情合じょうあい)” の例文
疑いのかたまりをその日その日の情合じょうあいで包んで、そっと胸の奥にしまっておいた奥さんは、その晩その包みの中を私の前で開けて見せた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又「困る訳はない、いじゃアないか、えゝたった一度でもお前わしの云う事を聴いて呉れたら、お前の為にはようにも情合じょうあいを尽そうと思うて居る」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
去年の秋であった、長塚と予と折よく会合した時に先生から長塚にやった歌は、よく両者の情合じょうあいを尽くしている。
正岡子規君 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうではない、土地の歌は土地の人の口から聞かねば情合じょうあいがない、あの、甲州出がけのという歌、あれを
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ものすることいといぶかしきに似たりといえどもまた退しりぞいて考うればひとえおじのぶる所の深く人情のずい穿うがちてよく情合じょうあいを写せばなるべくたゞ人情の皮相ひそうを写して死したるが如き文を
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
兄というのは四十近い、ふとった顎髭あごひげの沢山にある脊の低い男で大工である。いつも笑顔をしているが、これで弟などには情合じょうあいが薄いと聞いていた——彼の母親は見つからない。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
情合じょうあいと当惑とが半々にまじったような微笑をちらりと浮べ、これは摩訶不思議まかふしぎなことだからうっかりした事は言えぬとでもいったふうに、声を低めるのが常だったそうである。
「お前様の前だがの、女が通ると、ひとりで孕むなぞと、うそにも女の身になったらどうだんべいなす、聞かねえ分で居さっせえまし。優しげな、情合じょうあいの深い、旦那、お前様だ。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通人の話に、道楽の初は唯いろぎょする、膏肓こうこうると、段々贅沢になって、唯いろぎょするのでは面白くなくなる、惚れたとかれたとか、情合じょうあいで異性とからんで、唯の漁色ぎょしょくおもむきを添えたくなると云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又は総軍の鹿島立かしまだち馬蹄ばていの音高く朝霧をって勇ましく進むにも刀のこじりかるゝように心たゆたいしが、一封の手簡てがみ書く間もなきいそがしき中、次第に去る者のうとくなりしも情合じょうあいの薄いからではなし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「しかしそんな事を忘れるはずがないんだから、ことによると始めからその人に対してだけは、恩義相応の情合じょうあいが欠けていたのかも知れない」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
賤「お前さんにも話をした深川櫓下の花屋の、それね……お前さんの様な親子の情合じょうあいのない人はないけれ共能くまア後悔してお比丘におなりだね」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ホホホ、こう歌いますと、なんとなく情合じょうあいこもっているようでござんすけれど、この替歌かえうたに……」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくら御常から可愛かあいがられても、それにむくいるだけの情合じょうあいがこっちに出てないような醜いものを、彼女は彼女の人格のうちかくしていたのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
障子の内で聞く鹽原角右衞門も堪え兼る親子の情合じょうあい、思わず膝へはら/\と涙を落しましたが、流石さすがに武家魂は違ったもの、きっと思い返して声をあららげ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
永「そうかねえ、苦労の果じゃがら万事に届く訳じゃのう、でも内儀かみさんと真実思合おもいおうての中じゃから、斯うして此の山の中に住んで居るとは、情合じょうあいだね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私はほとんど父のすべても知りつくしていた。もし父を離れるとすれば、情合じょうあいの上に親子の心残りがあるだけであった。先生の多くはまだ私にわかっていなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身寄でも親類でもねえが其処そこ情合じょうあいだ、己は遊んで歩くから、家はまるで留守じゃアあるし、お前此処に居て留守居をして荒物や駄菓子でもならべて居りゃア
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄はただ手前勝手な男で、暇があればぶらぶらして細君と遊んでばかりいて、いっこう頼りにも力にもなってくれない、真底は情合じょうあいに薄い人だぐらいに考えていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同じ取るなら娘の気に入った聟を取って、初孫ういまごの顔を見たいと云うのが親の情合じょうあいじゃアねえか、娘がってあれでなければならないといえば、私には気に入らんでも
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぜん申す通り自分は初さんの顔を見た。すると、りようじゃないかと云う親密な情合じょうあいも見えない。下りなくっちゃ御前のためにならないと云う忠告の意も見えない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんなに堅いお方でも其処そこ男女なんにょ情合じょうあいで、毛もくじゃらの男でも、寝惚ねぼければすべっこい手足などが肌に触れゝば気の変るもの、なれども山之助お繼は互に大事を祈る者
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
情合じょうあいのない事おびただしいものだ。そんなら立つ前にもう一遍こっちから暇乞いとまごいに行くよ、いいかい」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが親爺の腹のなかでは、それが全く反対あべこべに解釈されてしまった。何をしようと血肉の親子である。子が親に対する天賦てんぷ情合じょうあいが、子を取扱う方法の如何いかんって変るはずがない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久「えゝ…股へひるの吸付いたと同様お前の側を離れ申さずそろ、と情合じょうあいだから書けよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつも行って馳走になって小遣こづけえ貰ってけえるべえ能でもねえじゃアねえか、何卒どうか己もたまにアうめえ物でも買って行って、お賤に食わしてえって、其処そこはソレ情合じょうあいだからそんな事を云ったゞが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と云われた。自分を詩の分る方の仲間へ入れてくれたのははなはだありがたいが、その割合には取扱がすこぶる冷淡である。自分はこの先生においていまだ情合じょうあいというものを認めた事がない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子の親を思う情合じょうあいですから、嬢様のお心もお察し申して段々お尋ね申した処、秋田穗庵とか云う医者が真珠の入った薬なれば癒るが、それをあげるには四十金前金まえきんによこせと申したそうで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うそを仰しゃい。貴夫には女房や子供に対する情合じょうあいが欠けているんですよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奉「恒太郎其の方父清兵衞儀、永々なが/\長二郎を世話いたし、此の度の一件に付長二郎平生へいせいの所業心懸とう逐一申立てたるに付、かみの御都合にも相成り、かつ師弟の情合じょうあい厚き段神妙の至り誉め置くぞ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
アレマアわれさえ云わなければ知れる気遣きづけえはねえ、われが心配しんぺいだというもんだから、お前さまの前へ隠していたんだ、夫婦の情合じょうあいだから、云ったらおめえあんまり心持もくあんめえと思ったゞが
あの位な情合じょうあいのある男はないと私は実に感心をしております