兜巾ときん)” の例文
城隍廟じょうこうびょうのそば、観音庵かんのんあんの家にもどると、彼はすぐさま身支度にかかった。胸に銀甲を当て、琥珀色こはくいろほうに、兜巾ときんをつけ髪をしばる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
振り返つてクワツと眼を剥いたのは、五十近い修驗者しゆげんじや、總髮に兜巾ときんを頂き、輪袈裟げさをかけて數珠じゆずを押し揉む、凄まじい髯男です。
さていよいよ大江山おおえやまけてつことにきめると、頼光らいこうはじめ六にん武士ぶしはいずれも山伏やまぶし姿すがたになって、あたま兜巾ときんをかぶり、篠掛すずかけました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
鼻筋鋭く、頬は白澄しろずむ、黒髪は兜巾ときんに乱れて、生競はえきそった茸の、のほのほと並んだのに、打振うちふるうその数珠は、空に赤棟蛇やまかがしの飛ぶがごとくひらめいた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またいろひとるようにつよくらい相違そういで、そしてその総髪そうはつにしたあたまうえにはれい兜巾ときんがチョコンとってりました。
そうして必ずしも兜巾ときん篠懸すずかけ山伏姿やまぶしすがたでなく特に護法と称して名ある山寺などに従属するものでも、その仏教に対する信心は寺侍てらざむらい・寺百姓以上ではなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、この九人の一行は、その翌日も熊野街道を、うち連れ立って辿っていたが、その姿は武士でも農夫でもなく、兜巾ときん篠懸すずかけ金剛杖の、田舎山伏となっていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頭に兜巾ときんをかぶり、ころもをつけ、手に羽うちわを持って、白いひげの生えかぶさった赤い顔に、高い鼻をうごめかし、金色の眼を光らして、にこにこ笑っているのです。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
幕内の非戦闘員が総出で謝罪あやまっているのを仏頂寺は聞き流して、しきりに身の皮を剥いでいるが、本来、らしめのつもりだから、なるべく長い時間をかけて、兜巾ときんから下着まで
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
例の如くまさかりいてふに柿色の上下かみしもで出て、一通口上を述べ、さて仮髪かづらを脱いで坊主頭になつて、此度此通頭を円めましたから、此頭に兜巾ときんを戴いて辨慶を勤めて御覧に入れますと云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
篠掛すゞかけ 摺袴すりはかま 磨紫金ましきん 兜巾ときん かひ 貝詰かひつめ 護摩刀ごまたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あの山伏は、おそらく九度山くどやまの一類だろう。兜巾ときん白衣びゃくえ鎧甲よろいかぶとに着かえれば、何のなにがしと、相当な名のある古強者ふるつわものにちがいない」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(扇をしゃくに)それ、山伏と言っぱ山伏なり。兜巾ときんと云っぱ兜巾なり。お腰元と言っぱ美人なり。恋路と言っぱ闇夜やみよなり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九尺四方白木しらきの道場の正面には、不動明王の御像を掛けさせ護摩壇ごまだんゑ、燈明とうみやう供物くもつを並べ、中程のところに東海坊、白衣に袈裟けさを掛け、散らし髮に兜巾ときんを戴き、揉みに揉んで祈るのです。
頭へは急ごしらえの紙製の兜巾ときんを置き、その背中には、前に弁信が背負っていた笈を、やはり頭高かしらだかに背負いなして、手には短い丸い杖を持って現われたから、それを金剛杖だと思いました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白羊羅紗はくようらしゃの角を折った范陽帽子はんようぼうしには、薔薇ばら色のふさをひらめかせ、髪締めとしている紺の兜巾ときんにも卵黄らんこうの帯飾りをつけている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すらすらと歩を移し、露を払った篠懸すずかけや、兜巾ときんよそおいは、弁慶よりも、判官ほうがんに、むしろ新中納言が山伏に出立いでたった凄味すごみがあって、且つ色白に美しい。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
袈裟けさ兜巾ときん姿に、一本歯の足駄をはき、釈杖しゃくじょうを突き鳴らし、法螺ほらの貝を吹きながら、町々を勧進して歩き、御旅所では信者を集めて祈祷などをして居りましたが、思いのほかの信心を集めて
その時、舞台の上なる仏頂寺弥助は、組敷かれた弁慶の兜巾ときんに手をかけて
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とばかり、彼の手を取って、正座の一番椅子いすに据え、その前に香炉台こうろだいを置き、王倫の兜巾ときんはずして、晁蓋ちょうがいいただきかぶせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九尺四方白木しらきの道場の正面には、不動明王の御像を掛けさせ護摩壇ごまだんえ、灯明とうみょう供物くもつを並べ、中ほどのところに東海坊、白衣に袈裟けさを掛け、散らし髪に兜巾ときんを戴き、みに揉んで祈るのです。
「それ、山伏やまぶしつぱ山伏やまぶしなり、なん殊勝しゆしようなか。」と威張ゐばつて、兜巾ときんかたむけ、いらたかの數珠じゆずみにんで、いのるほどに、いのるほどに、いのればいのるほど、おほききのこの、あれ/\おもひなしか
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と吉祥房は、新九郎の突きをさっと体斜めにかわして、その隙に手繰り戻した金剛杖を、兜巾ときんの頂きへ振りかぶって
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山伏やまぶし兜巾ときんいたゞいたやうなものぢや、としやうれぬことふ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時、大円房覚明は、無反むぞりの戒刀を兜巾ときんのいただきまでふりかぶって、かがりのような双のまなこに必殺の気をみなぎらせ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裂けた御簾みすの糸や竹が、蜘蛛くもの巣のように、弁円の兜巾ときんへかぶさった。そして、輦のうちの綽空の横顔が、雲を払った月のように、鮮やかに彼の目に映った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と新九郎はふと見上げると、額に兜巾ときんをつけ柿色の篠懸すずかけを身にまとった、これこそ本物の修験者であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柿いろの笹袿ささがけに、黒い脛巾はばき穿いて、頭には兜巾ときんを当て、足には八ツ目の草鞋わらじをきびしく固めている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨露に汚れた柿いろの篠懸すずかけを着て、金剛杖を立て、ひたいに、例の兜巾ときんとよぶものを当てていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)