刎橋はねばし)” の例文
じいさん、ばあさんがあった、その媼さんが、刎橋はねばしを渡り、露地を抜けて、食べものを運ぶ例で、門へは一廻り面倒だと、裏の垣根から
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い武士が、肩に一人の人を引掛けて刎橋はねばしおどり越えて、そっと竜泉寺の方へ逃げて行くらしい姿を見ることができました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜を守る星の影がおのずと消えて、東の空に紅殻べにがらみ込んだ様な時刻に、白城の刎橋はねばしの上に騎馬の侍が一人あらわれる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わし連の馬の蹄は、丈夫な木造の刎橋はねばしの上に前よりも声高く鳴りひゞいて、二人はやがて二つの巨大な塔の間に口をひらいた大きな穹窿形の拱廊に馬をすゝめた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
と、たけい、刎橋はねばしの此方でただ時を移しているかのごとくみ揺れている将校の一団にたいして
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとつさんは刎橋はねばしの番屋に居るよと習はずして知る其道のかしこさ、梯子のりのまねびにアレ忍びがへしを折りましたと訴へのつべこべ、三百といふ代言の子もあるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おとつさんは刎橋はねばしの番屋に居るよと習はずして知る其道のかしこさ、梯子のりのまねびにアレ忍びがへしを折りましたと訴へのつべこべ、三百といふ代言の子もあるべし
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
お師匠さんの家は揚屋町の番屋を抜けて刎橋はねばしを渡って金杉の方へ行く途中に在った。この人はごくさっぱりした男のような気性の人で、いつも髪を割かのこというのに結っていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
土田どた刎橋はねばし」である。この小峡谷は常に霧が湧き易くて、罩めると上も下も深く姿を隠すといふ。重畳した岩のぬめりを水はたぎち、碧く澄んで流れて、謂ふところの鷺の瀬となる。
日本ライン (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
道の片側は鉄漿溝おはぐろどぶに沿うて、廓者くるわものの住んでいる汚い長屋の立ちつづいた間から、江戸町一丁目と揚屋町あげやまちとの非常門を望み、また女郎屋の裏木戸ごとに引上げられた幾筋の刎橋はねばしが見えた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吉原のおはぐろ溝とこれに架かつた刎橋はねばし——
刎橋の受け台について (新字旧仮名) / 木村荘八(著)
お妻は石炭くずで黒くなり、枝炭のごとく、すすけた姑獲鳥うぶめのありさまで、おはぐろどぶ暗夜やみに立ち、刎橋はねばしをしょんぼりと、嬰児あかんぼを抱いて小浜屋へ立帰る。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刎橋はねばしがあります、そこから入って、しるしがしてありますから、誰にことわる必要もありません、廊下伝いに行きますと、秋草の間というのがありますから
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おとつさんは刎橋はねばし番屋ばんやるよとならはずして其道そのみちのかしこさ、梯子はしごのりのまねびにアレしのびがへしをおりりましたとうつたへのつべこべ、三びやくといふ代言だいげんもあるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
行けるところまで行って、危く何かにぶつかりそうにしてとまると、奇橋がある。「土田の刎橋はねばし」である。この小峡谷は常に霧が湧きやすくて、こめるとうえしたも深く姿を隠すという。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
大工ののみの音が濠の水へよい音をひびかせている。大手の刎橋はねばしちた部分を修繕なおしているのだ。二の丸のどてには、草摘み女の菅笠すげがさが沢山にたかっている。松には庭師が登っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道の片側は鉄漿溝おはぐろどぶに沿うて、廓者くるわものの住んでゐる汚い長屋の立ちつゞいた間から、江戸町一丁目と揚屋町あげやまちとの非常門を望み、また、女郎屋の裏木戸ごとに引上げられた幾筋の刎橋はねばしが見えた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
後ろは切岸きりぎしに海の鳴る音を聞き、砕くる浪の花の上に舞い下りては舞い上るかもめを見る。前は牛を呑むアーチの暗き上より、石に響く扉を下して、刎橋はねばしを鉄鎖に引けば人のえぬほりである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の家から廓外かくがいへ出るには、検査場裏の裏門が近かったが、そこは昼間は締まっているので、私達は幼稚園へ通うのに、京町一丁目の番屋を抜けておはぐろどぶに架かった刎橋はねばしを渡って竜泉寺町へ出た。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
二人を先に登らせておいて米友は、二人よりはいっそう身軽に屋根の上へはね上ってしまい、梯子に結んでおいた縄を引くと、梯子は刎橋はねばしのようにはね上ります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おとつさんは刎橋はねばしの番屋に居るよと習はずして知るその道のかしこさ、梯子はしごのりのまねびにアレ忍びがへしを折りましたと訴へのつべこべ、三百といふ代言の子もあるべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右手に大溝おおどぶがあって、雪をかついで小家こいえが並んで、そして三階づくりの大建物の裏と見えて、ぼんやりあかりのついてるのが見えてね、刎橋はねばしが幾つも幾つも、まるでの花おどしよろいの袖を、こう
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惨憺さんたんといおうか、夜来の雨を加えて、濁りみなぎった水は、高松城ひとつを、その湖心にぽつんと残しているほかは、その石垣も、濶葉樹かつようじゅの森も、刎橋はねばしも、屋敷町の屋根も、部落も、田も畑も、道も
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃裏田圃が見えて、そして刎橋はねばしのあった娼家で、中米楼についでやや格式のあったものは、わたくしの記憶する所では京二の松大黒まつだいこくと、京一の稲弁いなべんとの二軒だけで、その他は皆小格子こごうしであった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
己れは今朝から探して居るけれど何處へ行たか筆やへも來ないと言ふ、廓内なかだらうかなと問へば、むゝ美登利さんはな今の先己れの家の前を通つて揚屋町の刎橋はねばしから這入つて行た
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すそも近ければ頂もずっと高い、かぶさる程なる山を見つつ、胴ぶくれに広くなった、湖のような中へ、他所よその別荘の刎橋はねばしが、ながれなかば、岸近なへ掛けたのが、満潮みちしおで板もけてあった
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが二更にこうの頃になって、かの加藤清正の屋敷あとといわれる浜屋の家の裏木戸があくと、そこがすでに堀になっていて、刎橋はねばしが上げてある、そこへ、静かに立ちあらわれた物影がある。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むむ美登利さんはな今の先己れの家の前を通つて揚屋町あげやまち刎橋はねばしから這入はいつていつた、本当に正さん大変だぜ、今日はね、髪をかういふ風にこんな嶋田しまだに結つてと、変てこな手つきして
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこに刎橋はねばしがある。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むゝ美登利みどりさんはないまさきれのうちまへとほつて揚屋町あげやまち刎橋はねばしから這入はいつてゆつた、本當ほんとうしやうさん大變たいへんだぜ、今日けふはね、かみういふふうにこんな島田しまだつてと、へんてこなつきをして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)