駅路うまやじ)” の例文
旧字:驛路
天地はすでに夏に入り、江南の駅路うまやじや、平野の城市はもう暑さを覚える頃だが、その山上も、一眸いちぼうの山岳地も、春はいまがたけなわである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今だに古い駅路うまやじのなごりを見せているような坂の上のほうからは、片側に続く家々の前に添うて、細い水の流れが走って来ている。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新井あらい宿しゅくより小出雲坂おいずもざかおいずの坂とも呼ぶのが何となく嬉しかった。名に三本木の駅路うまやじと聴いては連理のの今は片木かたきなるを怨みもした。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
断念する気にはならぬので必ず行くという決心はなかったがしかたなく駅路うまやじの、長いまちつづきを向うへ向うへとどこまでも歩いて行った。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その夜甚太郎の泊まったのは笛吹川の川畔の下向山したむきやま駅路うまやじであったが、翌日は早く発足し滝川街道を古関の方へ例の調子で辿たどって行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あくる朝、駅路うまやじの物音に眼を覚した半十郎、フト床の側に引付ひきつけて置いた筈の、振り分けの荷物を見て驚きました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
御殿場のここの駅路うまやじ、一夜寝て午夜ごやふけぬれば、まだ深き戸外とのもの闇に、早や目ざめ猟犬かりいぬが群、きほひ起き鎖曳きわき、おどり立ち啼き立ちくに、朝猟の公達か、あな
時に湯気の蒸した風呂と、庇合ひあわいの月を思うと、一生の道中記に、荒れた駅路うまやじの夜の孤旅ひとりたびが思出される。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
林を出切ると、もう梓川に沿って、山の狭い懐中へと、馬車は揺られながら、入って行くので、間もなく、アルプスの駅路うまやじに突き当りそうなものだという感じを、誰にも抱かせる。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
兎に角、誰も歩く命の駅路うまやじ其方そちも歩いて来たのじゃ。
福島の城下は云うまでもなく、宮越、藪原の駅路うまやじでは寄るとさわるとこの噂で——花村一族と木曽のお館との合戦の噂で持ち切っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親同士の喧嘩になって、見物は蠅のようにたかってくるし、駅路うまやじの馬はいななくし、犬は吠えたてる。性善坊は、探しあぐねて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
榎はどこか、深山みやまの崖か、遠い駅路うまやじ出入境でいりざかいに有る、繁ったおおきな年る樹らしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勅使の一行が通ってきた北国の駅路うまやじには、綸旨りんし下向げこうのうわさが、当然、人々の耳目からひろがった。そして、念仏門のさかえが謳歌おうかされた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾日か幾日か泊まりを重ねて、三組の人たちは大津の駅路うまやじへはいった。しかるに同じ日にもう一組の男女が京都から大津の駅路へはいった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……すがすがしいが、心細い、可哀あわれな、しかし可懐なつかしい、胸を絞るような駅路うまやじすずの音が、りんりんと響いたので、胸がげっそりと窪んで目が覚めるとね、身体が溶けるような涙が出たんだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乗物は、駅路うまやじの行く先々で、雇うことにして、夜のうちに、三軒家あたりまでは行けようと兵庫とお通は、日ヶ窪を立った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、兵馬は駅路うまやじのはずれの、神社の広い境内へ出た。そこにかけ小屋が立っていて、赤い提灯が釣るされてあり、人々が木戸から出入りしていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山には木樵唄きこりうた、水には船唄ふなうた駅路うまやじには馬子まごの唄、渠等かれらはこれをもって心をなぐさめ、ろうを休め、おのが身を忘れて屈託くったくなくそのぎょうに服するので、あたかも時計が動くごとにセコンドが鳴るようなものであろう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸表の但馬守宗矩たじまのかみむねのりは、国元の急報に接して、将軍家にいとまを乞い、落葉しきりな晩秋の駅路うまやじを、大和やまとへさして急いでいた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藪原の駅路うまやじは、この時刻から、かえって賑かになるのであった。往く人来る人、それらの人は、いずれも長者の門を潜って、女菩薩にょぼさつを拝もうとするのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう後には必ずひでりがつづくもので、疫病えきびょう流行はやりだすと、たちまち、部落も駅路うまやじも、病人のうめきにみちてしまった。都は最もひどかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
留女たちは客を招く合間に、こんな話を話し合っていたが、この大津の駅路うまやじのはずれの、水無神社の境内に、事実この時お妻太夫の一座が、見世物の小屋をかけていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これまでの駅路うまやじでも、何度となく、おなじ例があったのだ。女を買いにゆくのか、酒だけにつられて出るのか。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆船が遠くの海の上を、野茨のように白くうごめいていれば、浜の背後を劃している、松林が風で揺れてもいた。海は向こうまで七里あり、対岸には桑名だの四日市だのの、名高い駅路うまやじが点在していた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近江の山、美濃ざかいの山、どっちを向いても山ばかりな駅路うまやじだが、その柏原の街道を、北へ三、四丁ほど折れて行くと、さらに一つの山の山すそへ出る。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして大島の駅路うまやじへ二人の者が着いたのはその日の夕暮れのことであったが、そこで二人は一泊し、相談の末人丸左陣は、加賀白山へは帰らずに、傾城小銀が山寨を持つ妙高山へ行くことにした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠いむかしは大枝山おおえやまから生野いくのを経て裏日本へ出る駅路うまやじのあった跡だという。篠村八幡しぬむらはちまんの森を中心として、この辺りを能篠畑のしぬばたけとも、篠野しぬのさとともんでいる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山東さんとう河北かほくの旅商人が取引にあつまる市場、駅路うまやじに隣接しているので、俗に、妓家ぎか千軒、旅籠はたご百軒といわれ、両替屋りょうがえやだけでさえ二、三十軒もかぞえられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ、駅路うまやじも都から遠くないうちは、その後、高俅こうきゅうの激怒が、官布となって、諸道国々の守護へたいし、罪人王進の逮捕たいほとくすこと頻りであるとも聞えていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃、赤城あかぎ山の裾から遠くない阿蘇あそしょう田沼に、東山道とうさんどう駅路うまやじを扼して、たちとりでをかまえ、はるかに、坂東の野にあがる戦塵を、冷ややかに見ていた老土豪がある。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊賀から河内の金剛山へは、桜井や高市たけちあたりの駅路うまやじも通るが、ほぼ山づたいに往還おうかんできる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
励ましながら、駅路うまやじの端れからは燈火ともしび一つ見えない田舎道を、母子おやこはまたたどたど歩いた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駅路うまやじの口は、出迎えの軍勢でうずまっていた。すべてこれ三河足利党の兵馬であった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この篠村しぬむら八幡へは、かつて元弘の頃、足利高氏あしかがたかうじも、願文をめたことがある。高氏はこの駅路うまやじに来て旗を立て、勅命にこたえ奉るなりと声明して、一挙京都に入り、六波羅ろくはらおとした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輿の従者たちは、駅路うまやじに着いても、いちを見かけても、努めて彼らの眼光を避けた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお、不安にたえない残りの家臣組は、大津あたりまで、見えかくれに信長の姿を守護して行ったが、そののち駅路うまやじの馬を雇って、信長たちは、さも気やすげに、瀬田せたの大橋を東へ去った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吹聴しちらした“将門禍まさかどか”の誇張が、余りに効きすぎていた結果、将門旋風の波長は、今や、極端な“将門恐怖”をひき起し、将兵たちは、家を立つにも、駅路うまやじの軍旅のあいだも、将門将門と
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうして昂然こうぜんとよろこべるのか。しかしもう自己を疑うゆとりはない。勝つことだけがすべてであった。陣は駿河の手越てごしに入った。すると駅路うまやじでの噂だった。——直義はまだ越前にいて動いていない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝は暗いうちから、駅路うまやじを早立ちして行く旅人が多い。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏は、武蔵府中の駅路うまやじで川止めにあっていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、路傍にうずくまり、駅路うまやじにかかれば軒々で
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)