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惑溺
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わくでき
ふりがな文庫
“
惑溺
(
わくでき
)” の例文
泡鳴はいつも物質に
惑溺
(
わくでき
)
していて、その惑溺のうちに恋愛と神性とを求めていた。彼は暫くも傍観者として立ってはいられなかった。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
それでいて彼はやっぱり彼女の黒い目や、惑わしい曲線の美しさをもった
頬
(
ほお
)
や、日本画風の繊細な感じに富んだ手や脚に
惑溺
(
わくでき
)
していた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
この説明好きの男にも
訣
(
わか
)
れたくなった。加奈子はこれ以上、ここに居ると何か嫌悪以上の
惑溺
(
わくでき
)
に心も体も引き入れられるような危い気がした。
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
信仰の心において
創
(
つく
)
りつつも、ふとそれを離れて、思わず美へ
惑溺
(
わくでき
)
した人のひそかな愉悦を、また
戦慄
(
せんりつ
)
を、私は思わないわけにゆかなかった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
自然の風景に
惑溺
(
わくでき
)
して居る我の姿を、自覚したるときには、「われ
老憊
(
ろうばい
)
したり。」と素直に、敗北の告白をこそせよ。
もの思う葦:――当りまえのことを当りまえに語る。
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
▼ もっと見る
何よりも彼等は、浪漫派の上品な甘ったるさと、愛や人道やに
惑溺
(
わくでき
)
している倫理主義を、根本的に
嫌
(
きら
)
ったのである。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
私は然しいささか美に
惑溺
(
わくでき
)
しているのである。そして
根柢
(
こんてい
)
的な過失を犯している。私はそれに気付いているのだ。
特攻隊に捧ぐ
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
哀れな女は教師とともにペテルブルグへ落ちのびて、そこできわめて奔放自由な
解放
(
エマンシペーション
)
に
惑溺
(
わくでき
)
していたのであった。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
張出窓での
百合
(
ゆり
)
花やトマトの栽培、野菜類の生食、ベトオフエンの第六交響楽レコオドへの
惑溺
(
わくでき
)
といふやうな事は皆この要求充足の変形であつたに相違なく
智恵子抄
(新字旧仮名)
/
高村光太郎
(著)
まずこの力を破らなければ、おお、南無大慈大悲の
泥烏須如来
(
デウスにょらい
)
!
邪宗
(
じゃしゅう
)
に
惑溺
(
わくでき
)
した日本人は
波羅葦増
(
はらいそ
)
(
天界
(
てんがい
)
)の
荘厳
(
しょうごん
)
を拝する事も、永久にないかも存じません。
神神の微笑
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「それは君はそう言うでしょう。けれど、それでは私は監督は出来ん。恋はいつ
惑溺
(
わくでき
)
するかも解らん」
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
それと並行して、当時の読書界の流行は、私までもロシア文芸の
惑溺
(
わくでき
)
に引き摺り込んでしまった。
随筆銭形平次:12 銭形平次以前
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
市十郎も、嘘をおぼえ、悪智をしぼり、教養を
麻痺
(
まひ
)
せしめ、あらゆる
惑溺
(
わくでき
)
を、急速にして行った。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二人の自然な愛情はなくて、重吉が決して
惑溺
(
わくでき
)
することのない女の寧ろ主我刻薄な甘えと、ひろ子がそれについて自卑ばかりを感じるような欲情があるというのだろうか。
風知草
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
筆者は少年のころから専らにんじゅつを愛好しかつ
惑溺
(
わくでき
)
するあまり、これが史的事業の
検覈
(
けんかく
)
と究明のため、文献を渉猟し遺跡を踏査して、すでにその
蘊奥
(
うんおう
)
をきわめているが
艶妖記:忍術千一夜 第一話
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その口癖がつい乗った男の方は、
虚気
(
うつけ
)
と
惑溺
(
わくでき
)
を
顕
(
あらわ
)
すものと、心付いた
苦笑
(
にがわらい
)
も、大道さなか橋の上。思出し
笑
(
わらい
)
と大差は無いので、これは
国手
(
せんせい
)
我身ながら(心細い。)に相違ない。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
およそ
左道
(
さとう
)
に
惑溺
(
わくでき
)
する者は、財を
貪
(
むさぼ
)
り、色を好み、福を
僥倖
(
ぎょうこう
)
に利し、分を職務に忘れ、
外
(
そと
)
財を
軽
(
かろん
)
じ、義を
重
(
おもん
)
ずるの仁なく、
内
(
うち
)
欲に
克
(
か
)
ち、身を脩るの行なく、
生
(
うまれ
)
て肉身の奴隷となり
教門論疑問
(新字新仮名)
/
柏原孝章
(著)
青年時代の或る時期に私は(ヴィヨンの詩と共に)ファーガスンの詩に
惑溺
(
わくでき
)
していた。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
この二つが果して両立するものかどうか?———今から思うと
馬鹿
(
ばか
)
げた話ですけれど、彼女の愛に
惑溺
(
わくでき
)
して眼が
眩
(
くら
)
んでいた私には、そんな
見易
(
みやす
)
い道理さえが全く分らなかったのです。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そもそもこの物理学の敵にして、その発達を妨ぐるものは、人民の
惑溺
(
わくでき
)
にして、たとえば
陰陽五行論
(
いんようごぎょうろん
)
の如き、これなれども、幸にして我が国の上等社会には、その惑溺はなはだ少なし。
物理学の要用
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
この驚くべき発見をしてからというものは、私は最初の目的であった盗みなどは第二として、ただもう、その不思議な感触の世界に、
惑溺
(
わくでき
)
して了ったのでございます。私は考えました。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
もちろん人によっては
而立
(
じりつ
)
の年に至っても立ち得ず、
不惑
(
ふわく
)
の年に至ってなお
惑溺
(
わくでき
)
の底にあり、
知命
(
ちめい
)
の年に焦燥して道を踏みはずし、
耳順
(
じじゅん
)
の年に我意をもって人と争うこともあるであろう。
孔子
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
羅はそれに
惑溺
(
わくでき
)
して通っていたが、そのうちに
娼婦
(
おんな
)
は金陵へ返っていった。
翩翩
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
そういうような悪徳に都合のいい手段に励まされて、生来の気質はすぐに二倍もはげしくなり、私は常軌を逸した飲み騒ぎに
惑溺
(
わくでき
)
し、普通の世間体の拘束さえも
蹴
(
け
)
とばしてしまったのだった。
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
私は私の深刻なる真面目なる努力が遊戯にしてしまわれはしまいかと心配せずに女を求むることはできなかった。私は処女は駄目なんだろうかと思った。酒と肉と
惑溺
(
わくでき
)
との間には熱い涙がある。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
ほとんど
惑溺
(
わくでき
)
するかと思うほどに、愛情が深くなってゆきました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
妻に
惑溺
(
わくでき
)
しているように思ったりしているようです。
蛇
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
一たん求道の志を捨てて享楽に
趨
(
はし
)
ってみたものの現実に全面的に
惑溺
(
わくでき
)
することが出来なかったのを見ても察せられる。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
かの異端的快楽主義に
惑溺
(
わくでき
)
したワイルドの如きも、やはりこの仲間の文学者で「生活のための芸術家」である。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
ベトオフェンの第六交響楽レコオドへの
惑溺
(
わくでき
)
というような事は皆この要求充足の変形であったに相違なく
智恵子の半生
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
だのに、ともすると
喘
(
あえ
)
ぎ出して参りました。名声に酔い、
惑溺
(
わくでき
)
にひきこまれ、その疲れを
慰
(
いや
)
そうとします。そうしているまに近頃は悪いと知りながら肉体を
壊
(
こわ
)
して参ります。
梅颸の杖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
恋の力は遂に二人を深い
惑溺
(
わくでき
)
の
淵
(
ふち
)
に沈めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護者」としての態度を考えた。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
侵略雄図の
謳歌
(
おうか
)
などは更に無く、ただ悲愴美へよせるリリスムへの
惑溺
(
わくでき
)
のみで、ジンギスカンの如き大侵略家をとらえてすら、彼の関心はもっぱら蒙古の風土によせる感傷であり
迎合せざる人:尾崎士郎の文学
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
少年は、自分が首になりつゝも知覚を失わないでいるような
妄想
(
もうそう
)
を描き、それに
惑溺
(
わくでき
)
したのである。彼は女の前へ順々に運ばれる首を、一つ/\自分の首であるかのように考えてみた。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
私はH氏のものものしき
惑溺
(
わくでき
)
呼
(
よば
)
わりに憎悪を抱き、K氏の耽美主義に反感を起こし、M博士の遊びの気分に溜息を
洩
(
も
)
らす。M博士は私の離れじとばかり握った
袂
(
たもと
)
を振り切って去っておしまいなすった。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
なぜならば日本人は、今日
尚
(
なお
)
この特殊な俳句詩境に、あまりに深く
惑溺
(
わくでき
)
しすぎているからである。これについて吾人は、後に章を改めて別に論ずるところがあると思う。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
同化する、
惑溺
(
わくでき
)
するということは理想がないからです。美しい恋を望む心、それはやはり理想ですからな、……普通の人間のように愛情に盲従したくないというところに力がある。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
また悪くすると、その情熱が、刹那主義の
求欲
(
きゅうよく
)
へ走ったり、みずから
惑溺
(
わくでき
)
を求めて、みずから
逸楽
(
いつらく
)
に亡ぼうと急いで行ったり、とかく若さと熱と夢のやりばに
限
(
き
)
りもなく
蝕
(
むしば
)
まれる。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そこには野蛮
蒙昧
(
もうまい
)
な民族によく見かける怪奇異様への崇拝がない。所謂グロテスクの不健康な
惑溺
(
わくでき
)
がない。天真らんまんな、大づかみの美が、日常性の健康さを以て表現されている。
美の日本的源泉
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
長い人生の行路の途中でたまたま行き
遇
(
あ
)
ったに過ぎないルイズのような女にさえも肌を許すのに、その
惑溺
(
わくでき
)
の半分をすら、感ずることの出来ない人を生涯の
伴侶
(
はんりょ
)
にしていると云うのは
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
が、宋江はそれに
惑溺
(
わくでき
)
しきれない不幸児でもあったのだ。なるほど十九の
婆惜
(
ばしゃく
)
は佳麗絶世といっていいが、その
口臭
(
こうしゅう
)
にはすぐ下品を感じ出し、玉の肌にもやがては何か飽いてくる。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ふと
露西亜
(
ロシア
)
の
賤民
(
せんみん
)
の酒に酔って路傍に倒れて寝ているのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだから
豪
(
えら
)
い、
惑溺
(
わくでき
)
するなら
飽
(
あく
)
まで惑溺せんければ駄目だと言ったことを思いだした。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
しかもかぎりなき
惑溺
(
わくでき
)
にみちてゐた。
智恵子抄
(新字旧仮名)
/
高村光太郎
(著)
小儒はおのれあって
邦
(
くに
)
なく、春秋の
賦
(
ふ
)
を至上とし、世の翰墨を費やして、世の子女を安きに
惑溺
(
わくでき
)
させ、世の思潮をいたずらににごすを能とし、辞々句々万言あるも、胸中一物の正理もない。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
のみならず、あの男は、
冀州
(
きしゅう
)
にいた頃も、常に行いがよろしくなく、百姓をおどして、年貢の
賄賂
(
わいろ
)
をせしめたり、金銀を借りては酒色に
惑溺
(
わくでき
)
したり、鼻つまみに
忌
(
い
)
まれているような男ですから
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“惑溺”の意味
《名詞》
一つのことに夢中になり正しい判断ができなくなること。
(出典:Wiktionary)
惑
常用漢字
中学
部首:⼼
12画
溺
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“惑溺”で始まる語句
惑溺的
惑溺癡迷