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ふりがな文庫
“
饐
(
す
)” の例文
その心事の醜悪、行為の卑劣、犬畜生というもなお足らぬ。もし汝らをゆるさば百世の武門を
廃
(
すた
)
らし、世の節義は地に
饐
(
す
)
えるであろう。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いわゆる
貸間長屋
(
デネメントハウス
)
というやつで、一様に同じ作りの、
汚点
(
しみ
)
だらけの古い
煉瓦
(
れんが
)
建てが、四六時中
細民
(
さいみん
)
街に特有な、あの、物の
饐
(
す
)
えたような
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
安いのでなお誰にも使って欲しく思います。飯鉢とは、暑い地方のこと故、御飯が
饐
(
す
)
えないようにとて作った鉢であります。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
新クレムリン宮殿は、
突兀
(
とつこつ
)
たる氷山の如く
擬装
(
ぎそう
)
されてあった。中ではペチカがしきりに燃えていて、どの
室
(
へや
)
も、頭の痛くなるほど
饐
(
す
)
えくさかった。
地軸作戦:――金博士シリーズ・9――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
二十六という年になるまでの、
澱
(
よど
)
んだ
饐
(
す
)
えたような日々。……今こそ彼は、その過去に向って舌をだしてやりたかった。
七日七夜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
床の上には果物の皮や、煙草の吸殻なぞが一面に散らばっていて、妙な、
饐
(
す
)
えたような臭いを
室中
(
へやじゅう
)
に漂わしている。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
昨夜
(
ゆうべ
)
のらしく、
餡
(
あん
)
は
饐
(
す
)
えてゐた。だが彼は頬を盛に動かし、茶をのんでは、
咽喉骨
(
のどぼね
)
をゴクリゴクリとさせた。
反逆の呂律
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
君は極端な言ひ方をするといつて咎めるかも知れないが、そこには一すぢの文化の光もささず、あるものはただ
饐
(
す
)
えた封建の臭ひだけだつたやうな気がする。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
それと同時に房内の
一隅
(
いちぐう
)
の
排泄物
(
はいせつぶつ
)
が
醗酵
(
はっこう
)
しきって、
饐
(
す
)
えたような汗の
臭
(
にお
)
いにまじり合ってムッとした悪臭を放つ時など、太田は時折封筒を張る作業の手をとどめ
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
「溝の中を歩く人。」と口の中で云つて、私は思はず
微笑
(
につこり
)
した。それに違ひない、アノ洋服の色は、
饐
(
す
)
えた、腐つた、溝の中の汚水の臭気で
那麽
(
あんな
)
に変色したのだ。
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
たしかにそのような批評は、彼女の身について益々醗酵しはじめていた生の
饐
(
す
)
えた香り、美が腐敗にかわる最後の一線で放つ人を酔わす匂いをさますものであったから。
婦人と文学
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
四六時ちゅう、喧嘩口論の絶え間はなく、いつも荒びた空気が、この物の
饐
(
す
)
えたようなにおいのする、うす暗い路地を占めているところから、人呼んでとんがり長屋——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
閉め切った室内に殊に
籠
(
こも
)
った獣特有の
饐
(
す
)
えた臭い……まったくこの間どおりの陰惨さであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
白ペンキ塗の
厚縁
(
あつぶち
)
の
燦々
(
きらきら
)
で、
脾弱
(
ひよわ
)
い、すぐにも
撓
(
しわ
)
って
外
(
はず
)
れそうな障子や
襖
(
からかみ
)
の
劃
(
しき
)
りの、そこらの
間毎
(
まごと
)
には膏薬のいきれがしたり、汗っぽい淫らな声が
饐
(
す
)
えかけたりしている。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
花ならば
饐
(
す
)
え腐った
蕾
(
つぼみ
)
の
滓
(
かす
)
、葉ならば霜に
朽
(
く
)
ち
佗
(
わ
)
びた葛の裏葉の、返して春に、よも逢う女ではあるまいと、不憫がる眼の
眇
(
すが
)
め方をするのはあまり面白いものではありません。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
横町がないというより、あの
埃々
(
ごみごみ
)
した
饐
(
す
)
えたような匂いのする街全体がないのである。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
その度にばさ/\と、凄じく翼を鳴すのが、落葉の匂だか、瀧の水
沫
(
しぶき
)
とも或は又猿酒の
饐
(
す
)
ゑたいきれだか何やら怪しげなものゝけはひを誘つて、氣味の惡さと云つたらございません。
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
玉蜀黍殻
(
とうきびがら
)
といたどりの茎で囲いをした二間半四方ほどの小屋が、前のめりにかしいで、
海月
(
くらげ
)
のような低い
勾配
(
こうばい
)
の小山の半腹に立っていた。物の
饐
(
す
)
えた香と
積肥
(
つみごえ
)
の香が
擅
(
ほしいまま
)
にただよっていた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
饐
(
す
)
えたような地衣の匂いの中に立ち腐れになっている、うっかり手が触れると、
海鼠
(
なまこ
)
の肌のような滑らかで、
悚然
(
ぞっ
)
とさせる、
毒蚋
(
どくぶと
)
が、人々の肩から上を、空気のように離れずにめぐっている
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
中途まで来ると矢張り駄目だ! どうしても踊りぬくことが出来ない!⦅ええい性悪な悪魔めが!
饐
(
す
)
えた甜瓜にでも咽喉を詰らせやがれ! もつと小さい中にくたばりくさるとよかつたんだ
ディカーニカ近郷夜話 後篇:05 呪禁のかかつた土地
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
そして一緒にその腐つた匂ひを嗅ぎ、
饐
(
す
)
えた味を味はうとするものである。しかもそのもの自身が、すつかり敗徳の泥の中、堕落の
溝
(
みぞ
)
の中に入つて行つて了ふことをその黒猫は決して喜んでゐない。
黒猫
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
昔は六十六戸もあったという浅貝の宿も、今は十五、六戸に減じている。一月遅れの節句だというので、とある家で昼飯の代りに
粽
(
ちまき
)
を食べた。実にうまい。水に浸して置けば幾日も
饐
(
す
)
えないという。
三国山と苗場山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
象徴派風の表現が勢を得てから、「えやみ」(疫)だとか「すゆ」(
饐
(
す
)
ゆ)など言った辛い
聯想
(
れんそう
)
を持った言葉が始終使われた。そうかと思うと、近代感覚を以て、古語にない言葉を作ったのもある。
詩語としての日本語
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
饐
(
す
)
えたような、
髪毛
(
かみのけ
)
の匂いがぷうんと鼻を衝く。
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
物の
饐
(
す
)
えたやうな一種の悪臭が私の鼻を
衝
(
つ
)
いた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
饐
(
す
)
えたような異臭が、鼻を打った。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
「評論はよせ、酒が
饐
(
す
)
えらア」
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
饐
(
す
)
えたる菊はいたみたる。
月に吠える:02 月に吠える
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
饐
(
す
)
えてなよめく
泥
(
どろ
)
がはの
春鳥集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
「生活の
饐
(
す
)
える
臭
(
にほひ
)
だ!」
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
饐
(
す
)
えたる血にぞ、
怨恨
(
えんこん
)
の
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
饐
(
す
)
え朽ちた欄干を越え、異様な
黴
(
かび
)
の匂いやら
蜘蛛
(
くも
)
の巣やらを面で払った。そして最も奥の深いところの
御厨子
(
みずし
)
の内へかくれこんだ。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
饐
(
す
)
えたような、云いようのない不愉快な匂いが充満し、崩れたような壁の向うでは、酔った男がわけのわからないたわ言をだみ声で叫びちらしていた。
百足ちがい
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
もはやかうした宿らしく人間の汁液が浸込み
饐
(
す
)
えた臭ひがこもつてゐるのや、天井の薄い板もところどころ外れて垂れさがつてゐるのを、認めるのであつた。
釜ヶ崎
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
それに違ひない、アノ洋服の色は、
饐
(
す
)
えた、腐つた、溝の中の汚水の臭氣で
那麽
(
あんな
)
に變色したのだ。手! アノ節くれ立つた、恐ろしい手も、溝の中を歩いた證據だ。
菊池君
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
かび臭い、ごみ臭い、また
饐
(
す
)
えたやうなもののにほひは複雜なおもひを誘つてやまなかつた。
第一義の道
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
仏天青
(
フォー・テンチン
)
も、人々のうしろから、柵の中にはいった。狭い
下
(
くだ
)
り
坂
(
ざか
)
を、ついていくと、やがて、電灯のついただだっ
広
(
ぴろ
)
い部屋が見えた。ぷーんと
饐
(
す
)
えくさい空気が、彼の鼻をうった。
英本土上陸戦の前夜
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
プウンと
饐
(
す
)
えた臭いを身体から発散させて、見るからに貧弱な小男の、年の頃はまだ四十そこそこくらいであったろうか? 皺の多い顔の奥から
金壺眼
(
かなつぼまなこ
)
を眼鏡越しに光らせながら
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その度にばさ/\と、凄じく翼を鳴すのが、落葉の匂だか、滝の
水沫
(
しぶき
)
とも或は又猿酒の
饐
(
す
)
ゑたいきれだか何やら怪しげなものゝけはひを誘つて、気味の悪さと云つたらございません。
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
いくら暑くても吹き抜け風をおそれて廊下の扉をしめ切つてゐるから、一あし踏み込むと若い女の汗と脂粉の
饐
(
す
)
えた臭ひが、むつと鼻をつき刺す。なんともいへず鋭い酸性の臭ひである。
灰色の眼の女
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
その通りもその一種で、細く暗い道一杯に、
饐
(
す
)
えた臭いが漂っていた。ぼんやりした明りにすかして見ると、一ヵ処窪んだ、どこかの裏口らしいところに、むこうを向いた一つの影が立っている。
日は輝けり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
直土
(
ひたつち
)
に
饐
(
す
)
えつつ黄ばむ
朴
(
ほほ
)
の花晝は仔犬が掻きてゐにけり
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
饐
(
す
)
ゑたる血にぞ、
怨恨
(
えんこん
)
の
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
建国以来のかがやきある皇土に、
饐
(
す
)
えた文化の
黴
(
かび
)
を咲かせ、永遠の皇民に、われらの子孫に、亡国の
禍根
(
かこん
)
をのこして行っていいだろうか。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そうして店子に向っては、上方から見下す必要上、背丈が低いために、やむなく半身を後方へ反らせ、眼の玉のみ下方へ向けて、
而
(
こ
)
うした
饐
(
す
)
えたような声で云うのである。
長屋天一坊
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
饐
(
す
)
えたやうなにほひのこもる夜の裏街に灯がつくと寒く飢ゑてゐる僕の心も亦あつたまつて來る。さうして一月のうちに心に適つた詩の何行かでも出來れば、ほかには何も云ふことはない。
続生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
漆黒
(
しっこく
)
の夜空の下に、巨大な建物が、
黙々
(
もくもく
)
として、立ち並んでいた。
饐
(
す
)
えくさい
錆鉄
(
さびてつ
)
の匂いが、プーンと鼻を刺戟した。いつとはなしに、一行は、ぴったりと寄り添い、足音を忍ばせて歩いていた。
夜泣き鉄骨
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
直土
(
ひたつち
)
に
饐
(
す
)
えつつ黄ばむ
朴
(
ほほ
)
の花昼は仔犬が掻きてゐにけり
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
饐
(
す
)
えた悪臭を発するに過ぎないであろう。
バルザックに対する評価
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
饐
(
す
)
えたる果物籠の中にあって、一箇の果物のみ饐えないでいるわけもない。帝の心はすでに甘言のみを歓ぶものになっている。
三国志:12 篇外余録
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
饐
漢検1級
部首:⾷
21画