せん)” の例文
まぶしいものが一せん硝子ガラスとほしてわたしつた。そして一しゆんのち小松こまつえだはもうかつた。それはひかりなかひかかゞや斑點はんてんであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
周瑜は、からくも馬を拾って、飛び乗るや否、門外へ逃げ出したが、一せんの矢うなりが、彼を追うかと見るまに、グサと左の肩に立った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし寸毫すんごうの油断もない。襲って来たら開いて一せん、抜く手も見せじと大刀膝わきに引きよせておいて、じろりと十人の目の動きを窺いました。
あれは青天のへきれきでしたよ! あれは雷が黒雲の間からとどろいて稲妻の矢がさっと一せんひらめいたのです! さあ
と垣に寄添い、うっかりとする背後うしろに靴音、はっと見返る眼のさきへ、紅燈一せんと立つは、護衛のために見巡る巡査。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い剣身に、河原の水明りがせん々と映えて、川浪のはるかかなたに夜鳴きする都鳥と、じっと伸び青眼に微動だにしない、切れ味無二の濡れ燕と——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
電流計の針がブルッと震えたかと思うと、弾かれたようにピーンと右の方へ一せん、たちまち針が飛んでしまった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一せんにすぎなかった。それでも十分だった。彼はそれを見てとった。彼は彼女がぞっとするような眼つきを注いだ。彼女はその中に憎悪ぞうおの気持を読みとった。
この一せんせんの光の下に、必死ひっしとなってかじをとりつつある、四人の少年の顔が見える。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
せん、危ふく身をかはした八五郎は、淺井朝丸の二度目の襲撃をける暇もありません。
船長は、入り口の方へ、その「物すごい」目を一せん放っておいて、椅子いすへ腰をおろした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼は発見したのであったが、それは眼前を通過する一せんの光明にすぎなかった。
向うの方で、光のやりの最初の一せんが、音もなく空をつんざく。雨が一滴落ちる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
矢張り默つた儘で、一せん偸視ぬすみみを自分に注いで、煙を鼻からフウと出す。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
口あけば大青蜥蜴舌ほそくせん々として青熖せいえんはし
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
陣刀一せんのもとに、彼が前なる一槍を斬り落していたとき、彼のからだは、そのまま横へ泳いで行った。二ヵ所の槍傷に堪えやらず——。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒暗々の夜空をつらぬく一せんの稲妻のごとく、このときお蓮様の心に、すべての事情がうなずかれたのだった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しゅッと一せん、細身の銀蛇ぎんだが月光のもとに閃めき返るや一緒で、すでにもう怪しの男の頤先あごさきに、ぐいと短くえぐった刀疵が、たらたら生血なまちを噴きつつきざまれていたので
この時までも目を放たで直立したりし黒衣の人は、濶歩坐中にゆるいでて、燈火を仰ぎ李花にして、厳然として椅子にり、卓子ていぶる片肱かたひじ附きて、眼光一せん鉛筆のさきすかし見つ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
クリストフは一せんの光に打たれた時、一つの放電が全身に伝わった。彼はぎくりとして震えた。それはあたかも、海洋の中にあって、暗夜の中にあって、陸地を見出したようなものだった。
とたんに、きはなたれた無反むぞりの戒刀かいとう、横にないでただ一せんの光が、松の枝にブラさがった大九郎のどうを通りぬけてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せんした左膳の隻腕、乾雲土砂を巻いて栄三郎の足を! と見えたが、ガッシ! とはねた武蔵太郎の剣尾けんびに青白い火花が散り咲いて、左膳の頬の刀痕とうこんがやみに浮き出た……と思うまに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せんの光だった。彼女は彼の首に飛びつき、彼は彼女の腕の中に身を投じた。
振り向いた頭上から、戛然かつぜん、一せんの白刃がおりてきた。どうかわす間も受ける間もない。魏延の首は血煙を噴いてすッ飛んだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝ている守人の肩へ伸びた刹那せつな、もうだめと思ったか、むくりと起き上がった守人の手が夜具の下へ行ったかと思うと、隠していた帰雁が、白刃はくじんせん! おどり出たと見るまに、早くも捕手の一人
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
李逵りきの一が、馬の脚を払った。また間髪を入れず、ころげ落ちた直閣ちょっかくの体へ、次の一せんくだっていた。噴血、ひとたまりもあろうはずがない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わあーッと彼方かなたで跳び上がったと思うと、武蔵の刀によって描かれた一せんが、どう斬り下げられたのか、松の皮二尺あまりを薄板のように
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このさまを見て、小婢こおんな迎児げいじは、縄目のまま灌木の中を跳び出して逃げかけた。一せん、楊雄は躍ッて迎児を斬り伏せ、返すやいな、その血刀で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無碍むげに、一歩でも、手元へ近づいて行った者は、たちまち、相手の一せんを浴びて、あえなき血けむりを揚げてしまう。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長のぶながの子、織田城之助おだじょうのすけは、小山田おやまだを見るよりその不忠不人情を罵倒ばとうして、褒美ほうびはこれぞと、陣刀じんとうせんのもとに首を討ちおとした。——そういう例もある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豹身ひょうしん低く、短槍の一せんまた一閃、富安を突き刺し、あっというまに管営の大きな図う体も串刺くしざしにしてしまい、つづいて雪の中を逃げまろぶ陸謙りっけんの影へ向って
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて松の下へ、彼が坐ったと見えたせつなも、一せんのいなびかりが、松のみどりを、ぱっと浮かせた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「家康ッ!」と、ふいに、耳もとをつんざいた声とともに、闇のうちからながれきたった一せんの光。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木鹿はさらに一せん、また一閃、呪を念じながら斬りつけたが、三度とも切ッ先は届かない。そしてかえって後ろへ廻った二人の徒歩かち槍手そうしゅに、大象の腹を突き立てられた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青白い一せんがキラとしたせつなに、闇ぐるみ、血の香は、人の全部をくるんでしまった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその途中、道をさえぎる敵将の呉蘭を、馬上のまま一せんに薙ぎ払い、悠々迫らず帰ってきた武者ぶりは、さすがひょうの子は豹の子、父曹操の若い頃をしのばせるほどのものがあった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そぼろ助広へ気合がかかれば、お綱の胴か細首かは、ただ一せんに両断される。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——お綱もまた、廻廊のかどで、旅川周馬の白刃にささえられたが、ハッと驚いたのは一時で、手に提げていた新藤しんとう国光くにみつ鵜首作うくびづくりを、無意識に、サッと構えるなり、周馬の小手へ一せんくれた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ逃げられるおそれがあるので、少しずつ万吉が追い着きだして行くと、しまった! 一足違いに前へ行く多市の影へ、何か、不意にキラリッと青光りの一せん! 横から飛びかかって低く流れた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさに、消えなんとする灯は、滅前、あきらかな一せんの光りを放つ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、舞台わきの細殿を覗き、そこのすだれを一せんにバラと斬り落した。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せんの赤電が、物を目がけて、雷撃してゆくような勢いだった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)