愛娘まなむすめ)” の例文
養家の義父は病床につき、許嫁いいなずけ愛娘まなむすめは、生涯の女の不幸を約されてしまった。——そのほかの罪は、数えればりもないくらいだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺された一宮かおるは、××女学校の校長の愛娘まなむすめだったのであるが、教育家の家庭から不良児の出るのは、珍らしいことではない。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
佐奈屋さなやといふのは、本所で指折の酒屋で、主人源之助は土地で顏を賣つた男、娘のお光は十六になつたばかり、かんざしの花のやうな愛娘まなむすめでした。
そして、愛娘まなむすめのその楽しげな姿を、噴泉の向う岸を逍遥しつつ、老エフィゲニウスが、これもまたさも楽しそうに微笑みながら眺めているのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この不幸中の幸ともいうべきは愛娘まなむすめのお露が、その時寺島村の寮へ乳母と共に出養生に来ていたことと、虫の報せとでもいうのか、死んだ叶屋の主人が
かりにただ一人の愛娘まなむすめなどを失うた淋しさは忍びがたくとも、同時にこれによって家のとうとさ、血の清さを証明しえたのみならず、さらにまた眷属けんぞく郷党きょうとうの信仰を
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もっとも一人の愛娘まなむすめの芳江姫の教育しつけかたをこの老師に託してあったところから、日昼数百人に警護されて吟味所へ輿で来るようなことは一再ならずあった事はあったが。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その中でただ一人、恐れ気もなくその枕もとに坐りつづけているのは、彼が愛娘まなむすめの小坂部であった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴族院議員の愛娘まなむすめとて、最も不器量ふきりようきはめて遺憾いかんなしと見えたるが、最も綺羅きらを飾りて、その起肩いかりがた紋御召もんおめし三枚襲さんまいがさねかつぎて、帯は紫根しこん七糸しちん百合ゆり折枝をりえだ縒金よりきん盛上もりあげにしたる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その事を聞くと、自分の愛娘まなむすめをそうして京へ出立させて、いよいよ寂しくなられたその御方のお心の中はまあどんなであろうかと、それからそれへと尽きせずお思いやりしていたが
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
最近死んだ父の愛娘まなむすめであった彼女の花々しかった結婚式、かつての恋なかであり、その時の媒介者であった彼女の従兄いとこの代議士と母と新郎の松川と一緒に、初めて落ち着いた松川の家庭が
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お通がこの愛娘まなむすめとして、へやを隔てながら家を整したりし頃、いまだ近藤に嫁がざりし以前には、謙三郎の用ありて、お通にまみえんと欲することあるごとに、今しも渠がなしたるごとく
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古風作者こふうさくしゃかきそうな話し、味噌越みそこし提げて買物あるきせしあのおたつが雲の上人うえびと岩沼いわぬま子爵ししゃくさま愛娘まなむすめきいて吉兵衛仰天し、さてこそ神も仏も御座る世じゃ、因果覿面てきめん地ならしのよい所に蘿蔔だいこは太りて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、愛された父法主はき、新門跡は印度にいてまだ帰らず、ここで、木のぼりをしても叱られないでおさるさんと愛称された愛娘まなむすめに、目に見えない生活の一転期があったことを、見逃みのがせない。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
爺さんの質問にお浜はほとんど満足な答をすることがない。しかし、爺さんはこうしてお浜と無駄口をたたいているだけで、まるでほんとうの愛娘まなむすめとむつみあっているように、心が楽しいのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
やわらかく贅沢ぜいたくしとねにつつまれて、しんなりとした肉体を横たえ、母親こそとうに世を去ったが、愛娘まなむすめへの愛には目のない、三斎はじめ、老女、女中の、隙間もないいつくしみの介抱かいほうを受けながら、そのくせ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
アドレーストスの愛娘まなむすめ、*アイギアレーアいたく泣き
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
とう将軍。まずよく防ぎ、よく戦い、賊兵を追ッぱらって、宋江の首を持って来給え。それを聟引出むこひきでとして、君にわしの愛娘まなむすめをやろうじゃないか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大総督の、も一つの痛手は、彼の愛娘まなむすめのトマト姫が、イネ建国軍のため、いつの間にか、トマト姫と同じ顔の人造人間に換えられていたことだった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二を争う富裕な美術商の愛娘まなむすめだったそうですから、もともとこういう相手に恋するなぞということが当人としては釣り合いの取れぬ間違いの元だったのでしょうが
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
比夜叉という池の名も、もとはおそろしい池の主がいた為らしいのですが、美濃みのの夜叉池の方でも、やはりそれを大蛇に嫁入りした長者の愛娘まなむすめの名であったようにいっています。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
聲は少しうるんだ甘さで、身扮みなりは綱田屋の愛娘まなむすめといふにしては、清楚に過ぎるくらゐ。窓わくに掛けた手——眞珠色の小さい指で、——ほのかに顫へるのもいぢらしくもありました。
鴉のように黒い髪をこのごろ流行る茶屋辻模様の練絹ねりぎぬの小袖の肩にこぼしている姿は、然るべき公家くげか、武家の息女か、おそらく世に時めく武家の愛娘まなむすめであろうと、兼好はひそかに判断した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あらかぜいとうてそだてられたきはめて多幸たかう愛娘まなむすめである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
川長の愛娘まなむすめで、縹緻きりょうのよさもすぐれながら、お米に一ツの不幸がある。癆咳ろうがいというやまいのろい——いわゆる肺が悪かった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その原因は誰にも分りすぎるほど分っていた。それはかの帯刀の愛娘まなむすめたえに失恋したためだった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遠州榛原はいばら郡金谷宿の言伝えに、昔この地に住みし長者愛娘まなむすめを某池の大蛇に取られ憤恨ふんこんに堪えず、多くの蹈鞴師を呼び寄せて一時に銕を湯にかしてその池に注いだ(河村多賀造氏談)。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
齢すでに七十になんなんとして、最近までこの国最高の政務を司り、夫人をうしなってからは愛娘まなむすめ一人の成育を楽しみに孤高な一生を送ってきた老政治家が、今そのの内のたまを失った悲しみは
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この訴訟には師直も案外らしい眼をみはったが、相手は自分の愛娘まなむすめである。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またあなたへ自身の愛娘まなむすめめあわせたのも、深い下心あればこそで、その本心は、袁尚を亡ぼして後、冀北全州をわが物とせん遠計にちがいありません。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ幼い愛娘まなむすめがあり、その娘の重病に、燕の黒焼をあたえればよいと人にきかされて、親心からつい禁を犯し、この酷刑をうけたものということだったので
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いったいこれが何の罪になるかよっ! 往来人に一つ聞きてえものだ! しかもだ、その相談というのは、この館の愛娘まなむすめと、さる坊主との間にいまわしい噂が立っている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……お察しくださいませ、ひとつぶの愛娘まなむすめ、恋をかなえてやりたいのは山々で、しかも、短命な遺伝のある娘、恋はかなえてやりがたい事が、初めから分っているのでございます
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人の顔には、ひとりの愛娘まなむすめを思いやる愛着と怒りとが、抑えがたなく見られます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……じつは」と打ち明けるのを聞いてみると、今夜は愛娘まなむすめの婚礼の晩だという。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「妻女の厳氏げんしが生んだ愛娘まなむすめだというはなしですから、なお、都合がいいのです」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狂喜したのは千蛾せんが老人です。オオ、オオ。ただそう言いつつ部屋へ連れこんで愛娘まなむすめの手に涙をこぼす。居ならぶ郷士たちもその劇的な場面を見まもって共々に涙ぐましい情感にうたれました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また大番組のうちでもわけて実直家な富武五百之進いおのしん愛娘まなむすめではないか。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの経明の住んでいる池守小舎いけもりごやのうちで、幾たびとなく、会っていた。——愛娘まなむすめの桔梗どの可愛さに、あわれ、野霜の翁も、子ゆえに迷う夜の鶴ということわざどおり、何かにつけて、おれを訪ねて来る
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちにも、寧子ねねとやらいう愛娘まなむすめがあるそうじゃが、子どもは一人か」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)