分入わけい)” の例文
この上ははり山へ向うより他は無い。で、さきに巡査等が登ったみちとは方角を変えて、西の方から山路やまみち分入わけいろうとする途中に、小さい丘が見えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人ふたりは、くがごと他界たかいであるのをしんずるとともに、双六すごろくかけいやうへにも、意味いみふかいものにつたことよろこんだ……勿論もちろんたに分入わけいるにいて躊躇ちうちよたり
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はじめて萱原かやはら分入わけいつたとき活東子くわつとうしんだ。望蜀生ぼうしよくせい如何どうしたのか、りつきもない。狹衣子さごろもし役者やくしやつて、あのどろしやくつたでお白粉しろしいきつゝあり。
池のほとりを逍遥して古い石像の欠けたのなどを木立こだちの中に仰ぎ、又林の中に分入わけいつて淡紅たんこうの大理石を畳んだ仏蘭西フランス建築の最も醇化されたトリアノンの柱廊にり掛り
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それでもこれだけ分入わけいるのさえ、樹の枝にも、卒都婆にも、こけの露は深かった。……旅客の指のさきは草の汁に青く染まっている。雑樹ぞうきの影がむのかも知れない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山又山の奥ふかく分入わけいると、ういう不思議が毎々あるので、忌々しいからうかして其の正体を見とどけて、一番退治して遣ろうと、仲間の者とも平生つねづね申合せているけれども
これで一同勇気が出て、かれこれ一里余りも分入わけいった時に、また先頭の一人が叫んだ。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
うちこそ、みねくもに、たにかすみに、とこしへふうぜられて、自分等じぶんら芸術げいじゆつかみ渇仰かつがうするものが、精進しやうじんわしつばさらないでは、そま山伏やまぶし分入わけいこと出来できぬであらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが数年前からこちらへ来て、黒姫山中に珍奇の薬草を採集する目的で、老体ながら人手を借りず、自ら不思議な住居を建て、ひまさえあれば山野の中にただ一人で分入わけいるのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
有合ありあう枯枝や落葉を拾って釜の下を焚付け、三人寄って夕飯の支度をしているうち、一人が枯枝を拾う為に背後うしろの木かげへ分入わけいると、ここに大きな池があって、三羽の鴨が岸の浅瀬に降りている。
何、牛に乗らないだけの仙家せんかわらわ指示しめしである……もっと山高く、草深く分入わけいればだけれども、それにはこの陽気だ、蛇体じゃたいという障碍しょうげがあって、望むものの方に、苦行くぎょうが足りない。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまか、黄金こがねか、にもたうと宝什たからひそんで、群立むらだつよ、と憧憬あこがれながら、かぜ音信たよりもなければ、もみぢを分入わけいみちらず……あたか燦爛さんらんとして五彩ごさいきらめく、天上てんじやうほしゆびさしても
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)