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憐憫
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れんびん
ふりがな文庫
“
憐憫
(
れんびん
)” の例文
証拠に復讐しようというのだ。俺という愚かものは、手も足も出ないで、あの男の手前勝手な
憐憫
(
れんびん
)
を有難く頂戴するばかりじゃないか
二癈人
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
前時代のすぐれた人々によって考えられた正義や
憐憫
(
れんびん
)
や人類親和などの夢想を、彼はことごとくフランスのうちに
化身
(
けしん
)
せしめていた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
彼は
懺悔文
(
さんげもん
)
の一札を手にして、いくらかの不平をさへ感じた——もつとも彼は妻の葬儀の時、妻に対していくらかの
悔
(
くい
)
と
憐憫
(
れんびん
)
は感じた。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
明らかにこの世のことは何にも思っていなかったのであろう。彼の顔にも態度にも、もはや言い知れぬ
憐憫
(
れんびん
)
の情しか見えなかった。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
而して己れのみは身を挺して免れたる者の、他に対する
憐憫
(
れんびん
)
と同情は遂に彼をして世を
厭
(
いと
)
ひ、もしくは世を罵るに至らしめざるを得んや。
「油地獄」を読む:(〔斎藤〕緑雨著)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
▼ もっと見る
もっとも、老年で七十歳以上のものは手錠を免ぜられ、すでに死亡したものは「お
叱
(
しか
)
り」というだけにとどめて特別な
憐憫
(
れんびん
)
を加えられた。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「それじゃ、そんな、おセンチな正義感は、よしたまえ。いいかい。
憐憫
(
れんびん
)
と愛情とは、ちがうものだ。理解と愛情とは、ちがうものだ。」
火の鳥
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
彼女の傍に立った鬼村博士は、急ににがりきった顔付になって、真弓子の痛々しい姿に、一言の
憐憫
(
れんびん
)
の言葉もかけはしなかった。
国際殺人団の崩壊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
瀕死
(
ひんし
)
の境にいるのではないかとさえ見られるのですから、老尼にも一点、
憐憫
(
れんびん
)
の心が起ってみると、恐怖心の大半が逃げました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
青木の目は、それに対して反抗に輝きながら、しかも不思議に屈従と
憐憫
(
れんびん
)
を乞うような色を混じえていた。二人はそれでも頭を下げ合うた。
青木の出京
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
第四階級は他階級からの
憐憫
(
れんびん
)
、同情、好意を返却し始めた。かかる態度を拒否するのも促進するのも一に
繋
(
かか
)
って第四階級自身の意志にある。
宣言一つ
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
否
(
いや
)
、公平な判定さ。個人としては誠実で申分ありませんが、一般とすると未だ封建思想が抜け切っていませんから、
寧
(
むし
)
ろ
憐憫
(
れんびん
)
に
値
(
あたい
)
しますよ。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
が、
憐憫
(
れんびん
)
とか同情とかは一度も感じたことはなかった。もし感じたと云うものがあれば、
莫迦
(
ばか
)
か
嘘
(
うそ
)
つきかだとも信じていた。
保吉の手帳から
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
上には、かくもご
憐憫
(
れんびん
)
とご慈悲があるのに、それなる女、みずから腹を痛めし子どもを他家へつかわすとはなにごとじゃ。
右門捕物帖:04 青眉の女
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
堂堂
(
どうどう
)
と
遠慮
(
えんりよ
)
なく
爭
(
あらそ
)
ひ
勝
(
か
)
つべく、
弱
(
よわ
)
き者
敗
(
やぶ
)
るる者がドシドシ
蹴落
(
けおと
)
されて行く事に
感傷的
(
かんせうてき
)
な
憐憫
(
れんびん
)
など
注
(
そゝ
)
ぐべきでもあるまい。
下手の横好き:―将棋いろいろ―
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
目には木の影が青く映っていた。その顔を見ていると、笹村は淡い
憐憫
(
れんびん
)
の情と哀愁とを禁じ得なかった。そしていつまでもそこにしゃがんでいた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
醜い哀れなものに対する、どうにもならぬ
憐憫
(
れんびん
)
。私は桂子とともにズルズル泥沼の底に落ちてゆく光景を知りながら、彼女とともに新宿の家に帰る。
野狐
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
カハイイという語は
僅
(
わず
)
かな変化をもって、
憐憫
(
れんびん
)
の意にも用いられ、またそのままで「小さい」という意味にもなる。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
また父母の死のため、私が孤児の境遇に陥ることになつたといふ事実にも、ともすれば感謝と
憐憫
(
れんびん
)
とが、他の座をうかがふ機会が潜むのではあるまいか。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
そのことはまた、母ごころを注いでくれる人をなくしている赤ん坊への
憐憫
(
れんびん
)
ともなって安江の心をなごめもした。
雑居家族
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
わが臆病なる心は
憐憫
(
れんびん
)
の情に打ち勝たれて、余は覚えず
側
(
そば
)
に倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに
繋累
(
けいるゐ
)
なき
外人
(
よそびと
)
は、
却
(
かへ
)
りて力を借し易きこともあらん。」
舞姫
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
その
姿
(
すがた
)
はわしに何とも言えない、愛と
憐憫
(
れんびん
)
の情を起こさせた。
同悲
(
どうひ
)
の情をわきたたせた。わしは涙がこぼれた。
俊寛
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
ねえ支倉君、これ以上論ずる問題はないと思うが、ただただ
憐憫
(
れんびん
)
を覚えるのは、伸子に操られて
鞠沓
(
まりぐつ
)
を
履
(
は
)
かせられ、具足まで着せられた暗愚な易介なんだよ
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
したがって前者の特色は、愛や
憐憫
(
れんびん
)
やの情緒に溺れ、或は道義観や正義観やの、意志の主張するところを強く掲げ、すべてに於て音楽のように燃焼的である。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
こういう場合に彼の何時でも用いる陳腐で簡略でしかもぞんざいなこの言葉のうちには、
他
(
ひと
)
に知れないで自分にばかり解っている
憐憫
(
れんびん
)
と苦痛と悲哀があった。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
わしはちゃんとわかっとる……あいつがわしの髪を取って、引きずり回すのは、要するに
憐憫
(
れんびん
)
の心から出ることにほかならん、それは自分でも承知しております。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
だが、そうした人々の群のなかを歩いていると、彼にも淡い親しみと
憐憫
(
れんびん
)
が
湧
(
わ
)
いてくるようなのだった。道路の方では半鐘が鳴り「待避」と叫んでいる声がした。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そのようすが、彼自身でもこれとはくらべものにならないほど愉快に時を過すことができそうなものをと感じているだけになおさら
憐憫
(
れんびん
)
の情をそそるのであった。
外套
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
みんなの
憐憫
(
れんびん
)
の的となって悪魔の
仇
(
あだ
)
からでも保護されるくらいな事情のもとに、私のために完全な破滅をさせられたのだ、ということを私に理解させたのであった。
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
なるほど、彼の心のどこかには、お祖母さんに対する皮肉と
憐憫
(
れんびん
)
との妙に不調和な感情が動いていた。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
こうした恋の為め、
煩悶
(
はんもん
)
もし、懊悩もしているかと思って、
憐憫
(
れんびん
)
の情も起らぬではなかった。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
そんな
分
(
ぶ
)
の悪い交換に私が同意したのは、腕力の強い緒方を
怖
(
おそ
)
れたばかりではなかった。私の
裡
(
うち
)
には何かそういう彼をひそかに
憐憫
(
れんびん
)
するような気もちもいくらかはあったのだ。
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
蓋
(
けだ
)
し今日に於て皇帝の生命を
狙
(
ねら
)
ふが如きは、皇帝を了解せざるの
甚
(
はなはだ
)
しきものなればなり、我等は露西亜皇帝に対して深厚なる一種の惰感を有す、
开
(
そ
)
は尊敬に非ずして
憐憫
(
れんびん
)
なり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
その思ひの底には自分もお花のやうな女をいづれは妻にすべく家系を重ずる周圍の人から強ひられるのであらうと、他人に對するよりは寧ろ自身に對する
憐憫
(
れんびん
)
の情を感じたのだ。
新帰朝者日記
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
神は罪悪がそれ自身の中に刑罰を含むことを知るが故に、常に
憐憫
(
れんびん
)
の眼もて、すべての人の過誤を見、
枉
(
ま
)
げられぬ道徳律の許す範囲内に
於
(
おい
)
て、傷ける者の苦悩を和げようとする。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
ロシア女にたいしては
憐憫
(
れんびん
)
に似た不快を、日本女は植民地生れの西洋女と間違えてしまい、朝鮮女にはインテレクチュアルな新しい美を、ニグロの女には鋼鉄のビリダリアの官能を
新種族ノラ
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
私は決して、裁判官や民衆の同情や
憐憫
(
れんびん
)
なぞを買おうとしているのではない。いわんや、これによって自己の犯した罪を歪曲したり、弁護しようとしているわけでは毛頭もないのだ。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
自分は多少の
憐憫
(
れんびん
)
を含めた気持で、彼女のそうした様子を眺めて、思ったりした。
死児を産む
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
近所に同類項を得て多少とも助かる思ひをしただらうといふ皮肉のやうな
憐憫
(
れんびん
)
の情を覚えたりしたが、又それらがすべて字村に
撒
(
ま
)
いた不健全な私自身の悪い影響のせゐであるとも思へ
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
こんな姿になって、このうえ劬りや
憐憫
(
れんびん
)
を乞おうというのか、おい六郎兵衛、しっかりしろ、きさまあんな青二才の憐憫が欲しいというのか、なんだ、くそっ、あんなあまったるい声を
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
三十年間の金の
累積
(
るいせき
)
を彼はこの柳行李に納め続けたのである。ミチは藤三の薄く
禿
(
は
)
げかかった後頭部を見た。ランニングシャツにパンツ姿の
樸訥
(
ぼくとつ
)
な後姿に、ミチは
堪
(
たま
)
らない
憐憫
(
れんびん
)
を感じた。
刺青
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
勧善懲悪、因果応報を教え、また克己忍従、主従の義理、
憐憫
(
れんびん
)
の徳を教えた。
日本的童話の提唱
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
近々と見るとかれらはわたしの
憐憫
(
れんびん
)
の情をのみかき立てた。ある夕方一匹がわたしから二歩ほど離れて戸口のそばに坐っていた。最初は恐れてふるえながら、しかも動くことを欲しなかった。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
また、
憐憫
(
れんびん
)
を仰ぎながら、その筆ですぐ強がりもいっている。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
憐憫
(
れんびん
)
と侮蔑とが互ひ違ひに嫌惡の繩を
綯
(
な
)
つて行く。
泡鳴五部作:03 放浪
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
そしてその男は、不幸に圧倒されてしまうときには、友人らの心からの
憐憫
(
れんびん
)
の情の底に、つぎの
軽蔑
(
けいべつ
)
的な裁断を見出すに違いない。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
冬には
斧
(
おの
)
でそのパンをうちわって、食べられるようにするため二十四時間水中に浸すのです。——兄弟たちよ、
憐憫
(
れんびん
)
の情をお持ちなさい。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
やっぱり風の強いやみ
夜
(
よ
)
です。私はいうにいわれぬ、恐怖とも
憐憫
(
れんびん
)
ともつかぬ感情のために、胸の躍るのを禁ずることが出来ませんでした。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
かう云ふユダに対するクリストの言葉は軽蔑と
憐憫
(
れんびん
)
とに
溢
(
あふ
)
れてゐる。「人の子」クリストは彼自身の中にも或はユダを感じてゐたかも知れない。
西方の人
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
あの人は、生き残った私に、そうして罪人の私に、こんどは
憐憫
(
れんびん
)
をもって、いたわりの手をさしのべるという形にしたいのだ。見え透いている。
女の決闘
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
憐
漢検準1級
部首:⼼
16画
憫
漢検1級
部首:⼼
15画
“憐”で始まる語句
憐
憐愍
憐然
憐々
憐寸
憐恤
憐愍令