すい)” の例文
だが大事にいたらずむことはたしかだ、と金太郎は、そく度を増してゆく自轉車の上で、何の問題を解くときのやうに冷せいすい理した。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
失敬と云ふ挨拶のうちに、此男は例の記事を読んで居るらしくすいした。然し先方では無論話頭を避けた。三四郎も弁解を試みなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
憲兵と知りながら、こういう部屋へ案内した韮崎の心持をすいし兼ねて、さすがの三好曹長も狼狽を感じないではいられなかった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われ、なんじの影地震のの間に消えせぬと聞き、かの時の挙動など思い合わして大方はすいしいたれどかく相見ては今さらのようにうれし。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「〽おおさてはすいした、うらに来いとの笛の音、うら道来いとの笛の音。……いやいや私は反対にいいます。左内様即座にお帰りなされと!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分をおとりにまで使おうとする無礼もあなたなればこそなんともいわずにいるのだという心を事務長もさすがにすいしたらしい。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と断る様子を白翁堂は早くもすいし、ハヽアこいつ伴藏がおかしいなと思いましたが、なまなかの事を云出して取逃がしてはいかぬと思い直し
貫一もそれをこそ懸念けねんせしが、果して鰐淵わにぶちは彼と満枝との間を疑ひ初めき。彼は又鰐淵の疑へるに由りて、その人と満枝との間をもほぼすいし得たるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ことは簡なれども、事情の大方はすいせられつ。さて何とか救済の道もがなと千々ちぢに心をくだきけれども、その術なし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
とお父さんが言ったところを見ると、お母さんとの間に絹子さんについてもう何か話があるようにすいせられた。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし色の浅黒いのと口に力身りきみのあるところでざッとすいして見ればこれもきッとした面体の者と思われる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
ここにおいても竜之助は、その自身すら、自分に近寄って来る者の心のうちをすいするに苦しみました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆうべも勿論もちろんそれを思いはしたけれども、実は夕方、「ちょっと神戸まで買い物に」といって彼女が出かけて行ったのを、恐らく阿曽に会いに行ったものとすいしていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仮令たとえわたしには数万金すまんきんを積むとてかえがたき二品ふたしななれど、今のきわなれば是非も一なく、惜しけれど、ついに人手にわたすわが胸中は如何いかばかり淋しきおもいのするかはすいしたまわれ、されど
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
今からさかのぼって考えて見れば、ゆうべは頭が鈍くなっていたので、左顧右眄さこゆうへんすることが少く、種々な思慮に掣肘せいちゅうせられずに、却って早くあんな決心に到着したかともすいせられるのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
の古戦場をよぎつて、矢叫やさけびの音を風に聞き、浅茅あさじはらの月影に、いにしえの都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此のおうなが六十年の昔をすいして、世にもまれなる、容色みめよき上﨟じょうろうとしても差支さしつかえはないと思ふ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
本当に恋というもののつらさもどかしさが、今初めて、しみじみと分りました様に思われます。おすいもじ下さいまし。………………………
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宗助にも御米にも思い掛けないほどたまな客なので、二人とも何か用があっての訪問だろうとすいしたが、はたして小六に関する件であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういうことはすいしていたが、今の返事とその態度とで、それがこっちの想像以上に、しっかりしているということを瞬間看取したからであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貫一は彼をて女をぬすみてはしる者ならずや、とまづすいしつつ、ほ如何にやなど、飽かず疑へる間より、たちまち一片の反映はきらめきて、おぼろにも彼の胸のくらきを照せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「紀州のとしほどすいしがたきはあらず、あかにて歳もうもれはてしとおぼゆ、十にやはた十八にや」
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
源次郎は早くもすいし、アヽヽこりア流石さすが飯島は智慧者ちえしゃだけある、己と妾のお國と不義している事をさとられたか、さなくば例の悪計を孝助が告げ口したに相違なし、何しろ余程の腹立はらだち
葉子は鋭くもこうすいした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
老人は自分の心で、わが母の心をすいしている。親と云う名が同じでも親と云う心には相違がある。しかし説明は出来ない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又、一見有利の立場に見える労働者も、白蝙蝠団の真意をすいし兼ねて、一種空恐ろしい感じを抱かないではいられなかった。何と云っても、相手は泥棒人殺しの団体なのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はおもてを伏せて又言はず、満枝は早くもその意をすいして、また多くは問はず席にかへりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
然し何時いつしか自分の挙動で箪笥の中に秘密のあることをすいし、帳簿を取りに寄こされたをさいわいに無理に開けたに相違ない。鍵は用箪笥のを用いたらしい。革包の中を見てどんなにか驚いたろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
〽じょに吹く笛がふもとにきこゆるおおさてはすいした、うらに来いとの笛の音……
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
初会のお客に無心をいったって貸して呉れよう道理は有るまいが、俄盲目の身の上で有りながら、私の心持でもすいした様子で、急に帰るといい出したから、何処へ帰るんざますと聞いて見たら
然し分別を凝らすまでには至らなかった。父と兄の近来の多忙は何事だろうとすいしてみた。結婚は愚図々々にして置こうと了簡りょうけんを極めた。そうして眠にった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春泥が浅草辺にうろうろしていたという本田の言葉からすいしても、いや現に彼は六郎氏の殺害を予告さえしていたのだから、下手人が春泥であることに、うたがいを挟む余地はないのだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
〽おおさてはすいした。裏に来いとの笛の音、裏道来いとの笛の音……
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其所へ親爺おやじが甚だ因縁の深いある候補者を見付けて、旅行先から帰った。梅子は代助の来る二三日前に、その話を親爺から聞かされたので、今日の会談は必ずそれだろうとすいしたのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恒川氏は相手の意味をすいしかねて聞き返した。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実はこの間から幾度も会見を謝絶されたのも、自分が父の意志にそむく恐があるから父の方でわざと、延ばしたものとすいしていた。今日逢ったら、定めて苦い顔をされる事と覚悟を極めていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)