振返ふりかえ)” の例文
プロムナアド・デッキの手摺てすりりかかって海につばいていると、うしろからかたたたかれ、振返ふりかえると丸坊主まるぼうずになりたての柴山でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
けたたましき跫音あしおとして鷲掴わしづかみえりつかむものあり。あなやと振返ふりかえればわがいえ後見うしろみせる奈四郎なしろうといへるちからたくましき叔父の、すさまじき気色けしきして
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吃驚びっくりして振返ふりかえると、雪江さんがキャッキャッといいながら、逃げて行くしどけない後姿が見える。私は思わず莞爾にっことなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
先刻さっきチラと振返ふりかえった繁代の顔には、昨夜とは又違った、深刻な悩みのあったのを、半十郎は見のがさなかったのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「鴨田さん」帆村は背後を振返ふりかえった。「ニシキヘビには山羊やぎを喰べさせるそうですが、何日位で消化しますか」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船長は嘲るように肩をすくめ、振返ふりかえって出発を命じた。——伊藤次郎は霧の彼方かなたへ消えて行く漁船を見送りながら、変にぞくぞくと背筋の寒くなるのを覚えた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
叩きおりしがお登和嬢振返ふりかえりて思わず言葉をかけ「大原さん、それでは叩きつぶすのです、叩くだけにして下さい」大原「ハイハイかしこまりました」とお登和嬢に口を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
振返ふりかえればむねひか徽章きしょうやら、勲章くんしょうやらをげたおとこが、ニヤリとばかり片眼かためをパチパチと、自分じぶんわらう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしのしかけた最初の動作は、げ出すことだった。『父は振返ふりかえるかもしれない』と、わたしは考えた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その断崖だんがいからなかば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返ふりかえって紀昌に言う。どうじゃ。この石の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか。今更引込ひっこみもならぬ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お葉はその姿を見ると共に、有合ありあう小石を拾って投げ付けると、つぶては飛んで市郎のたもとに触れた。振返ふりかえると門前にはお葉が立っている、加之しかえみを含んで小手招こてまねぎをしている。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうして来たのだといいながら、ふとうしろ振返ふりかえって見ると、出水しゅっすいどころか、道もからからに乾いて、橋の上も、平時いつもと少しも変りがない、おやッ、こいつは一番やられたわいと
今戸狐 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
そうとはしらぬ小歌はふいと立て廊下へ出たが、その時広間からも芸妓げいしゃが出て来て、一人かえと云たのは明かに聞えたが、えと振返ふりかえった小歌が眉を寄たのは障子が隔てゝ見えなかった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
源三はすたすたと歩いていたが、ちょうどこの時虫が知らせでもしたようにふと振返ふりかえって見た。途端とたんに罪の無い笑は二人の面にあふれて、そして娘のあしは少しはやくなり、源三のあしおおいおそくなった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
娘は柴折戸しおりどのところへ来ると今雨戸のところに立って見送っていた、私の方を振返ふりかえって、莞爾にっこりと挨拶したが、それなりに、掻消かきけす如くに中門ちゅうもんの方へ出て行ってしまった、こののちは別に来なかったから
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
振返ふりかえって薬売りを流し眼に見て
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私は幾度も幾度も振返ふりかえった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
(お前達は生意気なまいきだよ、)と激しくいいさま、腋の下からのぞこうとしたくだんの動物の天窓あたま振返ふりかえりさまにくらわしたで。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振返ふりかえると熱柿じゅくしみたいなにおいをぷんぷんさせたN子です。「聞いたわよ、坂本さん、船のなかで女のひととすごかったんですッてねエ」「ああ」とぼくは素直です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
更に山の方を振返ふりかえって見ると、三方崩さんぽうくずれの彼方あなたから不思議な形の黒雲くろくも勃々むくむくと湧き出して来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
志津子はきっ振返ふりかえった。——高野千之は苦笑しながら
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
対手あいて振返ふりかえってきっ此方こっちたが、生憎あいにくに月を背後うしろにしているのでその顔はく判らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何の用だね」倉持教師が振返ふりかえっていた。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
愕然がくぜんとして振返ふりかえった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みどりは電話を切って母の方へ振返ふりかえった。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
可懐なつかしさに振返ふりかえると
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五郎は振返ふりかえって涙と共に云った。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)