ほう)” の例文
無紋のほうに灰色の下襲したがさねで、かむりは喪中の人の用いる巻纓けんえいであった。こうした姿は美しい人に落ち着きを加えるものでえんな趣が見えた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
城隍廟じょうこうびょうのそば、観音庵かんのんあんの家にもどると、彼はすぐさま身支度にかかった。胸に銀甲を当て、琥珀色こはくいろほうに、兜巾ときんをつけ髪をしばる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、ある日曜日、ペンネンネンネンネン・ネネムは三十人の部下をつれて、銀色のほうをひるがえしながら丘へ行きました。
殿上の高い処に一人の王者がかんむりを被りほうを著てつくえに拠って坐っていた。その左右には吏員がおり、また鬼卒も控えていた。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
全世界とシーザーの紫色のほうをとってこそ、はじめて、世界的王国を建設して、宇宙的平和を設定することができるのだ。
ずいぶん逼迫した公卿もあって位階昇進の御礼に参内する際、武人のほうを借り受けて間に合わした者もあるくらいだ。
手枕をし、足を縮め、海老のように寝ている城主の姿が、ボッと薄赤く光っているのは、身に纏っている纐纈のほうが、微芒を放っているからであろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼等の精神的奴隷たちは、——肉体だけたくましい兵卒たちはクリストにいばらかんむりをかむらせ、紫のほうをまとはせた上、「ユダヤの王安かれ」と叫んだりした。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(美少年ありて、両親の脚の下に墜つ。この屍はその人の姿かと疑はる。されどその形骸は直ちに消え失せ、毫光ごうこうは彗星の如く天に升り去り、跡に衣とほうとリラの琴と残れり。)
正面の高いところには、錦の冠をいただいて黄色いほうを着た男が酒に酔ったような顔をして、珠をちりばめたとうに腰をかけていた。これが唐人の王様であろうと千枝松は推量した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はがっちりした体に大ぶ古くなったほうを着て、樺の皮の冠を無雑作むぞうさかぶって居た。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
建文三年二月、燕王自ら文をせんし、流涕りゅうていして陣亡の将士張玉等を祭り、服するところのほうを脱してこれき、以て亡者ぼうしゃするの意をあらわし、曰く、れ一いえどもや、以て余が心をれと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
具足を脱いで、黄なるほうに姿を改めたる騎士なり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
写経料紙の端に、ほうを着た幞頭ぼくとう(帽子)すがたの大男が、眼玉をむき、肩ヒジを張って、大議論をぶッている絵の落書きだ。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがためにあわてて起きて帰ろうとしていた彭は、判官の捕卒のために縛られてその前へ引き出された。判官は黒い頭巾ずきんをつけて緑のほうを着ていた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
よいできのほうを着て、柳の色の下襲したがさねを用い、青鈍あおにび色の支那しなにしき指貫さしぬき穿いて整えた姿は重々しい大官らしかった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
唯彼を推し立てることのクリストを憎み或はねたんだ大勢の人々に便利だつたからである。カヤパはきららにほう着下きくだし、冷かにクリストを眺めてゐたであらう。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
沈まんとする日の上には猶太ユダヤ王のほうに似た、金繍のヘリある雲の一群がじっと動かずに浮かんでいる。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その頭分かしらぶんとみえる者はあかかんむりをいただき、うす黄色のほうを着て、神坐の前にあるつくえに拠って着坐すると、その従者とおぼしきもの十余人はおのおの武器を執って、階段きざはしの下に居列びました。
只今おつき申して参る途中で、殿様のほうの裾の
おれたちのほうはひるがえる。
袈裟けさ あらたかわる 兗龍こんりゅうほう
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほどなく、朱武、陳達、楊春の三人は、かねて史進から贈られた紅錦こうきんほうを具足の下に着て、時刻たがえずやってきた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お聞きになったらどうお思いになることだろう。貴公子でおありになっても、最初の殿様が浅葱あさぎほうの六位の方とは
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうしてほうの袖を引いた。が、城主は動かなかった。図に乗った猿は一層近付き、かぎのような指を引っ張った。やはり城主は動かなかった。一斉に猿達は喝采かっさいした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紫のほうを著た貴人が侍臣に取り巻かれて宮門の方から出てきた。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
深い緑の松原の中に花紅葉もみじかれたように見えるのはほうのいろいろであった。赤袍は五位、浅葱あさぎは六位であるが、同じ六位も蔵人くろうどは青色で目に立った。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とどろく答えとともに、陣鼓一声、白斑しろまだら悍馬かんばに乗って、身に銀甲をいただき鮮紅せんこうほうを着、細腰青面さいようせいめんの弱冠な人が、さっと、野を斜めに駈けだして来た。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
騎馬の闘牛者の投げるやり、また翻えす深紅のほう、傷付くごとに怒号する闘牛の声の物凄かったこと。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
打ち眺めれば、その人、まだ年歯ねんし二十歳がらみの弱冠で、頭は黄巾こうきんで結び、身に青錦せいきんほうを着て、たちまち山を馳けおり、渓河をこえて、関羽の前に迫った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火柱の主——仮面めんの城主! 城主の着ている纐纈のほうの袖や裳裾もすそが風に煽られ、グルグルグルグル渦巻く様は、火柱が四方八方へ、あたかも焔をひるがえすようであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桜の色の支那錦しなにしき直衣のうし、赤紫の下襲したがさねすそを長く引いて、ほかの人は皆正装のほうを着て出ている席へ、えんな宮様姿をした源氏が、多数の人に敬意を表されながらはいって行った。
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一個の男は黒色のほうを着て戦斧せんぷをひっ提げ、次の大男は赤地金襴きんらん戦袍せんぽう卍頭巾まんじずきんといういでたち。また三番目の野太刀を持ったひょろ長い男は緑衣りょくいであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左右の大臣、内大臣、納言以下はことごとく供奉ぐぶしたのである。浅葱あさぎの色のほうに紅紫の下襲したがさねを殿上役人以下五位六位までも着ていた。時々少しずつの雪が空から散ってえんな趣を添えた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
母は、子を叱るために励ましているわれとわが声に泣いてしまって、ほうの袖を、老いの眼に当てた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅葱あさぎほうを着て行くことがいやで、若君は御所へ行くこともしなかったが、五節を機会に、好みの色の直衣のうしを着て宮中へ出入りすることを若君は許されたので、その夜から御所へも行った。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
やがて李儒は、ほうを血まみれに汚して戻ってきたが、いきなり提げていた二つの首を突きだして
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大将や左衛門督さえもんのかみなどの息子むすこの、自分よりも低いもののように見下しておりました者の位階が皆上へ上へと進んで行きますのに、自分は浅葱あさぎほうを着ていねばならないのをつらく思うふうですからね。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひつぎ輿こしは、金箔と五色の泥彩で塗られ、大勢のシナ人がかついで行った。刺繍のほうみたいな衣服を着た道士だの祭司がそれをめぐり、前後には、竜頭たつがしらの弔旗やはんが林立してゆく。
若い高官たちが正装のほうの肩を脱いで舞の場へ加わった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして、儀仗ぎじょうをととのえ、きのうにまさる行装をこらして、朝霧のうすく流れている宮門へ向って進んでゆくと、一りゅうの白旗をかついで青いほうを着た道士が、ひょこり道を曲ってかくれた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご主人様。……ほうの襟を解いたらこんな物が出てきました」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恩賜おんしほうを刀のさきで受けるとは」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金襴きんらんほうがあるぞ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)