車のなかに立って、いかにも横柄おうへいな声で自分を馬車から降ろせと命令するように言い放つと、その態度に恐れをなして、伯爵の家来たちはすぐにその老婆を降ろしてやった。
誰だって自分の気にさわるようなことを言われたなら、少しは生気のある、時には横柄おうへいな口さえきくものであるが、この男から、そんな思いきった言葉を期待することは断じて出来ない。
(雪子は前から、中姉ちゃんのいる時といない時では啓坊の態度が大変違う、と云っていたが、昨日は特に横柄おうへいであったと云う)「水戸ちゃん」だって随分けったいに思ったであろうし
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世間から款待もてはやされて非常な大文豪であるかのように持上げられて自分を高く買うようになってからの緑雨の皮肉はさえを失って、或時は田舎のお大尽のように横柄おうへい鼻持はなもちがならなかったり
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
植木屋にしては、武士めいた横柄おうへいな口をきくやつ……皆は、そう思いながら
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
母は私を、ちょっと小意気こいきな家につれて行った。私達はその家のあががまちに腰を掛けて、しばらく待った。すると黒襦子くろじゅすの帯を引き抜きに締めた年増としまの女が出て来て横柄おうへいに私の母に挨拶あいさつを返した。
というのは、博士はその昔、研究所長として、はなはだ横柄おうへいであった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、みじめな佝僂せむしは、とがった肩を精一杯いからせて横柄おうへいに言うた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「七面鳥は郡長の奥さんじゃ。あんな横柄おうへいな鳥はわしゃ好かん」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
横柄おうへいな口のききかたがまずわかいかれの矜持プライドを傷つけた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
う思って、精々横柄おうへいに構えているんだ。堀尾」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いかにも横柄おうへいにさきがけて口をきった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私を横柄おうへいそうにこづいた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
取ってかえしに、奥からでてきたのは、菊池家きくちけの家来とみえて、いかさまがんじょうな三河武士みかわぶし横柄おうへいに頭の上から見くだして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんなに横柄おうへいに揮った権力にたいするなんという貧弱ないいわけであろう! 自由行動という生得の権利をあんなに執拗しつよう
土手で横柄おうへいにたずねるのは、この辺の百姓町人のたぐいでないことはわかっているが、人もあろうに、久助さんに土地案内を聞くとは間違っている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は厚顔にも自分でやってきて、クリストフにそれを言った。あたかもむち打ちに相当する子供にでも対するがように、ごく横柄おうへいに訓戒をたれた。
「逃げるなよ。今に返報をしてやるから。」などと、素戔嗚の勇力を笠に着た、横柄おうへいな文句を並べたりした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
次郎は、横柄おうへいな口のきき方をする鈴田に対して、いつになくいきどおりを感じ、返事をしないまま塾長室に行った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
当時の練塀小路は河内山宗俊が啖呵たんかをきったほどの有名な小路ではなく、御家人ごけにん屋敷が道向かいには長屋門をつらねて、直参顔じきさんがお横柄おうへいな構えをしているかと思うと
横柄おうへいな得意の人達にも思い知らせることの出来るのは愉快なことである、我々が競争し、得意を奪い合うために、段々と汲取賃が低下したことは何という馬鹿げたことであったか
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「君が河合かわい庄太郎か」刑事が横柄おうへいな調子で云った「オイ、番頭さん、この人だろうね」
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十分酒肴さけさかなに腹をふとらし勘定は本妙寺中屋敷へ取りに来いと、横柄おうへい喰倒くいたお飲倒のみたおして歩く黒川孝藏くろかわこうぞうという悪侍わるざむらいですから、年の若い方の人は見込まれて結局つまり酒でも買わせられるのでしょうよ
これから大発明をして学界に貢献しようと云う余に対してはやや横柄おうへいである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船から『出すべき』だ? べきだとは何だ! べきだとは! そんな生意気な横柄おうへいなことをいうんだったら、どうとも勝手にしろ、おれは、手前てめえらに相手になってる暇はないんだ! ばかな!
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)