嗟嘆さたん)” の例文
慕う慕うといえども亦た及ばず是れ即ち天賦てんぷの文才にして到底追慕するも亦画餠に属すればなりと予は筆を投じて嗟嘆さたんして止みぬ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
この場合「や」の字の働きはどうかというとそれは別に「や」に感嘆とか嗟嘆さたんとか疑問とかいう意味があるわけでなく
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今迄いままでは、元気であった父も、折々は嗟嘆さたんの声を出すようになった。夕方の食事が済んで、父娘おやこが向い合っている時などに、父は娘にびるようにった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
沈痛な嗟嘆さたんのうちに、宵闇ふかい夜は、彼の苦悶に、あきらめをいていた。遂に、ふたたび使者は出なかった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詩は花やかな対句ついくの中に、絶えず嗟嘆さたんの意が洩らしてある。恋をしている青年でもなければ、こう云う詩はたとい一行いちぎょうでも、書く事が出来ないに違いない。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヤヌッセンは、氷島アイスランドの地底の大海に「喜ばしき海ラエチス」と命名した。われわれは、嗟嘆さたんの声をそのまま、この海を「Ай!(鳴呼ああ!)」と名づけることにした。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
四方あたりに浮いてる家棟やのむねは多くは軒以上を水に没している。なるほど洪水じゃなと嗟嘆さたんせざるを得なかった。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたくしは不思議に思いながらわたくし自身の錯誤さくごには気づかず、心ひそかに嗟嘆さたんしてんだのであった。この同じ経験はその後にも二、三度繰り返したように思う。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「恰で包圍攻撃ほういこうげきを喰つてゐるんだ!」と嗟嘆さたんして、此うしてゐては、つひ自滅じめつまぬかれぬと思ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
余は思わず嗟嘆さたんして見廻みまわした。好い見晴らしだ。武蔵野の此辺では、中々斯程の展望所は無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白鳥先生が明治の話をもちだして、いかに老齢を嗟嘆さたんしても、読者が感じるのは白鳥青年です。
戦後文章論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
さては、たかきは秦嶺也しんれいなり昌黎しやうれい嗟嘆さたんすることひさしうしていはく、われいまにして仙葩せんぱたり。なんぢのためにまつたうせんと。韓文公かんぶんこう詩集ししふのうちに、一封朝奏九重天いつぷうあしたにそうすきうちようのてん云々うんぬんとあるものすなはちこれ
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この世は唯だ夢とのみ訳もなく嗟嘆さたんせしむるものことごとくわれにはしたし、われにはなつかし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
スレーターが頸骨くびほねを挫折して即死してしまったとはいえ、この一事あるがため、もしさもなければ犯罪上の最大な傑作として、人々を言葉もないほど嗟嘆さたんさせたでもあろうほどの玉に
ボドレエルにほのめきヴェルレエヌに現はれたる詩風はここに至りて、つひに象徴詩の新体を成したり。この「鷺の歌」以下、「嗟嘆さたん」に至るまでの詩は多少皆象徴詩の風格をそなふ。訳者
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
二匹の犬ははじめより耳そばたてて、阿駒おこまが語る由を聞きしが。黄金丸はまづ嗟嘆さたんして
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ルチアノめ「冥路の国セル・ミク・シュア」になにを狙っている⁈ 何を何をと、ただ盲目さぐりのいらだたしいその気持は、くそっ、ゴージャンノットの結び目に逢ったかと、折竹も嗟嘆さたんの声をあげるばかり。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それの怪しいもの、もしくは無いものはつかむとつぶれる。いかに弱々しい、又は粗末らしい形をしたものでも此の根源のあるものはつぶれない。詩でいえば、例えばヴェルレエヌの嗟嘆さたんはつぶれない。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
「金持ちはいいなあ」と豊公は嗟嘆さたんした。「いい着物を着ておいしいものを食べて学校へ遊びにゆく、貧乏人びんぼうにんは朝から晩まで働いて息もつけねえ、本を読みかけると昼のつかれで眠ってしまうしな」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
低い軒の狭い家はすぐ往来から蚊帳かやの灯がじかに見透かされる。あのような場所に人はんでいて、今、彼の眼に映ることが、それだけのことが彼には不思議そのものであり微かに嗟嘆さたんをともなった。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
何事も此ぎりと旦暮あけくれ愀悒しういう嗟嘆さたん相極め居候、御深察可下候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
S夫人の白隠伝は、こののんきな嗟嘆さたんの声で終っている。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は彼との悪縁が今更の如く嗟嘆さたんされたりした。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
さんらんとふる 嗟嘆さたんでさへ
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
嗟嘆さたんせしめた程である。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
敵味方とも鳴りをしずめ、耳をかたむけていたが、特に、蜀の軍勢までが、道理のあることかな——と、声には出さぬが、嗟嘆さたんしてやまない容子であった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間としての権利も不当不条理に剥奪はくだつされ、かつて前例のないほどの道化た待遇を受けながら、悶えもせず、嗟嘆さたんもせず、見るからに閑寂かんじゃくな生活を送っています。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この世は唯だ夢とのみわけもなく嗟嘆さたんせしむるものことごとくわれにはしたし、われにはなつかし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
門族の栄華の雲におおわれて、自家の存在と、学者の独立とを忘れていた英吉は、日蝕の日の、蝕の晴るると共に、嗟嘆さたんして主税に聞くべく、その頭脳はあきらかに、そのまなこは輝いたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔、ある伊太利イタリー人は『愚人聖職に上り、ガリレオ獄中に在り』と云って嗟嘆さたんしたそうでありますが、もしも天国の存在が本当だとすれば、『加害者天国に在り、被害者地獄に在り』です。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
玉だ! 誰が何時いついたのか、此枝にも、彼枝にも、紅玉、黄玉、紫玉、緑玉、碧玉の数々、きらり、きらりと光って居る。何と云う美しい玉であろう! 嗟嘆さたんしてやゝしばし見とれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼はかつて老いたる偏盲へんもう嗟嘆さたんさせた、「いやしかし俺は自然の美しさに見とれていてはならぬ。いかな時といえども俺はただ俺の考察の対象としてよりほかに外象をながめてはならないのだ」
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と、舌打ちして、嗟嘆さたんすると、ややあわて気味に、曹操は彼の耳へいきなり口を寄せて、小声にささやいた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ! よく降る!」と、盛んな自然の大暴れに、嗟嘆さたんの声をあげていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「困ったなあ、そいつは」と繰り返しながら、いつまでもそこに嗟嘆さたんを洩らしていました。そして、もう先では帰ったものと思っている時分にまた戸をたたいて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深い失望と嗟嘆さたんとに暮れてしまいました。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これが、越前の嗟嘆さたんだった。職悩職苦だった。そしてその遂行に行きづまったとき、法の権化ごんげともならん——と誓ったとき、不可抗力な壁を見た。将軍家という存在である。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「丞相、嗟嘆さたんには及びません。てまえが周瑜を説いて、お味方に加えてみせます」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰路、孔明は嗟嘆さたんして止まなかった。未開の蛮地にも、隠れた者のうちには、孟節のような人物もあるかと、今さらのように、「人有ル所ニ人ナク、人ナキ所ニ人有リ」の感を深うした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
席を立って、地だんだを踏んだり、また席に返って、嗟嘆さたんをつづけた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くその火光の布陣を望んでいた孔明は、嗟嘆さたんしてやまなかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と人をして、嗟嘆さたんを久しゅうせしめるような突然の死であった。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、秀吉は彼の消息を知ったとき独り声を放って嗟嘆さたんした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤吉郎は、嗟嘆さたんするもののように、宵の星を仰いで
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、嗟嘆さたんしながら、手の盃を床へ投げてしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、大きく嗟嘆さたんをもらして行った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、老人は嗟嘆さたんした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)