梯子はしご)” の例文
すると、幸門の上のろうへ上る、幅の廣い、之も丹を塗つた梯子はしごが眼についた。うへなら、人がゐたにしても、どうせ死人しにんばかりである。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
朽ちかけた梯子はしごをあがろうとして、眼の前の小部屋の障子が開いていた。なかには蒲団が敷いてあり、人の眼がこちらをにらんでいた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
次は八畳の居間、六畳の仏間、その端っこまで土間が喰い込んで、店二階の梯子はしごは、その土間からすぐ登れるようになっております。
梯子はしごのような細長いわくへ紙を張ったり、ペンキ塗の一枚板へ模様画みたような色彩を施こしたりしてある。宗助はそれを一々読んだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云うと今度はその小窓と反対側の低いドアを開けて、そこに掛かっている鉄の梯子はしご伝いに奇妙なぶしい広い部屋へ降りて来ました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
後に“雲梯うんていけい”とよばれたものである。各所に巨大な井楼せいろうを組んで、崖へ梯子はしごを架けわたし、谷を踏まずに迫ろうとするのらしい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今も、十能の中に、かんかんとおこった炭火をたくさんに盛って、それを後生大事ごしょうだいじに抱えながら、二階の梯子はしごを上りにかかりました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あまり大き過ぎるためか、時は正確ではなかったそうです。月に一回、裏から梯子はしごをかけて、登って行ってくのだとか聞きました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
右の方へ登る梯子はしごを教えてくれた。すぐに二人前の注文をした客とわかったのは普請中ほとんど休業同様にしているからであろう。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その下に曾て見たことのない、高さ五六丈もあるかと思われる青塗あおぬりの桶が別にあって、それに長い長い梯子はしごかかっているのを見た。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
病院の二階の突き当りに、付添婦たちの詰所つめしょがあり、炊事所すいじじょや粗末な寝所があった。その手前に梯子はしご段があって、物干台に通じている。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼は手さぐりで五六段ある梯子はしごのようなものを下りて行ったが、底の方の空気が異様に冷え冷えとしているので、思わず身顫みぶるいをした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
緑酒と脂粉の席の間からも、其の道が、常に耿々こうこうと、ヤコブの砂漠で夢見た光の梯子はしごの様に高く星空迄届いているのを、彼は見た。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やがて梯子はしご段をトントン降りて行ったかと思うと、「私達は貴女を主人にたのまれたのですよ。こんな事知れていいのですかッ!」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ストリート・ガールであった、鋪道ほどうのアヴァンチュールにかけては華やかな近代娘の典型であった四家フユ子が、赤い梯子はしごを登ったのだ。
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
明日早暁、博多湾を解纜かいらんするという「順天丸」に艀が着くと、連中は来島を先頭にして一人一人、斜にかけられた梯子はしごをのぼっていった。
風蕭々 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それに小さな梯子はしごが掛かり、梯子の上で、人形にんぎょうの火消しが鳶口とびぐちなどを振り上げたり、火の見をしていたりしている形であります。
「なーに、猫が鼠をたべた血なんだよ」こういって彼は梯子はしごを取り寄せて隅の方の天井板をはずし、蝋燭を片手に天井へはいって行った。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と云って、梯子はしごをかけた様子もなし、松を伝って来たらしくも思われない。これは庭口から忍び込んだのではあるまいと仰しゃいました。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
レリーチェとツルビアの間のいとあらびいとすたれしこみちといふとも、これにくらぶれば、ゆるやかにして登り易き梯子はしごの如し 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
わに久はけんめいに梯子はしごをよじ登ろうとするが、二三段登るとずるずる落ち、また二三段登ると落ちてしまうので、倍増しはらをたてた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二階は梯子はしご降口おりくちからつづいて四畳半の壁も紙を張った薄い板一枚なので、裏どなりの物音や話声が手に取るようによく聞える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな時にそっと出て行ったら、病人は知らずにいるだろう。ちょいとあの梯子はしごを下りて、あの町の角を回れば、にぎやかな公園に出られる。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
気のせいかしら、今のは耳鳴りの音だったのかしらと怪しんでいると、今度は、すぐ次の間の梯子はしご段がミシミシと鳴りはじめた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は屋根職人の梯子はしごや足場を使ったのであろうか? しかしその道筋のうちにはほとんど越ゆることのできそうもないへだたりがあった。
青いきらびやかなねむりのもやが早くもぼんやりかゝるのに誰かどしどし梯子はしごをふんでやって来る。隣りのへやをどんと明ける。
柳沢 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「ああその何だ。コクテールの材料をあつめたいのだ。あそこの棚をのぞいてみたいから、ちょっと梯子はしごを貸してくれたまえ」
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部屋の隅の柱についたボタンを押すと、その上の天井がぽっかりと開いて、折畳みになった梯子はしごがするすると下へ伸びて来た。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
実にお粗末極まる小舎にまで、梯子はしごがかけてある。図451は網の一つの形式を示す。河の全長にわたって、このような漁屯所が見られる。
のぼるために梯子はしごまで、二つ三つかゝっています。今、その舞台の上に、大将らしい男が立つと、大演説をやりだしました。
翁も漸く気が晴れたか、けろりと元の柔和な顔に返つて、執務妨害の謝罪わびをして、急な梯子はしごをガタリ/\と帰つて行かれた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(忙がわし気に戸口にき、戸を開け、外に向きて呼ぶ。)おい。マッシャ。(間。梯子はしごく足音留る。)マッシャ。
とかう言ふので手品師は、鉄の梯子はしごを、とんとんと船底に下りて行きましたが、船底にも、一人のお客もありませんでした。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
街角の瓦斯燈の下では、青ざめた甃石しきいしの水溜りに、鉄の梯子はしごが映っていた。複合した暗い建物の下で、一軒の豆腐屋が戸を開けて起きていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
窓縁には一はちの朝顔が絲にからんで伸びていて、ぶらさがってる梯子はしごの上にその細やかなつるを広げていた。一条の光線がそれに当たっていた。
高い高い梯子はしごが立ってその上に天の戸が開けていた、王がそれを登りつめて最後の段に達した時に起こされたのだと言う。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まといがくる、梯子はしごがつづく、各組の火消ひけしが提燈をふりかざして続いてくる。見舞人が飛ぶ。とても大通りは通られはしない。
梯子はしご売りの梯子の影が七つ近い陽脚を見せて、裏向うの御小間物金座屋の白壁に映って行く。槍を担いだ中間の話し声、後から小者の下駄の音。
梯子はしごといつたところで、とてもとゞきやうがないし、皆はあれあれといふばかりで、じつと火の行方ゆくへを見つめてゐました……
「死んだようになっている女の子を、ご介抱なさるのは別の味で……ところでお殿様お下りなさいますか? ……すこし梯子はしごは急でござんすが」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
馬は四頭立で車台は黒塗り、二階は背中合せに腰掛けるようになっていて梯子はしごは後部の車掌のいる所に附いていました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
壁塗り左官のかけ梯子はしごより落ちしものの左腕の肉、煮て食いし話、一看守の語るところ、信ずべきふし在り。再び、かの、ひらひらの金魚を思う。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
梯子はしご段も紙製ですか。いつも不思議に思うんですけれど、どうして紙の階段で昇ったり降りたり出来るんでしょう。』
彼はこんなことをしゃべりながらも、チーフメーツの声に応じて、そのたびに、マストの梯子はしごまで駆けて行っては、また、駆けて帰るのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
星の女はそれを聞くと、いそいで岸へあがりました。二人の姉はすぐに着物を着て、目に見えぬ蜘蛛の糸の梯子はしごのぼつて、大空へかへつていきました。
星の女 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
鉄の梯子はしごすがって、月光の下にうごめく彼れの後ろ姿を目撃した私は、一種危険な気持ちに打たれて、思わず、足を早めつゝ、彼れのあとを追った。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
周三は、土藏の横手に掛けてあつた竹梯子たけばしごを外して、二階の窓へ掛け渡した。そして、まるで夢遊病者のやうに、ひよろ/\と梯子はしごを登つて行つた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
おまんが梯子はしごを降りて行ったあと、吉左衛門はまた土蔵の明り窓に近く行った。鉄格子てつごうしを通してさし入る十一月の光線もあたりを柔らかに見せている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「今きたばかりですよ。室内からの物音に、外から梯子はしごをかけて、窓を叩きわって、窓の鍵を外して、とびこんできたのです。何事があったのですか」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ついれつたくなると漢語調の歌をうたふのは、代紋かへもんと稱して提燈や傘などにつける紋章に梯子はしごしるしを付け、自烈亭居士と號して狂歌などを詠んだ祖父
文学的自叙伝 (旧字旧仮名) / 牧野信一(著)