小遣こづかい)” の例文
青年時代、友達と二人で、小遣こづかいもなくて退屈していた時、「ゴミ隠し」を少し大きくしたような遊びを思いついて興じたことがある。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おい二郎、また御母さんに小遣こづかいでも強請せびってるんだろう。お綱、お前みたように、そうむやみに二郎の口車に乗っちゃいけないよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は年と共に口ざみしかったので、熊吉からねだった小遣こづかいで菓子を仕入れて、その袋を携えながら小さな甥達の側へ引返して行った。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「柳沢屋というてな、あそこの本丸に一晩世話になって、その上、肌着小袖はだぎこそで、そのほか当座の小遣こづかいまで茶代に申しうけてまいった」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は少しばかりの小遣こづかいをくれて、停車場ステーションまで送ってくれた女に、冬にはまた出て来る機会のあることを約束して、立っていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「毎月ね、三りょうずつやりますよ。それから兄の所から三りょう宛ね、くれますよ。ソレ小遣こづかいが足りねえと、上祖師ヶ谷の様にならァね」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今晩はしかたがないから明日あすの晩は夕飯ゆうはんわずに往って見ようと思って彼はふところの勘定をした。懐には十円近い小遣こづかいがあった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小遣こづかいが沢山あるから御馳走をするかわり、済みませんが、姫様ひいさまにおっしゃるように、奥さん、といいながら歩行あるいて下さい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梅「いやさ、云わんければ手前はなぶごろしにしても云わせなければならん、其の代り云いさえすれば小遣こづかいの少しぐらいは持たしてゆるしてやる」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ残念なことには小遣こづかいがありませんな。江戸へ着きましたら、少しばかり小遣にありつくような仕事を、お世話をなすっておくんなさいまし。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おれは役料を十人扶持ぶち取っている」と土田は穏やかに云った、「父からきまって貰う小遣こづかいもある、それに、枡平では勘定をろくさま取らないんだ」
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「でも、もう中学生だから、買いたいものがすぐ自分で買えるように、いくらか小遣こづかいを持ってる方がいいんだ。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
祖母の家に来てからたった一度十銭の小遣こづかいしか貰わなかった私なのだ。その私がどうしてこの一円二十銭を払ったのであろうか。女中の月給のうちからか。
私がダージリンに着いた時分にはわずかに三百円しかなかったけれども家の借賃と月謝と書物代に小遣こづかいだけですからその金で一ヵ年半を支うることが出来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その実、この寄附金は、すべてニーナのふところから出たのであった。といっても、ニーナのお小遣こづかいから出たのではなくて、もっとえらい筋から出ているのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その月中の小遣こづかいを、スッカリ盗られてしまった上、間違った云いがかりをして、散々やっ付けられたことが、可なり不愉快であった。怏々おう/\として、少しも楽しまなかった。
天の配剤 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雨後うごたけのこに似て立ち並び始めたバラック飲食店の場銭ばせんと、強請ゆすりとで酒と小遣こづかいに不自由しなかった習慣は一朝いっちょうにして脱することが出来ず、飲食店の閉鎖、恐喝きょうかつ行為の強力な取締りと
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
何不自由なく、世間せけんから天才とか何とかいわれるまで勉強もさせ、小遣こづかいだって月五十円はおろか一万円にものぼることすらある。あの女を、伊藤なればこそ養っているなどとうわさもある。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
アントアネットは隣室にすわりながら、胸の動悸どうきを押えた。それからふいに立ち上がって、戸棚とだなの中の小さな小遣こづかい帳を捜した。ドイツを出発した日とあの妙な日とを見つけるためだった。
途方もないことをしゃべりだしては伍一の感情を大きくぐらつかせておいてからそのすきにうまい口実を見つけだして小遣こづかいをせびってゆくときのあの多吉とは少し様子がちがうようでもある。
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
江戸えど名代なだい橘屋たちばなや若旦那わかだんな。二十五りょうは、ほんのお小遣こづかいじゃござんせんか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
毎月小遣こづかいを幾ら貰っているか。一体あれはお前の本当の母親なのかどうか。情婦を親に見せかけていたのじゃないか。スッカリ白状し給え……なんて飛んでもない事を色々と云いかけるのです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おい土生、ゆうべは貴公が旗上げだ、いくらかおさよに小遣こづかいをやれ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あっしの方で、お天気はよしお小遣こづかいはふんだんにあるし」
「この節私もあまり景気はよくないがね、まだお神に小遣こづかいをせびるほど零落おちぶれはしないよ。みんなに蜜豆みつまめをおごるくらいの金はあるよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
師匠明流のなさけで、弟子小僧に、住込んだ翌年の五月です。花時に忙がしい事があって用が立込んだかわりに、一日お暇が出て、小遣こづかいを頂いた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立つ前の晩に、父は宗助を呼んで、宗助の請求通り、普通の旅費以外に、途中で二三日滞在した上、京都へ着いてからの当分の小遣こづかいを渡して
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ごらん下さい——こんなにお金を、小出しの当座のお小遣こづかいまで心にかけて下さったのは、苦労人でなければできません。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は此の間五郎三郎から小遣こづかいを貰い、江戸見物に出掛けて来て、未だこちらへ着いて間も無くお前に巡り逢って、此の事が知れるとは何たら事だねえ
パンのために勤労の必要もなく、お小遣こづかいと精力はあり余り、恋は、美しい意中の人を妻にして三年、その美しさに無感覚になってしまった程で、つまり
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんたはあたしのお小遣こづかいをぬすんだり、あたしをいじめて泣かしたり、あたしの大事にしている人形を幾つもこわしたりしたじゃないの、忘れやしないでしょ
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし醤油賭のまきぞえを食って、七日分の日傭賃ひようちんも親方から借出されてしまってある。当座の小遣こづかいだけでも持たずには、まさか、この裸一貫で、何処へ行って何をしようもない。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ旅行免状なぞのそっくり入れてある紙入から当座の小遣こづかいを出して嫂の手に渡した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
町はずれの安待合やすまちあい格子こうしをくぐるに足るお小遣こづかいを彼からせしめたこともあった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、父の家にある本とてはただ、講談本ぐらいのものなので、それにもいて馬鹿らしくなるし、父は小遣こづかいをくれないので新しい本を買うこともできないし、私はもうたまらなくなってしまった。
それらの財産から自分の喰物くいものなり小遣こづかいなりが出て来ますので、普通寺から給せらるるところの禄、信者から僧侶に対して一般上げらるるところの「ゲ」を受けるだけでは中等の生活は出来ないです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一色と彼女のあいだに、その後も手紙の往復のあったことは無論で、月々一色から小遣こづかいの仕送りのあったことも考えられないことではなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
賤「はい困りますねえ、旦那が亡なりまして私は小遣こづかいも何もないのですが、沢山の事は出来ませんが、ほんこゝろばかりで誠に少しばかりでございますが」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小遣こづかいを貰っておでんを食いに行くと同じ気持で、その遊び友達であった異性を買いに行くことを約束している。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
首尾が好いと女世帯せたい、お嬢さん、というのは留守なり、かみさんもひまそうだ。最中もなか一火ひとひで、醤油おしたじをつけて、とやっこ十七日だけれども、小遣こづかいがないのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「歯を填める小遣こづかいがないので欠けなりにしておくんですか、または物好きで欠けなりにしておくんでしょうか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言って、お三輪は自分の小遣こづかいのうちを手土産がわりに置いて行こうとした。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉書でもよこすようにとのことだったので、その通りすると、約束を反故ほごにせず観音まいりかたがたやって来て、また何某なにがしかの小遣こづかいをくれて行った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
毎月まいげつ小遣こづかいも多分は上げられないが、友之助に話して月々五両ずつ送らせるようにするからうか得心して下さい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おらも乗ってきゃ小遣こづかいもれえたに、号外を遣ってもうけ損なった。お浜ッに何にも玩弄物おもちゃが買えねえな。」
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
友達が売られたのを、お小遣こづかいをもらっておでんを食いに行くと同様に心得ている返答に、神尾主膳が胸の真中をどうづかれて、ひっくり返されてしまった。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小遣こづかいの財源のように見込まれるのは、自分を貧乏人と見傚みなしている彼の立場から見て、腹が立つだけであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを自分の小遣こづかいとして、任意に自分の嗜慾しよくを満足するという彼女の条件はただちに成立した。その代り彼女は津田といっしょに温泉へ行かない事になった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ははは、所帯じみねえでよ、あねさん。こんのお浜ッ子が出来てから、おらなりたけ小遣こづかいはつかわねえ。吉や、七と、一銭いちもんこをってもな、大事に気をつけてら。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五十か百もらって来たお小遣こづかいのうちから団子を買い、その二串を分けて与八の前に捧げた子供がありました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)