放恣ほうし)” の例文
その旺盛おうせいな性欲的能力を他の労働もしくは精神的作業に転換するように努力すればその放恣ほうしを防ぎ得るものであろうと私は想像する。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
やはり前述のごとき個性の放恣ほうしなる狂奔を制御するために個性を超越した外界から投げかける縛繩ばくじょうのようなものであるかと思われる。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『西遊記』と限らず、この種のいわゆる支那の奇書くらい放恣ほうしな幻想がその翼をかって、奔放ほんぽう虚空こくうけまわっているものも少いであろう。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「とにかく一八郎の死骸を片づけ、仔細を徳島城へ申しおくることにいたそう。いつもながら放恣ほうしな三位卿、困ったことをしでかしたものだ」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそんならそうかといって、丸々カワセミの放恣ほうしを黙認することも、出来ない世の中にもうなってしまった。たしか幸堂得知こうどうとくちの句であったが
なわを受けて始めて直くなるのではないか。馬にむちが、弓にけいが必要なように、人にも、その放恣ほうしな性情をめる教学が、どうして必要でなかろうぞ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
放恣ほうしなかっこうに両足を投出し、のどをくっくと鳴らせながらけらけらと笑ったり、仲間の女の肩を抱緊めながら
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
少壮な身を暖いふすまうちに置けば、毒草の花を火の中に咲かせたような写象がきざすからである。お玉の想像もこんな時には随分放恣ほうしになって来ることがある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
良心の呵責かしゃくのもとに、精根の尽きるような生活を、典型的な放恣ほうしな異常な、自分でも心の底ではいやでたまらない生活を送ることになるよりほかはなかった。
一は清信がいまだ豪健放恣ほうしなる一家の画風をたつるにいたらず、もっぱら師宣の門人古山師重ふるやまもろしげ中間ちゅうかんにして菱川派の筆法を学びたる時代の制作をうかがふ一例とするに足ればなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
要するに解放とは社会と宗教と道徳とを無視する放恣ほうしと罪悪の無分別であるかの如く見做みなされたのである。女権論の代表者はかくの如き誤解に対して甚だしく憤激した。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
教会堂でしかつめらしくしてるのもよいが、弥撒みさがすんだら、新婦のまわりに夢の渦巻うずまきを起こさしてやるがいい。結婚は堂々としていてしかも放恣ほうしでなくちゃいかん。
われわれが放恣ほうしであるときにはわれわれをだらしなくし不潔にならしめる生殖精力も、われわれが節制するときには元気をあたえ霊感をあたえる。貞潔は人間の花である。
あの狭隘さは、あの某々雑誌の喧々囂々けんけんごうごうはいったい何事であろう。あの無秩序な、無差別な、玉石も真贋も混淆したあの評価は、あの妥協は、あの美に対する放恣ほうしな反逆は。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かてとぼしい村のこどもらが、都会文明とかいぶんめい放恣ほうし階級かいきゅうとにたいするやむにやまれない反感はんかんです。
自分の放恣ほうしな生き方が邪魔されるのが厭で、彼の自殺もできるだけ忘れるよう努力した。
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
その予感が、花田の放恣ほうしな行為を憎むことから今まで彼を遠ざけていたのではないのか?
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼を苛立いらだたせ、彼を傷つけ、反発心によって彼をより放恣ほうしな生活に投げ入れたのである。
その代りに彼は東羅馬ローマの滅亡の内的要因となっておった放恣ほうし婬逸いんいつを受け取った。人間の病毒が知らぬ間にその人の全身を犯しているように、この新鋭の国を腐敗せしめたのである。
文明史の教訓 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そうした折など、女中達が、瑠璃子夫人の奔放な、放恣ほうしな生活を非難するように
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
放恣ほうしと奔放もまた、規矩を捨離しゃりした境地においてではなく、規矩を拘束として感じないほどに規矩を己れのうちに生かせた境地において、初めて美しく生かされるのであるということを。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
もっとつきつめて云うと、日本の男の古来の性的放恣ほうしに目新しい薬味をつけ、そういう空想にひかれて崩れかかる若い女たちの危さを面白がるような気分を、伸子はよみとったのであった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
放恣ほうしに身を持ちくずして、困りもの我儘わがままものとして諸家に預けられ、無籍ものの浮浪にもひとしい生活をつづけていたことをも苦にせずに、かえってその境遇を利して自由に振舞って来た。
その知力上においては遠慮あり、将来を予備するの知識を蓄えしめざるべからず。その感情上においては主我的の放恣ほうしなる運動を制する種々の体面法・習慣法の支配を被らしめざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
自分に許された小天地のうちではくまで放恣ほうしなくせに、そこから一歩踏み出すと、急に謹慎の模型見たようにすくんでしまう彼女は、まるで父母の監督によって仕切られた家庭というかごの中で
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美的な放恣ほうし、つつましやかな自由、それはどうあるべきかと追求されてもこまるけれど、とにかく以上の字義どおりいずれの女性も心術しんじゅつとしてしい、結果はおのずから達成せられるでありましょう。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
裏十二の中に月と花が一つずつあってこの一楽章に複雑な美しさを与える一方ではまたあまりに放恣ほうしな運動をしないような規律を制定している。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やや驕慢きょうまんな、抑揚の強い声などに家老の娘という、育ちの良さよりも、放恣ほうしに馴れた無遠慮な感じが眼立った。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
是を放恣ほうし自由な交際の公認せられたる機会であったかのごとく、一部の好事家こうずかは推断しようとしているが、そんな形ではこのふうは永く続くことができない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
内務省の真意は公娼を倫理的に公認するのではないのであるが、世の公娼営業者、多数の放恣ほうしな男子及び多数の無智な女子はその意味に解釈しようとするであろう。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
民衆はもとより生活の豊かと安心を渇仰かつごうしているが、といって、放恣ほうしな快楽とか安易な自由とか、そんなものにのみ甘やかされて歓んでいるほどなものでもあるまい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに反して五百の監視のもとを離れた優善は、門をでては昔の放恣ほうしなる生活に立ち帰った。長崎から帰った塩田良三りょうさんとの間にも、定めて聯絡れんらくが附いていたことであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから、つぶれた同じ声、風にさらされてしわが寄り曇ってる同じ額、放恣ほうしな錯乱した定まりない同じ目つき。その上以前よりは、一種のおびえたようなまた悲しげな色が顔に増していた。
この作者がいたずらに放恣ほうしな空想に身をまかせず、厳密に根本の動機に従ったことは、末尾に現われた不死の薬の取り扱い方によっても明らかである。帝は姫の贈った不死の薬を駿河の山の嶺で焼く。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女らの友誼ゆうぎ、その奇怪な会話、放恣ほうしな行動、無遠慮な態度
忍び足に去ってゆくのを聞きながら、奈尾は合歓木の幹に背をもたせ、放恣ほうしな姿勢でじっと眼をつむった。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
笑いの一番に下品なものは放恣ほうし、いわゆるしもがかりの秘密や欲情の満足に伴なうものであり、その最も有害なものは嘲罵ちょうばであろうが、この二つのものは支那の方でも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けたる女の身を、放恣ほうし快楽けらくし、女の一生を、ひたすら、自由な性愛の野に遊ばせて、ひとりの恋人や、良人おっとや、乳のみ児の、ありなしなどに、かえりみていない風潮ふうちょうもつよい。
これは全くの素人しろうと考えの空想であるが、しかし現代の生化学ビオヘミーの進歩の趨勢すうせいには、あるいはこんな放恣ほうしな空想に対する誘惑を刺激するものがないでもないように思われるのである。
映画と生理 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
抽斎が岡西氏とくうませた三人の子のうち、ただ一人ひとり生き残った次男優善は、少時しょうじ放恣ほうし佚楽いつらくのために、すこぶる渋江一家いっかくるしめたものである。優善には塩田良三しおだりょうさんという遊蕩ゆうとう夥伴なかまがあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それにはかなり大胆な放恣ほうしな姿勢をとらなければならないし、或る姿勢などは、……ここでは描写することを避けるが、母親が驚きと羞恥のために眼をつむって全身を赤くして
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして自由に放恣ほうしな太古のままの秋草の荒野の代わりに、一々土地台帳の区画に縛られた水稲、きび甘藷かんしょ、桑などの田畑が、単調で眠たい田園行進曲のメロディーを奏しながら
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
耳の濁りという。古今に通ぜぬくせに、我意ばかり猛々たけだけしい。これを情操の濁りと申す。日々坐臥ざがの行状は、一としてきよらかなるなく、一として放恣ほうしならざるはない。これ肉体の濁りである
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女たちは杢助の脇に寝ころんだり、足を投げだしたり、極めて放恣ほうしな恰好でお饒舌しゃべりをし、ときにじれったそうな声をあげて、杢助のからだへ抱きついたり、叩いたりひねったりした。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いよいよ放恣ほうしに流れた御方は、時折市中で吾儘ぶりを発揮したり、女だてらに旗本組と喧嘩沙汰をき起したことすらあるので、奉行所の与力同心たちも、光子てるこの御方が江戸へ来たため
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)