天女てんにょ)” の例文
けれど、天女てんにょは、てんにいるものとばかりしんじたのを、どうしてこんなところへりたのであろうか、とかずにはいられませんでした。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
母も狂気しはしないかとぼくはおそれた。ぼくもドックから帰ると浜子の枕元に坐りきった。まるで天女てんにょみたいな愛くるしい顔しているのだ。
後でその説明を聞いたら、三保みほ松原まつばらだの天女てんにょ羽衣はごろもだのが出て来る所はきらいだと云うのです。兄さんは妙な頭をもった人にちがいありません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分もあの天女てんにょのような指で、おでこをはじいてもらえさえしたら、その場で世界じゅうのものを投げ出してもかまわないと、そんな気がした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
づめ志道軒しどうけんなら、一てんにわかにかきくもり、あれよあれよといいもあらせず、天女てんにょ姿すがたたちまちに、かくれていつかたらいなか。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
きっとさっきの白いとりたちがぬいで行ったものにちがいない。するとあの八にん少女おとめたちは天女てんにょで、これこそむかしからいうあま羽衣はごろもというものにちがいない。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
背後うしろに……たとへば白菊しらぎくとなふる御厨子みずしうちから、天女てんにょ抜出ぬけいでたありさまなのは、あてに気高い御簾中である。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
絵画ははじめ跡見玉枝あとみぎょくし女史に、後には橋本雅邦はしもとがほう翁に学ばれました。いつでしたかずっと前に、天女てんにょが花を降らせているをある展覧会で見うけたことがありました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
母の方は自分の身内だけに向うへ贔負ひいきをするかも知れんが東京へ来てあの天女てんにょごときお登和嬢を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
われわれが理想とするところはいかに小なりとするも、その全体を実現することはできずともいく分かすることはできる。昔から天女てんにょを見ると、羽衣はごろもを着て自由自在に空中を飛び歩いている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まるで天女てんにょのように、きれいなおねえさまだったのです。
宇宙怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天女てんにょ夢浮橋ゆめのうきはし
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうしても、おゆるしになりませぬか。」と、若者わかものがいうと、天女てんにょかおには、かなしみのいろがただよって、ついにくちをひらきました。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
美くしいもののなかによこたわる人の顔も美くしい。おごる眼はとこしなえに閉じた。驕る眼をねむった藤尾のまゆは、額は、黒髪は、天女てんにょのごとく美くしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花火の中から、天女てんにょななめに流れて出ても、群集は此の時くらゐ驚異の念は起すまい。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「その着物きものなくては、二てんへはかえれません。人間にんげんにはやくにたたぬものですが、天女てんにょには、なくてはならぬ着物きものでございます。」
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この盾だにあらばとウィリアムは盾の懸かれる壁を仰ぐ。天地人を呪うべき夜叉の姿も、彼が眼には画ける天女てんにょの微かにえみを帯べるが如く思わるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあいだに、白媼しろうばうちを、私を膝に抱いて出た時は、まげ唐輪からわのようにって、胸には玉を飾って、ちょう天女てんにょのような扮装いでたちをして、車を牛に曳かせたのに乗って、わいわいという群集ぐんじゅの中を
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、そのとき、あたまうえ孔雀くじゃくのようなうつくしいはねのある天女てんにょが、ぐるぐるとをえがくごとくっていました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
「この天女てんにょは御気に入りませんか」と迷亭がまた一枚出す。見ると天女が羽衣はごろもを着て琵琶びわいている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いばらの実は又しきりに飛ぶ、記念かたみきぬは左右より、衣紋えもんがはら/\と寄つてはけ、ほぐれてはむすぼれ、あたかも糸の乱るゝやう、翼裂けて天女てんにょころも紛々ふんふんとして大空よりるばかり、其の胸のる時や
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
虫さえいとう美人の根性こんじょう透見とうけんして、毒蛇の化身けしんすなわちこれ天女てんにょなりと判断し得たる刹那せつなに、その罪悪は同程度の他の罪悪よりも一層おそるべき感じを引き起す。全く人間の諷語であるからだ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天女てんにょとおけです。」と、秀吉ひできちこたえたのです。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
かんざしの花もしぼみたる流罪るざい天女てんにょあわれむべし。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)