両国りょうごく)” の例文
旧字:兩國
以前木造であった永代えいたい両国りょうごくとの二橋は鉄のつり橋にかえられたのみならず橋の位置も変りまたその両岸の街路も著しく変っていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
気のどくなのは、手近てぢかの小さな広場をたよって、坂本さかもと、浅草、両国りょうごくなぞのような千坪二千坪ばかりの小公園なぞへにげこんだ人たちです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「しかし、きれいなもんだなあ。両国りょうごく川開かわびらきで大花火を見るよりはもっとすごいや。あっ、また一発、どすんとぶつかったな。いたい!」
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両国りょうごくの花火のモンタージュがある。前にヤニングス主演の「激情のあらし」でやはり花火をあしらったのがあった。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが前年に七十七の賀宴を両国りょうごく万八楼まんはちろうで催したのを名残なごりにして、今年亡人なきひとの数にったのである。跡は文化九年うまれで二十九歳になる文二ぶんじいだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何かめるとなると、よく両国りょうごくの花火にひっかけて、もじったもので、さっき柳生源三郎と名乗って丹波とのあいだに問答のあったのを聞いていますから
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
両国りょうごくの花火のあるという前の日は、森彦からも葉書が来て、お俊やお延は川開かわびらきに行くことを楽みに暮した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
のちに小野庄左衞門は蟠龍軒からうらみを受け、遂に復讎ふくしゅうの根と相成りまするが、お話変ってこれは十二月二十三日の事で、両国りょうごく吉川町よしかわちょうにお村と云う芸者がございましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
保吉やすきち四歳しさいの時である。彼はつると云う女中と一しょに大溝の往来へ通りかかった。黒ぐろとたたえた大溝おおどぶの向うはのち両国りょうごく停車場ていしゃばになった、名高い御竹倉おたけぐら竹藪たけやぶである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅草あさくさ公園、花やしき、上野うえのの博物館、同じく動物園、隅田川すみだがわの乗合蒸汽、両国りょうごくの国技館。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花火といえば両国りょうごく式の大仕掛けの物ばかりであると思われるような時代が来るであろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから両国りょうごくへ来て、暑いのに軍鶏しゃもを食いました。Kはそのいきおいで小石川こいしかわまで歩いて帰ろうというのです。体力からいえばKよりも私の方が強いのですから、私はすぐ応じました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これも両国りょうごくの水茶屋に居たお静は、この時もう平次の女房になっていたのでした。
鶴見は花火が殊に好きで、両国りょうごくの河開きには一頃毎年欠かさずに出掛けて行った。
安政あんせい年間の事であった。両国りょうごくくら栄蔵えいぞうと云う旅商人あきんどがあった。
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
取るものも不取敢とりあえず大急ぎで両国りょうごく駅から銚子ちょうし行の列車に乗り込んだ。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
両国りょうごく広小路ひろこうじに沿うて石を敷いた小路には小間物屋袋物屋ふくろものや煎餅屋せんべいやなど種々しゅじゅなる小売店こうりみせの賑う有様、まさしく屋根のない勧工場かんこうばの廊下と見られる。
私はすぐに円タクを雇うと、両国りょうごくへ走らせた。国技館前で降りて、横丁を入ってゆくと、幸楽館こうらくかんという円宿えんしゅくホテルがあった。私はそこのドアを押した。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木曾街道きそかいどう方面よりの入り口とも言うべき板橋から、巣鴨すがも立場たてば本郷ほんごう森川宿なぞを通り過ぎて、両国りょうごく旅籠屋はたごや十一屋に旅の草鞋わらじをぬいだ三人の木曾の庄屋しょうやがある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いま両国りょうごくに小屋がけしている手品の太夫たゆうを招いて学童たちのまえでやってもらったところが、それが、一空さまにもはっきり見覚えのある、おゆうの良人の相良寛十郎だったのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それはとにかく、その勧工場のもう一つ前の前身としては浅草あさくさ仲見世なかみせ奥山おくやまのようなものがあり、両国りょうごくの橋のたもとがあり、そうして所々の縁日の露店があったのだという気がする。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東京上野公園の不忍池しのばずのいけのそばに、ふしぎな建物がたちました。両国りょうごくのもとの国技館をぐっと小さくしたような、まるい建物で、外がわの壁も、まる屋根も、ぜんぶ、まっ白にぬってあるのです。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まずは両国りょうごくの川開きともいうべき、華やかな夜の光景である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その夏始めて両国りょうごく水練場すいれんばへ通いだしたので、今度は繁華の下町したまち大川筋おおかわすじとの光景に一方ひとかたならぬきょうを催すこととなった。
内から生長してゆく恐ろしい力が巌丈がんじょうな壁や柱に圧された結果はどうなるのだろうか。私の五体は、両国りょうごくの花火のようになって、真紅まっかな血煙とともに爆発しなければならない。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう彼はまだいつきの道の途上にはあったが、しかしあの碓氷峠うすいとうげを越して来て、両国りょうごくの旅人宿に草鞋わらじを脱いだ晩から、さらに神田川かんだがわに近い町中の空気の濃いところに身を置き得て
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
八月二十四日の晩の七時過ぎに新宿しんじゅくから神田かんだ両国りょうごく行きの電車に乗った。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その頃、両国りょうごく川下かわしもには葭簀張よしずばり水練場すいれんばが四、五軒も並んでいて、夕方近くには柳橋やなぎばしあたりの芸者が泳ぎに来たくらいで、かなりにぎやかなものであった。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半蔵らがめざして行った十一屋という宿屋は両国りょうごくの方にある。小網町こあみちょう馬喰町ばくろちょう、日本橋数寄屋町すきやちょう、諸国旅人の泊まる定宿じょうやどもいろいろある中で、半蔵らは両国の宿屋を選ぶことにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
始めて両国りょうごくの川開きというものを見た。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
西、両国りょうごく、東、小柳こやなぎと呼ぶ呼出しやっこから行司ぎょうじまでを皆一人で勤め、それから西東の相撲の手を代り代りに使い分け、はて真裸体まっぱだかのままでズドンとどろの上にころがる。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けふなん葉月はづき十四日の野辺のべにすだく虫の声きかんと、例のたはれたる友どちかたみにひきゐて、両国りょうごくの北よしはらの東、こいひさぐいおさきのほとり隅田のつつみむしろうちしき
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)