鞭撻べんたつ)” の例文
あくる日一日、平次はガラッ八を鞭撻べんたつして、吉田一学の屋敷と、一学の娘百枝ももえの嫁入り先、金助町の園山若狭の屋敷を探らせました。
実に慚愧ざんきに堪へぬ悪徳であつたと、自分の精神に覚醒の鞭撻べんたつを与へて呉れたのは、この奇人の歪める口から迸しつた第一声である。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
工事監督や人夫の鞭撻べんたつにあたってはいるが、いかにせん使役する人夫は、不満不服のかたまりといってもよい占領地下の敵国民である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
邦強く敵無くんば、まさに長策をふるうて四方を鞭撻べんたつせんとす、則ち人をしておのれに備うるにいとまあらざらしむ、何ぞ区々防禦のみを言わんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
兄の言葉は、代助の耳をかすめて外へこぼれた。彼はただ全身に苦痛を感じた。けれども兄の前に良心の鞭撻べんたつこうむる程動揺してはいなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ねがわくは何か峻烈しゅんれつなる刺激を与え、鞭撻べんたつ激励して彼等を努力せしめたならば、日本の生産力もまた必ず多大の増加を見る事は疑いをれまい。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
且つ絶間なく私を鞭撻べんたつしてこの仕事を仕上げさせてくれたマアガレット・ダブリュー・ブルックス嬢に対して、私は限りなき感謝の念を感じる。
また松陰しょういん先生にしても誰にでもこの筆法をもって鞭撻べんたつされたとも思われぬ。日ごろ先生が公に見るところあり、この機に乗じて一しんを加えたにすぎぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
親父おやじには絶えずおこられて叱責しっせきされ、親戚しんせきの年上者からは監督され、教師には鞭撻べんたつされ、精神的にも行動的にも、自由というものが全く許されてなかった。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
かえって福沢諭吉先生の開明的な思想に鞭撻べんたつされて欧化に憧れ、非常な勢いで西洋を模倣し、家の柱などはドリックにけずり、ベッドに寝る、バタを食べ
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
名聞みょうもんを求めず。栄達を願わず。米塩をかえりみずして、ただ自分自身の芸道の切瑳琢磨と、子弟の鞭撻べんたつに精進した……という、ただそれだけの人物であった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
またその試験というのが人工的に無闇むやみに程度を高くじり上げたもので、それに手の届くように鞭撻べんたつされた受験者はやっと数時間だけは持ちこたえていても
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
確かにこの問答が怠惰たいだなるチベット人、蒙昧もうまいなチベット人を鞭撻べんたつして幾分仏教の真理に進ませるので、半開人に似合わず案外論理的思想に富んで居るという事も
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しょうの悪き牛、乳をしぼらるる時人をることあり。人これを怒つて大に鞭撻べんたつを加へたる上、足をしばり付け、無理に乳を搾らむとすれば、その牛、乳を出さぬものなり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして其の間それを傍観してゐる磯村のへ忍ばねばならなかつた苦痛は、むしろそれ以上であつた。何事にも不検束ふしだらな彼にも、監視と鞭撻べんたつの余儀ないことが痛感された。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこで男は精一ぱい心を今の一刹那せつなに集中しようと思った。過去をも未来をも、少しも思うまいと男は意志に最後の鞭撻べんたつを加えた。かく今だけでも幸福を感じていたい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
この診察は人の勇気を鞭撻べんたつするものである。そして、本書の悲痛な一編の劇にはさんだいかめしい幕間物たるこれらの数ページを、我々はこの鞭撻の力説によって終えたいと思う。
かつこの自伝の断片は明治二十二年ごろの手記であるが、自ら「当時の余の心状は卑劣なりしなり」と明らさまに書く処に二葉亭の一生鞭撻べんたつしてやまなかった心のなやみが見えておる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
クリストフは愛情のあまり、彼をきびしく鞭撻べんたつしてやったが、その甲斐かいもなかった。
中江篤介とくすけ氏は社会的に平民主義を論じ、星、大井の諸氏は法律論を唱へ、此回顧的退歩的の潮流に抗し民心を激励鞭撻べんたつして此切所に踏みとゞまり、更に進歩的の方角に之を指導せんとせり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
宮地嘉六氏と内藤辰雄氏の鞭撻べんたつのお蔭で、かなり力の入れどころも知ったように思ったが、八月号の「新興文学」誌上で、宮島新三郎氏から、内面描写が足り無いという評を受けてからは
こうして彼は私を鞭撻べんたつしてくれたのだ。そして今また今度の会へもぜひ私を出席さして、その席上でいろいろな雑誌や新聞の関係者に紹介してくれて、生活の便宜べんぎを計ってやると言っていたのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
今日、ストリンドベリイの「青巻」を読み了えた。最後の言葉「苦しみ働け、常に苦しみつつ常に希望を抱け、永久の定住を望むな、此の世は巡礼である」——がひどく予を鞭撻べんたつしまた慰めて呉れた。
教育家自身の迂濶と怠慢とを鞭撻べんたつせらるるように希望致します。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
読者諸氏の鞭撻べんたつによって大成を他日に期したいと思う。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
自分を鞭撻べんたつするように、こころに大書した。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
するやうに、鞭撻べんたつの労を執つてくれ給へ。
着物 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
修業のためにはあまんじて苛辣からつ鞭撻べんたつ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
看よ看よいかにかの露国がその人民を鞭撻べんたつし、その膏血こうけつを絞るも、限りあるの財本はもって限りなきの経費につるあたわず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
完全の域に進まなければならんと云う内部の刺激やら外部の鞭撻べんたつがあるから、模倣という意味は離れますまいが、その代り生活全体としては
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ努めて、真雄の人物と作刀を、重臣たちの間へ推賞したり又、真雄自身へは倦まざる精進を、鞭撻べんたつして来ただけだった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はガラツ八を鞭撻べんたつして、吉田一學の屋敷と、一學の娘百枝もゝえの嫁入り先、金助町の園山若狹わかさの屋敷を探らせました。
なぜなら民衆は、彼等を甘やかすことによって益々ますます堕落し、鞭撻べんたつすることによって向上してくるからだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
無邪気なる悪行を懲らすにもこれを教へ諭すの法に由らずしてかへつて打擲し鞭撻べんたつする者あり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
芸術家としてのたとえようのない、清い高い「熱」によって、私がどんなにまで鞭撻べんたつされ、勇気付けられ、指導されたか……という事は、私自身にも想像が及ばないでいるのです。
この戒心は刻一刻吾人を鞭撻べんたつして吾人の偉大性を発揚せしめつゝあり。かくて吾人は今、新らしき舞台の変化を迎へて、最も真面目にこの内省の戒心に聞くべきの時期に遭遇せり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかしただ書棚の中に並んでいる書物の名をガラス戸越しにながめるだけでも自分には決して無意味ではなかった、ただそれだけで一種の興奮を感じ刺激と鞭撻べんたつを感ずるのであった。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この若者ばらにたいしては、相当、つね日頃から官兵衛は、苦言や鞭撻べんたつを加えている。ときどき、仲間へ入って来て
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱心は成効の度に応じて鼓舞こぶせられるものであるから、吾が髯の前途有望なりと見てとって主人は朝な夕な、手がすいておれば必ずひげに向って鞭撻べんたつを加える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藤田もとより無謀の攘夷家にあらず、彼は攘夷の決心を以て、二百五十年来腐敗したる人心を鞭撻べんたつし、一旦国家を逆境におとし、以てその復活を計らんと欲したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
南町奉行朝倉石見守いはみのかみは、與力筆頭笹野新三郎を呼び付けて鞭撻べんたつすると、笹野新三郎は利助や平次をせき立てる有樣、かう事件が深刻になつては、手柄爭ひどころの沙汰さたではありません。
それは勿論その養父たる家元の鞭撻べんたつ指導の御蔭に相違ないのであるが、その時には、前に述べた芸の恩というものが、自分のめた苦心によってその養子の骨の髄にまで徹していると同時に
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ、これが新聞のうえに掲載中は、不才のわたくしを鞭撻べんたつしてくれた読者諸氏の望外な熱情と声援には、その過大にむしろわたくしはおそれたほどだった。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば英語の教師が英語に熱心なるのあまり学生を鞭撻べんたつして、地理数学の研修に利用すべき当然の時間をいてまでも難句集を暗誦あんしょうさせるようなものである。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が将来の外患を予測して、沈酔の社会を鞭撻べんたつせんとす、その怨府えんぷとなるまたべならずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
南町奉行朝倉石見守あさくらいわみのかみは、与力筆頭笹野新三郎を呼び付けて鞭撻べんたつすると、笹野新三郎は利助や平次をせき立てる有様、こう事件が深刻になっては、手柄争いどころの沙汰ではありません。
むしろ拍子の当りが確か過ぎるのを只圓翁が嫌って、今一層向上させるべく鞭撻べんたつしていたのを後人が、自分の力の足りなさから、自己流に解釈して、芸道を堕落させたものに相違ないのである。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
江戸へ出ては、文晁ぶんちょう鞭撻べんたつされ、崋山に刺戟しげきされ、春木南湖の門をたたき、靄厓あいがいただすという風だった。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肉を鞭撻べんたつすれば霊の光輝が増すように感ずる場合さえあったのかも知れません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翁は決して自分一人を鞭撻べんたつしていたのではあるまいと思われる。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)