夫人おくさん)” の例文
「郡長の夫人おくさんはあれでなかなか分ってるぞ。」とか、「君は明日役場に行って、も一度愛国婦人会の名簿を借りて名をうつしたまえ。」
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
ところが夫人おくさん、貴女はそれによって艇長が属していた快走艇ヨット倶楽部くらぶ——王立カリンティアン倶楽部の三角旗を指摘したのでしたね。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夫人おくさん貴女あなたが芸術家ですつて。これは初めて伺ひました。結構な内職をお持ちですね。世間へは精々内証ないしようにして置きませうね。」
「だって人の夫人おくさんが妊娠したのなら、先生の子供かどうかわからないでしょう。きっと誰かの中傷ですよ、そんなことを言いふらすのは」
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
其三日目の日曜に、大川氏の夫人おくさんが訪ねて來たといふので吃驚びつくりして起きると、「宅に穿かせる積りで仕立さしたけれど、少し短いから。」
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
前様方めえさんがたが人中でつらさらして、こんな会をしなさるのは、ああ、あの夫人おくさんなさけ深い感心な御方だと人に謂われたいからであろう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お雪はある日、末はこの人の夫人おくさんにと、はかない望みを抱いていた、情人の机のかたわらに、身をすくめて坐っていた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「ともかく、あの夫人おくさんの鼻を明かすというのは、私も大賛成だね。では待っておいで! 今すぐ行くからね」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
然し夫人おくさん、悲痛の重荷はひとえにあなたの肩上に落ちました。あなたの経歴された処は、思うも恐ろしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あれはフィリップさんというふくろの夫婦。いま鳴いてるのは夫人おくさんの方です」と、ささやくように答えた。
夫人おくさん其樣そん事處ことどころでありません、貴女あなた少年せうねんとは如何どうしてもたすからねばなりません、わたくしまない/\。』とさけんで見渡みわたすと此時このとき第二だいに端艇たんていりた、第三だいさん端艇たんていりた
お前方の仲間に殺された善良な農民や女子供の死骸だの、また、黄巾の党に入らないので、くびり殺された地頭やら、その夫人おくさんやら、戦って死んだ役人衆やら——何百という死骸がのう
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笹村は玄関から茶のへ顔を出して、夫人おくさんに先生の容態を尋ねなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
よその夫人おくさん
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
所々の水溜みずたまりでは、夫人おくさんの足がちらちら映る。真中まんなか泥濘ぬかるみひどいので、すその濡れるのは我慢しても、路傍みちばたの草をかねばならない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが夫人おくさん、だいたいが、トリエステの早代りさえも映ろうという僕の眼に、そんなものは、てんから不必要なのですよ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夫人おくさん、もしか貴女あなたのお顔の色がもつと黒くて、そしてもつと肥えて居らつしたら、わたくし、あなたの為めに自分の国をも投げ出すんですがね。」
(一同真っ蒼になってふるえる)さ、手をあげなさい! (一同手をあげる)一番こちらの夫人おくさんから次々にくび飾りと指環とをはずしてお渡しなさい。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
貞奴さだやっこが引退興行のときおなじように招かれて落ち合ったおり、野暮やぼなおつくりではあるが立派な衣裳になった彼女は飾りけのないよい夫人おくさんであった。田村俊子たむらとしこさんが
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
アルベエル・エドゥアールの突堤ジコテに続く棕櫚散歩道パルム・ビーチをおもむろに眺めるところ、行くさ来るさの市井雑爼は今日もまた寝巻的散歩服ジュップ・ピジャマの令嬢にあらざれば袖無寛衣ブルウズ・サン・マンシュ夫人おくさん
そんなに方々へ売ってしまうんなら、ルロイ・ソレルの夫人おくさんなんぞ口留料を出しただけ莫迦を
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
濱島君はまじまくん、して、其後そのゝちきみも、夫人おくさんも、引續ひきつゞいてネープルスかうにのみお在留いででしたか。いままたこの軍艦ぐんかん便乘びんじようして日本につぽんへお歸國かへりになるのは如何どういう次第しだいです。』とむねいて
其死が夫人おくさん、あなたをはじめとして全世界に彼様あん警策けいさくを与えることが出来たでしょう乎。あの最後さいご臨終りんじゅうあるが為に、先生等身の著作、多年の言説に画竜がりゅうせいてんじたのではありますまい乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
其三日目の日曜に、大川氏の夫人おくさんが訪ねて来たといふので吃驚びつくりして起きると、「宅に穿かせる積りで仕立さしたけれど、少し短いから。」と云つて、新しい仙台平の袴を態々わざわざ持つて来て呉れた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「失礼だが、劉兄には、まだ夫人おくさんはないようだな」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よその夫人おくさん
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夫人おくさん、好事門を出でずと申しましたけれども、ああ、善きことは致したいもの、これ御覧ごろうじまし。」と三太夫が書斎にもたらしたる毎晩新聞。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まったく結果だけを見たら、それが、あのまたとない一人三役——ねえ夫人おくさん、貴女はたぶん、それを御存知ないのでしょうね
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「それは屹度、うまやのかへりに馬を撫でたその掌面てのひらで、夫人おくさん頬桁ほゝげたを思ひきりどやしつける癖なんだらう。」
夫人おくさん、日本へ行つたら、こんな風なさしみ皿買つて來て下さい、といふふうだ。お茶受けには鮨をつくり、汁粉をつくる。しかもお國料理はもとより、ふらんす料理も立派にやる。
北京の生活 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
夫人おくさん、すこし、甲板デツキうへでも逍遙さんぽしてませうか。』とわたくし二人ふたりいざなつた。
「なんだ、それではお前はソレルの夫人おくさんに逢ったというわけではないのだね。モリナーレの夫人おくさんに逢ったわけなんだね。私はまた、お前が電話でソレルの夫人おくさん、ソレルの夫人というものだから……」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
夫人おくさん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夫人おくさん
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きこの安東あんとう村に居るんです。貞造と申して、以前御宅の馬丁べっとうをしたもので、……夫人おくさん、貴女の、実の……御父上おとうさん……」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですから夫人おくさん、僕には、貴女に当時の状況をお訊ねして、相変らず鬼談的デモーニッシュな運命論をうかがう必要はないのですよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
断つておくが、発音の悪いのは、上流家庭の夫人おくさんでは無くて、夫人おくさんよりも口数の少い鸚鵡なのである。
青白い、神経質らしい、その仲間でのインテリ夫人おくさんだった。薄い髪の毛を上品に、下の方へ丸めた束髪で、白っぽい風通ふうつうか小紋ちりめんを着て、黒い帯をしめ、金歯が光っていた。
「ほんとうに夫人おくさん、気を落着けて下さらんでは不可いけません。突然いきなり海へ飛込もうとなすったりなんぞして、串戯じょうだんではない。ええ、夫人おくさん、心がたしかになったですか。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ねえ夫人おくさん、つまり、この詭計トリックの発因と云うのが、博士にかけられた貴女の電話にあったのですよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「何ですつて、夫人おくさん。私の叱言こごとが過ぎるから、会員が減るんですつて。ぢや、もうこれからは一切この会へ寄りつきませんからね。」と顔を歪めてわめくやうに我鳴り立てたが
夫人おくさん夫人おくさん。ああ好い夫人だ。お美しいお顔だ、お立派なお召物めしものだ。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
気を静めて、夫人おくさん、しっかりしなければ不可いけません。落着いて、いですか。心をたしかにお持ちなさいよ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういう解しきれない矛盾が、僕の懸念を濃厚にしたのでした。ところで夫人おくさん、あの夜貴女あなたがこのドアを開かれて、さてそれからどこへ行かれたものか、当ててみましょうか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それに大久保氏には美しい夫人おくさんがある。吊革は夫人おくさんをして安心させる事が出来る。
「お妾さんでない。お雪さん、あたくしの夫人おくさんです。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あんな可愛いお嬢さんにお育てなすったお手柄は、真砂町の夫人おくさんだけれど、……産んだのは私だよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人おくさん、あなたの頭に載つかつてゐるのは何ですね。」
「あたし夫人おくさんじゃない、めかけですっていってやったの」
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
夫人おくさん、大慈大悲の御心持で、この願いをお叶え下さるわけには参りませんか、十分間とは申しません。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)