髪毛かみのけ)” の例文
旧字:髮毛
……でも、そんな話を初めて聞いた時には、わたしもうビックリしちゃって髪毛かみのけをシッカリと掴みながらブルブルふるえて聞いていたようよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪毛かみのけの薄い小母さんの顔を見ていると、私はこのままこの家を出てしまいたい程くやしくなってくる。これが出掛けの戦争だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
衣服は規定によって、柿色に水玉を染め抜いた物を着せるが、髪毛かみのけはそのままだし、亭主のある女はかねをつけてもよい。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
弁護士は飲んでいた。Kはレーニの手を握り、レーニはしばしば、Kの髪毛かみのけをやさしくなでるようなことをやってのけた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
先生は気持よくさう云つて、長い頭の髪毛かみのけをグシヤ/\とかき上げると、今度はみんなの方へ向いて、かう云ひました。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
髪毛かみのけが、湿度によって伸縮するのを、御存じ……。あれを、落し金の動きに応用して、秘密の装置を鍵孔の中につくった人があるの。そうでしょう。
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今まではちっとも眼にかなかったが、綱は人間の髪毛かみのけよって固く編まれたもので、所謂いわゆる毛綱けづな」のたぐいであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
数歩すほを行けば、宮が命を沈めしそのふちと見るべき処も、彼がけたる帯をきしそのいはほも、歴然として皆在らざるは無し! 貫一が髪毛かみのけはりの如くちてそよげり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「行こうじゃないか。見に行こうじゃないか。どんなだろう。きっと古い木だね。」私は冬によくやる木片もくへんを焼いて髪毛かみのけこするとごみを吸い取ることを考えながら云いました。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの禿はげあがったような貧相らしいえりから、いつも耳までかかっている尨犬むくいぬのような髪毛かみのけや赤い目、のろくさい口の利方ききかたや、卑しげな奴隷根性などが、一緒に育って来た男であるだけに
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
土堤を降りた向側は山大に松倉、鋳物工場らしく、ハンマーの音が高らかに響き、エンジンが陽気にうそぶく。松金の赤煉瓦だけが死骸の様に沈まり返っていた。髪毛かみのけ一すじ程の煙りも吹き上げない。
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
紙包みより彼の三筋の髪毛かみのけを取出しつ細語さゝやく程の低き声にて
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
髪毛かみのけまりのようにくぐまった無気味なものである。
水草 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
亡くなったものの髪毛かみのけなんぞ。……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長いお前の髪毛かみのけ
そのうちでも取りわけて恐ろしかったのは、蓬々ぼうぼうと乱れかかった髪毛かみのけの中から、真白くクワッと見開いていた両眼であったという。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……元服して間もないと思われる額に、れた髪毛かみのけが二筋三筋ふりかかっている。かたくひき結んだ唇がかすかに震えた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
波蘭輪舞マズルカのような¾拍子を踏みながら、クルクル独楽こまみたいに旋廻を始めたが、卓子テーブルの端にバッタリ両手を突くと、下った髪毛かみのけ蓮葉はすっぱに後の方へ跳ね上げて云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
女は彼の頭をかかえ頭越しに身をかがめて、彼の頸をみ、接吻し、髪毛かみのけの中まで噛んだ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
長さは幾丈あるか鳥渡ちょっとは想像が付かぬ位で、黒い固い綱は狭い室内に蟠蜒とぐろを巻いて、其端そのはしは蛇の鎌首のように突っ立った。これが総て人間の髪毛かみのけであるかと思うと、市郎は何となく薄気味悪く感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その少女は艶々つやつやしたおびただしい髪毛かみのけを、黒い、大きな花弁はなびらのような、奇妙な恰好に結んだのを白いタオルで包んだ枕の上に蓬々ぼうぼうと乱していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪毛かみのけはもう灰色であるが、眉は黒く、とびぬけて濃かった。肉の緊った骨の太い、ごつごつした躯つきで、武芸で鍛えた躯だということはひと眼でわかった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さっきはこの男の前にちゃんと立っていたのだが、今は二人がささえねばならず、帽子は案内係がひろげた指の上にのせており、髪形は乱れ、髪毛かみのけは汗ばんだ額の上に垂れていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
しかし、伊右衛門は、まだ未練げに、っと浮きを見詰めていると、やがて髪毛かみのけがかかり、次に引き上げた櫛の歯から、一筋二筋と、もつれ毛を取り去る、指のしなだれ、その蒼白さ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大きな花弁はなびらの形にい上げられた夥しい髪毛かみのけが、雲のように濛々もうもうと重なり合っている……そのびんの恰好から、生え際のホツレ具合までも
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
廊下に面して障子があり、三方は壁で、行灯あんどん部屋といった感じだった。もちろん刀は取上げられているし、髪毛かみのけも乱れ、一夜みないうちに驚くほどせやつれていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
えたような、髪毛かみのけの匂いがぷうんと鼻を衝く。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と叫びながら紫の髪毛かみのけをふり乱し、紅玉ルビーを雨のようにふり散らして、物をも云わず窓から逃げ出そうとしましたが、最早もはや遅う御座いました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そうした表情が黒い髪毛かみのけを額に粘り付かせたまま、コメカミをヒクヒクと波打たせつつ、黒装束の中から見下している……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪毛かみのけひげ白髪しらがが交っていますからね。ハハハハハ。しかし私は、今から三ヶ月前迄は間違いなく二十代に見えたのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがて上の蒲団を容赦なく引きけると、髪毛かみのけもうと空中に渦巻かせて、寝床ベッドの中に倒れ込むようにメスを振りおろした。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夕雲のように紫色に渦巻いた長い髪毛かみのけ。長い眉と長い睫毛まつげ。花のような唇。その眼や口を静かに閉じて、鼻息も聞こえぬ位静かに眠っている姿。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
あとは髪毛かみのけと血のものみたようになったのが、線路の一側ひとかわを十間ばかりの間に、ダラダラと引き散らされて来ている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
弓道場の蔭の防火壁の横から外へ出て、裏門際の共同便所で髪毛かみのけと顔を念入りに直して、コッソリと自宅へ帰りました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……青白く痩せこけて……髪毛かみのけをクシャクシャに掻き乱して……無精髪ぶしょうがみ蓬々ぼうぼうやして……憂鬱な黒いを伏せた……受難のキリストじみた……。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それからまばたき一つせずに、頭をソロソロと左右に傾けて、白いずくめの寝具と、かし流されたまま、枕の左右に乱れかかっている自分の髪毛かみのけを見た。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつの間に取り上げたものか、私の松葉杖の片ッ方が、副院長のクシャクシャになった髪毛かみのけの上に振りかざされている。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
せこけて青ざめた、眼ばかり光る顔に、黒い髪毛かみのけをバラバラと垂らした女で、手には一冊の字も絵も何も書いて無い、白紙の書物を拡げて読んでいる。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
半面をおおうた髪毛かみのけの蔭から白いホコリの溜った硝子戸の割れ目を凝視したまま、奇妙にヒッソリと澄んでいた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
青白い糸のような身体からだに、髪毛かみのけをバラバラとふり乱して、眼の玉を真白にき出して、歯をギリギリと噛んで、まるで般若はんにゃのようにスゴイ顔つきであったが
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そいつが四尺近くもあろうかと思われる長い髪を色々な日本髪に結うのじゃそうなが、髪結いの手にかけると髪毛かみのけが余って手古摺てこずるのでヤハリ自分で結うらしい
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……どこかに女の髪毛かみのけがくっついていた場合(御自分のかも知れないと思われた時でも念のため)……
奥様探偵術 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪毛かみのけも同様に、仮髪かつらかと思われるくらい豊かに青々としているのを、めじりが釣り上がるほど引き詰めて、長い襟足の附け根のところに大きく無造作に渦巻かせていた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
首をもうすこしで死ぬとこまでめられたり、縛って宙釣りにされたり、髪毛かみのけだけで吊るされたりして、とても我慢出来ない位、苦しかったり痛かったりしたのよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また姑のオナリ婆さんは俯伏うつぶせになって、枕を抱えて寝ていたらしく、後頭部を縦に割付けられていたが、これは髪毛かみのけがあるので血が真黒に固まり付いている上に
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのモジャモジャと乱れ重なった髪毛かみのけの下を、ドキドキしながら見守っていた。しかし、そうじゃないらしい事が間もなくわかったので、妾はガッカリしてしまった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
田圃たんぼ道でスレ違いさまにお辞儀じぎをして行く村の娘の髪毛かみのけの臭気をいでも、彼は烈しいインスピレーションみたようなものに打たれて眼がクラクラとする位であった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
肩から胸へかけて薄い寒さを感じつつ、濡れた髪毛かみのけを撫で上げ撫で上げやっとの事で眼を見開いた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
写真機と手提袋を深い雨どいの中へ落し込んだ私は、手早く髪毛かみのけを解いて、長く蓬々ほうほうと垂らしました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
身体からだ中が汗みどろになって、髪毛かみのけが顔中に粘り付いて、眼も口も開けられなくなってしまったの。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)