度胆どぎも)” の例文
旧字:度膽
彼女はのっけから私の度胆どぎもを抜きつづけであったが、とうとう、私の最も恐れていた絶体絶命の質問を平気であびせかけてしまった。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ぼくは一瞬いっしゅん度胆どぎもかれましたが、こんな景色とて、これが、あの背広を失った晩に見たらどんなにつまらなく見えたでしょうか。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
こうした若林博士の説明は、極めて平調にスラスラと述べられたのであったが、しかしそれでも私の度胆どぎもを抜くのには充分であった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吹き出したけれども剣呑けんのんは剣呑です。誰かこんな奴を使って、ろくでもない文句を吹き込んで、おれの度胆どぎもを抜こうとした奴がある。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洋燈ランプの火でさえ、大概度胆どぎもを抜かれたのが、頼みに思った豪傑は負傷するし、今の話でまた変な気になる時分が、夜も深々と更けたでしょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとしきり敦圉いきまいた後とて度胆どぎもも坐ってきた上に、なぜかしらへべれけに酔ってみたい気持もあって、許生員は差される盃は大抵拒まなかった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
侠者子路はまずこの点で度胆どぎもかれた。放蕩無頼ほうとうぶらいの生活にも経験があるのではないかと思われる位、あらゆる人間へのするどい心理的洞察どうさつがある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「まあ、よしてください、後生ですから。ほんとうにあなたは何をなさるんです?」とプリヘーリヤはことごとく度胆どぎもを抜かれて、こう叫んだ。
ははア中々なかなか急さね位で、一寸ちょっとびっくりして済むことだろう、が、気を沈めて見れば見るほど、先登せんとうの登山をやった人達の、度胆どぎものほどが偲ばれる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
さすがに度胆どぎもを奪われてコレハッ! と歩をとめながらいい合わしたように腰を低めて先方の薄闇をのぞきこむと……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それがなんの音だか、岸にいる者にはわからなかったが、岸へあがって来た銀公を見るなり、一人が度胆どぎもを抜かれたような声で「血だえっ」と叫んだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いきなり弓の折れを持って、羽目板はめいたをピシリッとうった。その音のはげしいこと、蛾次郎のふるえあがったのはむろん、菊池半助きくちはんすけさえ度胆どぎもを抜かれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
度胆どぎもを抜かれるほど驚ろいたのは、その部屋に、かろうじて、うすものをつけた、或は、それこそ一糸もまとわぬ全裸な若い少女が二十人ほども、突然の闖入者ちんにゅうしゃ
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
内応であろう? 交換条件は? こう天草にいい出されて、文三ハナから度胆どぎもを抜かれた。しかしこやつもシレモノである。のっけから条件を切り出した。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ラガド大学の科学室を見学させて度胆どぎもを抜いてやろうか……などと思うだけでも、面白さにわが身を忘れた。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
私はまったく度胆どぎもをぬかれて跳び上がった。がアッシャーの規則的な体をゆする運動は少しも乱れなかった。私は彼のかけている椅子のところへ駆けよった。
ところで、ワイラー氏の話であるが、何よりも話の桁がすべてちがっているので、少し度胆どぎもを抜かれた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
流石の通尖も、これには度胆どぎもをぬかれてしまつた。変な顔をして暫く眼をぱち/\させてゐたが、すうと席を滑り下りたと思ふと、そのまゝ見えなくなつてしまつた。
よろける奴を邪慳じゃけんにこづきまわした。このとき、度胆どぎもをぬいてくれた松岡はたしかに一歩機先を制していたのだ。もはや相手は彼の云うなりであった。叱咤しったして歩かせた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
いきなりの激した口吻こうふん度胆どぎもをぬかれた形だつたが、老人の様子でそれが愛国的公憤よりは蒋の幕僚たる息子についての不安から発してゐるのだと分ると、僕は説明した。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
神谷青年は、まったく度胆どぎもを抜かれてしまった。明智が稀代きだいの名探偵であることは聞いていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕等は生活様式や境遇は失業者に違いないが、一度ひとたび、ハンマーを握らせ、配電盤スイッチ・ボードの前に立たせ、試験管と薬品とを持たせるならば、彼等の度胆どぎもを奪うことなどは何でもない。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平次は少し度胆どぎもを抜かれました。杉之助の言葉が予期以上に唐突で正直だったのです。
暫くすると、表からドヤドヤと人々が帰って来た。「あ、魂消たまげた、度胆どぎもを抜かれたわい」と三浦はゆがんだ笑顔をしていた。……警報解除になると、往来をぞろぞろと人が通りだした。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
客人たちは度胆どぎもを抜かれて、やかたあるじから「帰れ」と云われても直ぐには動くけしきもなく、興奮しきった主の顔の、喜んでいるのか泣いているのか判断のつかない眼つきを見ていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人はふえる一ぽう——と言ったように、はじめての人は誰でも度胆どぎもを抜かれる。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
平馬、お初の昂然こうぜんたる気焔きえんを聴いて、今更のように度胆どぎもを抜かれている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
度胆どぎもを抜かれた学生は、眼だけですみの方から、それを見ていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私はすっかり度胆どぎもをぬかれました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それがなんの音だか、岸にいる者にはわからなかったが、岸へあがって来た銀公を見るなり、一人が度胆どぎもを抜かれたような声で「血だえっ」と叫んだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、さしもの伊兵衛が度胆どぎもを抜かれたのは、その不意であった事よりも、燈下に見てさえ身の毛のよだつ、出目洞白でめどうはくの神作の怪しい力に衝たれたに違いない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんな法ってあるかい、あんな法って?」ラズーミヒンは頭を振りながら度胆どぎもを抜かれたように言った。
不破の関守氏が、熱海海岸の場の貫一さんのような発言をして、さすがの策士も、ちょっと度胆どぎもを抜かれたようでしたが、先方も相当、心臓を動揺させたと見えて
度胆どぎもを抜かれて、茫然ぼんやりした仮色使は、慌てて見当を失ったか、かえって背後うしろに立ったのに礼をいって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀百足ぎんむかでの名ある豪刀を引ッ掴んだ神保造酒、さすがに度胆どぎもを抜かれたのか、片手を障子にかけたまま、その座敷へ踏み込みもせず、じッ! 眼を据えて凝視みつめている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ズバリと度胆どぎもを抜いて頭ゴナシの短時間に退引のっぴきならぬところへい詰めてしまわねばならぬ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さすがに錚々そうそうたる連中も、この論文にはいささか度胆どぎもを抜かれたようであった。何が何だか分らなくて、まるで夢のようなことをいってるということにして、片づけてしまった。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
実際、私は同行者のこの危険この上ない姿勢にまったく度胆どぎもを抜かれてしまい、地上にぴったりと腹這はらばいになって、身のまわりの灌木かんぼくにしがみついたまま、上を向いて空を仰ぐ元気さえなかった。
「へーい」といったが商人は、度胆どぎもを抜かれた格好であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
度胆どぎもを抜かれたように、明智の声がしばらく途絶えた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人々は度胆どぎもをぬかれ、あッけに取られた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
猫の児をもらいに来たような頼みぶりでこういいましたから、豪傑連中も度胆どぎもを抜かれたようです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、相手の群れは、事の不意に度胆どぎもを抜かれてしまッたか、ただちに復讐に出てきそうもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうことははっきりしないが、銀二郎はまずその早口に度胆どぎもを抜かれ、つぎに感心してしまった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そしたら吉田さんが、速座に Il neige doucement sur la ville と仏蘭西フランス語でさんをした。私はいささ度胆どぎもを抜かれて「巧いものだなあ」とひどく感心した。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
城は蝸牛ででむし、何程の事やある、どうとも勝手にしやがれと、小宮山は唐突だしぬかれて、度胆どぎもつかまれたのでありますから、少々捨鉢の気味これあり、おくせず後に続くと、割合に広々とした一間へ通す。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは八流兼学の大剣客とでも思ったのか、岡っ引二人は、少なからず度胆どぎもを抜かれたように
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうち誰からか、きまりものの苦情が出て、何かガヤガヤもめだしたが、不意に向う側の板戸が外からガラリと開いて、度胆どぎもを抜くような太陽の光がそこから流れこむ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに寝室へ帰って来た五人の亡者が、ハッと度胆どぎもを抜かれた出来事が一つありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見る間に駈け寄ってきたのは春日新九郎、青額あおびたいに紫紐の切下げ髪は余り美貌過ぎて、不敵な郷士の度胆どぎもを奪うには足りないが、勇気は凜々りんりんとして、昔の新九郎とは別人のように
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)