蒐集しゅうしゅう)” の例文
然るにこの書籍を積んだ舟が、航海中七月九日に暴風に遭って覆って、抽斎のかつて蒐集しゅうしゅうした古刊本等の大部分が海若かいじゃくゆうした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
隅田川に関する既徃の文献は幸にしてはなはだ豊富である。しかし疎懶そらんなるわたくしは今日の所いまだその蒐集しゅうしゅうに着手したわけではない。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いつもは、そんなにも感じなかったが、慎吾の話を聞いてから、彼女の眼にはそれらの物が、みんな浅ましい無智の蒐集しゅうしゅうに見える。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その厖大で趣味のまちまちな蒐集しゅうしゅうをみたら伸子は、純ロシアの絵画ばかりを集めたモスクヷのトレチャコフスキー画廊に愛着をおぼえた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
然しかかる篤志家に無闇に書物を買占められると、読む方の愛書家は往々迷惑する。で、つい蒐集しゅうしゅう家の悪口も言って見たくなる。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
陳列品の中で思ひがけなかつたのは、ミイラのおびただしい蒐集しゅうしゅうであつた。非常に保存がよく、繃帯ほうたいまで原態をとどめてゐるのも少なくなかつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
蒐集しゅうしゅうして置くというまでのことで、外に緊急な仕事がないのではありません。僕はそれを済ませて置いて、墓地の方へ行くことにしましょう
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元来、私ははなはだ趣味や道楽のない人間である。釣魚つりとか、ゴルフとか、美術品の蒐集しゅうしゅうなどという趣味娯楽は、私の全く知らないところである。
秋と漫歩 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「もしこの返事が、僕の注文通りのものだったらワトソン君、——君の蒐集しゅうしゅうの中に、また実に素晴らしいものを加えることが出来るんだがね」
天下の富はことごとくローマに蒐集しゅうしゅうしたりといえども、その蒐集したるは経済的の吸引すべきの引力ありてしかるにあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
このようにして札幌と十勝岳の中腹とで、毎冬雪の結晶の写真を撮って来たのが、段々溜って、約三千枚位の蒐集しゅうしゅうとなった。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「実に結構な蒐集しゅうしゅうですね、拝見してみると」とトニオ・クレエゲルは言った。「もう大体要領を得ました。大変お世話様でした。さようなら。」
と始終忠告していた父が、その実意からしても死ぬ少し前、主人を養子に引取って永年苦心の蒐集しゅうしゅう品と、助手の私を主人に譲ったのは道理である。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
本書第一巻を出してより一年有半、蒐集しゅうしゅう及整理ようやく終を告げ、今や本巻ならびこれに続くべき第三巻を印刻する運びとなれるは編者の最も喜ぶ所なり。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
自分の友人に一人の好事家こうずかがあって、こういう記念になるような紙切れを蒐集しゅうしゅうして、張り交ぜの小屏風こびょうぶを作ろうとして。
そういう諸君にはしばらく眼をつぶっていただいて、私はまず近着各紙を渉猟して、その中から比較的信憑しんぴょうするに足ると思わるる部分だけを蒐集しゅうしゅう
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だから、欧洲で蒐集しゅうしゅうした多くの画はだんだん売って売り尽しに近くなったが、この一枚だけは手放さなかったのだ。
京大の哲学研究室が現在その方面で恐らく日本で最も良い蔵書を持っているのも、先生が教授時代に熱心に系統的に蒐集しゅうしゅうされたおかげであろうと思う。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
私は這般しゃはんの大震災で世界の各地から蒐集しゅうしゅうした再び得がたい三千有余の珍らしい玩具や、江戸の貴重な資料を全部焼失したが、別して惜しいとは思わない。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
彼のあとから降りて来たのは第一にブロシュ伯爵で、多くの情婦や、古い聖体ごう蒐集しゅうしゅうや、過激王党主義の意見などで、世に知られてる戸外運動家だった。
青山の家に伝わる古刀、古い書画の軸、そのほか吉左衛門が生前に蒐集しゅうしゅうして置いたような古い茶器の類なぞを取り出して思案顔でいる半蔵をそこに見つけた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
倉地が日清にっしん戦争にも参加した事務長で、海軍の人たちにも航海業者にも割合に広い交際がある所から、材料の蒐集しゅうしゅう者としてその仲間の牛耳ぎゅうじを取るようになり
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かつ茶器の蒐集しゅうしゅうに耽りつつある人として、さまざまと茶の議論をも立ててきた人だけに、作陶家よ茶を知れと叫ばれることは至極もっともな親切な言葉として
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その昆虫学の標本の蒐集しゅうしゅうは、スワンメルダム(6)のような昆虫学者にも羨望せんぼうされるくらいのものだった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ただの東歌に類した民謡をば、蒐集しゅうしゅうした磐余伊美吉諸君いわれのいみきもろきみが、進上されたままに防人の歌としたものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
亀吉の説明によると、その道楽は絵馬の蒐集しゅうしゅうであった。前にも云う通り、江戸時代には絵馬が流行はやった。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見ては焼物中の「民窯」とも称すべきいわゆる「下手物げてもの」を蒐集しゅうしゅうし、不日ふじつその展覧会と研究とを発表する計画でおります。これによって隠れた驚くべき美の世界を
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
近頃ではこれらの書籍を蒐集しゅうしゅうしただけでもゆうに相応の図書館は一杯になるだろうと思われる位である。
恐らくこれらは、古代時計の蒐集しゅうしゅうとして、世界に類を求め得ないほどに冠絶したものに違いなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
勘兵衛殺しの下手人とにらんで、一生懸命証拠の蒐集しゅうしゅうに浮身をやつしている矢先、肝腎の又六が殺されてしまっては、平次は全く背負しょい投げを喰わされたようなものです。
あらゆる資料が蒐集しゅうしゅうされるやいなや、決定の前に、もちろん全体との連関において、すべての書類、したがってこの最初の願書も仔細しさいに検討されるのだと付け加える。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
アルセスト号乗組の軍医マクレオッド Mac-Leod の『航海記』(同年同地版)にはフィッシャー Fisher と呼ぶ人の蒐集しゅうしゅうした琉球語彙が添うている。
またその蒐集しゅうしゅう穿鑿せんさくは近頃ぼつぼつ古いガラス絵や阿蘭陀オランダ伝来のビードロ絵を集める事もようやく流行して来たようでありますからその道の好事家こうずかにお願して置く事として
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その通りに椿岳の画も外国人が買出してから俄に市価を生じ、日本人はあたかも魔術者の杖が石を化して金とするを驚異する如くに眼をみはって忽ち椿岳蒐集しゅうしゅう熱を長じた。
事によると、汝はそれ丈の証明では不充分であるというかも知れぬ。成るほど狡獪こうかいなる霊界人が、欺瞞の目的をもって、細大の歴史的事実を蒐集しゅうしゅうし得ないとは言われない。
父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかるに学校にりて多年蒐集しゅうしゅうしたる智識をば一旦業をえ校門をずると同時に、そのすべてを失却するもの甚だ多い。仏国ふっこくの如きこの例にれざるものと言うべきである。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
骨董こっとう珍器、珠玉の類を蒐集しゅうしゅうするためには、どのような不徳不義をも、甘んじて行おうとする気性、松浦屋の手から召し上げた珍品だけでも、数万両の額に上ると言われていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
誰しも一時はった絵葉書の蒐集しゅうしゅう。初めはもちろん外国もの、明治三十三年に私製絵葉書が許されてポツポツ発行、東京名所や俳優名妓等の写真版、石版色刷の粗末な花鳥画など。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
この家の主人は吉村英作といって農科大学の教授であるが、若いころから版画の蒐集しゅうしゅうが道楽で、ことに銅版画にはひとかどの鑑識があり、その道で知られた名作をかなり持っている。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
情況証拠の蒐集しゅうしゅうは、二年後の二十年の冬に完了し、手帳にあった十人の女性の非業の最後を法廷で立証できるところにまで辿り着いたが、たとえていうならば、それは深い夜の闇に
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうしている間に、H署には、次のような情報が蒐集しゅうしゅうされ、又、細密な物的証拠品が発見されてきていた。そしてそれは、事件を大きく「絞り開けアイリス・アウト」すると重要な材料となっていた。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
材料の蒐集しゅうしゅうに、『婦人倶楽部』の多くの読者と、武子さんの身近かな人々からも指導と協力を得ているといい、筆者はもうすにおよばず、発行が、野間清治氏の雄弁会出版部であり
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かれが蒐集しゅうしゅうしたところのあらゆる婦人雑誌や活動写真の絵葉書、ことにいまわしげな桃色をした紙の種類、それからタオルや石鹸や石鹸入れなどが、みんな押入れのなかにしまわれてあった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一方、豆本熱は病こうこうに入って、蒐集しゅうしゅうした長篇講談はぼくの背を越しました。作文の時間には指名されて朗読しました。『新聞』と云う題で夕刊売の話を書き級中を泣かせました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
はじめての驚天きょうてん的犯罪の目的は子宮の蒐集しゅうしゅうにあるという説が有力だった。それも、迷信や宗教上の偏執へんしつに発しているものではなく、それかといって、たんに特殊の集物狂コレクトマニアの現象でもない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
若い時代の冒険によって、蒐集しゅうしゅうしたのだといわれてみれば、そんなようにも思われるが、しかしそれにしても怪しいところがある。……わけても最も怪しいのは、象ヶ鼻という大磐石だ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは怪奇なことばかり蒐集しゅうしゅうした随筆であって、序文によるとその著者が、そうした書名をつけたところで、他に同名があったので、それで改めたものらしい。表紙には「新斎諧しんせいかい」としてある。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
会津八一あいづやいち先生が、たぶん創元社の伊沢君からきいてのことと思うが、私が黄河を調べていることをきいて、私を早稲田わせだの甘泉園というところへ招いて、ここには先生の支那古美術の蒐集しゅうしゅうがあるのだが
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「悦ちゃんこの頃ハンカチの蒐集しゅうしゅうしてるのんやてなあ」
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)