いち)” の例文
トラ河豚の連れている七人や八人のものでは、所詮、うごかし得ないことをかれもいちはやく覚ったらしい。にわかに身をうつして
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その証拠にはいちはやく乾雲を鞘走らせた隻眼せきがん片腕の刃妖左膳と、一歩さがって大刀の柄に手をかけた月輪軍之助の両剣妙を前面にひかえて、泰軒先生
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家庭教師は、しきりに話し合っている人達の顔に注意を払いながら、彼等が笑いそうだなと思うと、いち早く自分も口をあいて、骨身おしまず一緒に笑ったものだ。
軽い方の鋤簾は、股引を穿いたり手甲をつけたり、それからまた小魚を入れるぼて笊を探しあぐねているうち、兄の由次にいち早く持って行かれてしまったのである。
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
太子はMRミスタ・シュータンの微行で来ているにもかかわらず、英国大使館方面ではいち早く神経をとがらしていたものと見えて、日本の新聞には一行半句も現れていないのに
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこできのこ扮裝ふんさうは、しま着附きつけ括袴くゝりばかま腰帶こしおび脚絆きやはんで、見徳けんとく嘯吹うそぶき上髯うはひげめんかぶる。そのかさいちもつが、鬼頭巾おにづきん武惡ぶあくめんださうである。岩茸いはたけ灰茸はひたけ鳶茸とびたけ坊主茸ばうずたけたぐひであらう。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、私は小さく囁いて山岡の顔を見ると、山岡はにわかにぷんとして形容のし難い苦い表情をしたのである。山岡も、いち早く彼の女の姿を認めて——あれだな——と、判断していたらしい。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
をりふしはひにいままでこともなき日本全圖にほんぜんづなどヽいふものをおたみがお使つかひの留間るすひろけてこともあり、新聞紙しんぶんしうへにも札幌さつぽろとか北海道ほくかいだうとか文字もじにはいちはやくのつく樣子やうす
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして愛の極印のあるものは、仮令お前がそれを地獄の底になげうとうとも、忠実な犬のようにいち早くお前の膝許ひざもとに帰って来るだろう。恐れる事はない。事実は遂に伝説に打勝たねばならぬのだ
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此の事件がこれからどう発展したかは、当時の新聞紙がいち早く報じた所で、皆さん十分御承知の事と信じますから、詳しくは述べませんが、一、二重要な点だと思われる所を話して見ましょう。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
房一はその時いち早く、横に寝かされてゐる男の投げ出した手首に血がかすりついてゐるのを、そして寝ながら立ててゐる片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みてゐるのを見てとつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
車がまだ全く停止とまりきらないうちに、彼は歩廓に飛下りて、いち早く改札口に向かったが、彼の乗った車輛は最後車の次であった為に、改札口を出たときは、既に一団ひとかたまりの人々が構外へ吐出されていた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
(武蔵というのは、売名家で、派手にはやったが、いざとなった場合は、いちはやく、叡山えいざんへ逃げこんだというのが真相らしいて)
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の頭に機を知らしめていち早くきざすの一事につきる——と言われているだけあって、これによってもわかるとおりに、手裏剣を投げて人をたおし得るにいたるまでには
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いちはやく二人の奴隷によって彼の手からぎ取られてしまったので、今や彼は観念の眼をつぶって、生きた心地もなく、この家の主人のチェルケス製の煙管パイプ真向まっこうから受けようと待ち構えていた。
沢本と戸部とが襲いかかる前に瀬古いち早くそれを口に入れる。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
武蔵は? ——と、見れば、矢矧の橋桁はしげたの陰へと、いちはやく跳んで、蝙蝠こうもりがとまったように、ぺたと身をかがめていたのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじまるナ! とてとった与の公、いち早くコソコソうしろへ隠れてしまったけれど、泰軒はいい気もちに高いびき、すっかり寝こんでいる——のかと思うと、さにあらず!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
出来て来たかと思うと隣の李逵りきいち早く横から取って食ってしまう。それが八杯にもおよんだので、ついに老人も腹を立てた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそのために、九州やさかいへも何度か行った。そしていちはやく岐阜ぎふの里に鉄砲鍛冶かじを養成し、自分の居城には、ひそかに火薬も貯えたりしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜならば、その干城かんじょうの大事を知って、浅井長政も、いちはやく、鎌刃城かまはじょうにいた樋口三郎兵衛を、長亭軒の城のほうへ移して守らせているからである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて、泉州さかいに止まって、鉄砲を研究して来たことは、いちはやく、この美濃の国防と兵制に多大な貢献をしていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家康がその東軍の大部隊を、野州小山から引っ返して、三州の池鯉鮒ちりふにまですすめて来たのを、いちはやく宗矩がそこまで出迎えに出た時に——であった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
演舌していた首魁者しゅかいしゃらしい僧は、勝家の手にくくりあげられ、いちはやく逃げたほかの三名も、そこここで捕まった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわてもせず、闇にうごく敵を、総軍で押しつめると、寡兵かへいな木下方は、さんざんに敗れて、いちはやく、金ヶ崎の城中へ、逃げこんでしまった形勢である。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はいちはやく、手下を捨て、峰づたいに、恵那えな山脈のふところへ、逃げ去ってしまったらしいのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいにく今日は、三島明神の祭日ゆえ、大路を進めば、往来の者の目にふれて、いちはやく敵方へ知れよう。——ひるしまの間道を迂回してせてはどうであろう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば下手人がいちはやく領境りょうざかいをこえて、他国の領地へ遁れてしまった場合も、あえて藩と藩との交渉によって、それを追求するようなことは避けたい程度にである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしの考えでいえば、その宮本武蔵とかいう男は、いちはやく、道をかえて危難を脱していると思うが
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちはやく、誰か知らせたとみえる。尿小路の近所合壁は、かなえのわくような騒ぎで、親たちは跣足はだしで飛び出す。隣の夫婦や裏の老人も出て来る、娘も走る、犬もいてゆく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちはやく飛びのいて、売る喧嘩なら買ってもよいという血気が隠されなかった。せっかく、彼が自分で説いていた好意というものも、これでは怪しみたくなるようなものである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだそのきょのないうちから、謙信は、天文二十二年のまだ弱冠のころにいちはやく上京し、時の将軍義輝を介して、朝廷に拝し、天盃てんぱいを賜わり、種々の献上物を尊覧に入れなどして
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長の声は、もう和田山の上にった。いちはやく立てた旌旗せいきひる近い太陽の下に鮮やかに見える。血と泥にまみれた将士は、追々に麾下きかへ集まった。そして、勝鬨かちどきをあげて、午の兵糧を喰った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その将軍家の府には、もういちはやく、甲州から早打ちが来ていて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、その企ては、義龍のほうでいちはやく知ってしまった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、密報は、諸処の残党の仲間へ、いちはやく聞えていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中でも、葛西清重からは、いちはやく返辞が来たが
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちはやく一人が見つけて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)