つまびら)” の例文
いろいろ言いたきまま取り集めて申上もうしあげ候。なお他日つまびらかに申上ぐる機会も可有之これあるべく候。以上。月日。〔『日本』明治三十一年三月四日〕
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
何をどうしたのかつまびらかではないが、蛇毒をうけて瀕死ひんしのハルクは、ついに自らの手で、自分の太ももを切断することに成功したのだ。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新体詩家宜しく音楽の理に於て通ずる所あるべし、音と人心との関係に於てつまびらかにする所あるべし。斯の如くにして詩形始めて生ぜん。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
吾人ごじんは時勢の概括的観察を為さざるべからず。しこうしてこれにさきだちて、さらにその淵原来歴をつまびらかにせざるべからざるの必要を感ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
M. T. N. Bacon が英訳したクールノーの訳書の巻末に I. Fisher が載せた数理経済学文献中につまびらかである。
けだし論者のごとき当時の事情じじょうつまびらかにせず、軽々けいけい他人の言によって事を論断ろんだんしたるがゆえにその論の全く事実にはんするも無理むりならず。
そのショウビンも川せみのセミも、共に大昔のソニから転訛てんかした語音であることは、狩谷棭斎かりやえきさいの『箋註和名鈔せんちゅうわみょうしょう』にも既につまびらかに説いている。
滋幹は、父がどう云う動機から酒をつに至ったのか、そのかんの事情をつまびらかにしないのであるが、彼がそれに気が付いたのは
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこは不破の関守氏も抜からぬもので、がんりきの百のために、洛北岩倉村の地理を説くことかなりつまびらかなものであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巧に国民の趨向すうかうに投じ、つまびらかに其の傾くところに従ひ、或意味より言はゞ国民の機嫌を取ることを主眼とするてきの思想家より多くを得る能はず。
宮はその梗概あらましを語れり。聴ゐる母は、彼の事無くその場をのがれ得てし始末をつまびらかにするをちて、始めて重荷を下したるやうにと息をきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
友釣でも、ドブ釣でも技術の真髄をきわめようとするには、どうしても鮎と水垢との関係をつまびらかにして置く必要がある。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
京都と故郷とに於ける自分の生活状態をつまびらかに胸に描いて見て、其利害を比較して見たが、何れも軽重がない様に思はれ、何れを選んで宜いか困つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あるいは山野に逃れ、軍を集め給い、実に言語に絶した労苦の後、これを平定して皇位につき給うた、この間の事情は書紀につまびらかである故くりかえさない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
この様に蓮についての種々な事柄をほとんど残りなくつまびらかに知っていた世人は当時まだ世間には無ったのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
独り洋外の文学技芸を講究するのみにてその各国の政治・風俗如何いかんつまびらかにせざれば、仮令たとひ、その学芸を得たりとも、その経国けいこくの本にかえらざるをもつて
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
独逸ドイツ語の先生の批評はね、主題はまことに立派であるけれども、方法論的のこまかいことがまだつまびらかでないから、先に期待すると云うのです。それはそうでしょう。
小説は三面記事ではないのだから、事件や人物をさようにつまびらかに説明する事はいらない事だと思う。
あえて一人坊主之助と云わず、花村甚五衛門家臣とある限りは、ことごとく動静はつまびらかでござる」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
富士観象会の目的ならびにその事務の大要はせて前段の主趣ならびに規則書等につまびらかなり。
厳にすべし、と同夜有志多く池田屋に集ると聞く、其の何人たるをつまびらかにせず
余は別れに臨んで君の送られたその児の終焉記を行李こうりの底に収めて帰った。一夜眠られぬままに取り出してつまびらかに読んだ、読み終って、人心の誠はかくまでも同じきものかとつくづく感じた。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
又出所等もつまびらかでないが、筆者が何かの大衆雑誌で読んだ事である。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
民俗学の目的や方法について我が国の民俗学者に如何なる主張があるのか、余はそれをつまびらかにしないが、少くともその主として取扱う材料が現存する民間伝承や民俗であることは、推測し得られよう。
令に所謂大蔵が洗骨であったか、或いは火葬であったかは、今これをつまびらかにし難いが、ともかく遺骨を葬らずして蒔き散らし、或いはこれを墓に置いたという事実の、古く存在した事は疑いを容れぬ。
ことさらにつまびらかなる報告をなしき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼が獄中の生涯は、彼が獄中より諸友に与えたる書中につまびらかなり。彼は死と同居しても、なおその飛揚跳梁の精神を全く棄てざりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あの中にある物をつまびらかにしたいために、大正年代の若い学者が二人以上、この年ごろ辛労をしているのだ。どこまでも運命的な箱ではある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その名誉の負傷のよってきたるところをつまびらかにさせたいものだと、鎌だけではないモーションをかけてみたりしたが、一向に手答えがありません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
誰も彼もニュース映画によってウルランド氏の生理現象をつまびらかに見ていたので、そういう人物と握手しようとは、誰一人として思わなかったのである。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小説は三面記事ではないのだから、事件や人物をさようにつまびらかに説明する事はいらない事だと思う。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
口惜くちをしとの色はしたたかそのおもてのぼれり。貫一は彼が意見の父と相容あひいれずして、年来としごろ別居せる内情をつまびらかに知れば、めてその喜ぶべきをも、かへつてかくうれひゆゑさとれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つまびらかに探って復命したほどの、大貿易商であり武人である所の——島井宗室は病歿した。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左衛門尉は圓一と如何なる縁故があったのかつまびらかでないけれども、彼のお蔭でたやすく勾当の位を得、姓名を藪原辰一と改めて、文禄二年の頃からとき/″\聚楽じゅらくの城中に招かれ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
徳川時代文学の真相は、其時代を論ずるに当りてつまびらかに研究すべし、然れども余は既に逆路より余の研究を始めたり、極めて粗雑に明治文学の大躰を知らんこと、余が今日の題目なり。
つまびらかに言へば茅堂は写生の何たるをもく解せざるべく、鳥羽僧正の写生の伎倆ぎりょうがどれだけに妙を極めたるかも解せざるべく、ただその好きな茶道より得たる幽玄簡単の一趣味を標準として
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ことさらにつまびらかなる報告をなしき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それをもややつまびらかに説き得たならば、南北双方の興味を引くことができると思ったのだが、今はそれを試みる時間がない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その会見によってどんなことが決ったかつまびらかでないが、それから三週間も経って、突然アンダーソン教授の対策の研究が発表せられたところから考えて
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
吾人ごじんこれをつまびらかにせず、しかれどもその佐久間象山の慫慂しょうように出でたる事に至っては、た断じて疑うべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さて、右の「安積源太夫聞書」と云う一書こそ此の物語の根幹を成すのであるが、正直のところ、私は此の書が果して信ずるに足るものであるか、或は後世好事家こうずかの偽作であるかをつまびらかにしない。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
... くやしがりて幾度いくども仕合をいどむはほとんど国辱こくじょくとも思えばなるべし)この技の我邦に伝わりし来歴はつまびらかにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師(平岡凞ひらおかひろしという人か)米国より帰りてこれを
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
自然の趨勢すうせいは逆ふこと能はず、吾は彼の一種の攘夷論者と共に言を大にし語を壮にして、東洋の危機を隠蔽せんとするにあらず、もしつまびらかに吾が宗教、吾が政治、吾が思想、吾が学術を究察する時は
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
問題の重要性は常の食物の上に認めて、是をつまびらかにせんとする史料は、異常食事の記録に求めていたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
問題の「諜報中継局ちょうほうちゅうけいきょくZ85号」が、いかなる国家に属しているのか、それは今のところつまびらかでない。
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうだとすれば、敦忠は少将滋幹の実弟になる訳であるが、一夕話の記事は何に基づいているものか、筆者はその出所をつまびらかにしないけれども、或は当時世上にそう云う風説もあったのであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なほ他日つまびらかに申上ぐる機会も可有之これあるべく候。以上。月日。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鯖という魚の信仰上の地位は、つまびらかに調べてみる必要があるのだが、今までは誰も手をつけていなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
爆弾は関東北部で落として来たのか、それとも帝都へ落としたのか、つまびらかならず。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新たな文化が普及する前までは、この島にはナルコテルコという神を、毎年二月に御迎え申し四月に御送り申す厳粛な祭があって、その式作法しきさほうつまびらかに記憶せられている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)