花弁かべん)” の例文
花下かかにある五萼片がくへん宿存しゅくそんして花後かごに残り、八へんないし多片の花弁かべんははじめうちかかえ込み、まもなく開き、かおりを放って花後に散落さんらくする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
温かい、濡れた、かおりの高い花弁かべんが、グングンおしつけて来て、息もできなかった。からだじゅうがしびれて、気が遠くなりそうだった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
美しい百合のいきどおりは頂点ちょうてんたっし、灼熱しゃくねつ花弁かべんは雪よりもいかめしく、ガドルフはそのりんる音さえいたと思いました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この蕋に位を張られてべに色の花弁かべんはたゞ華やいだ小褥こじとねになります。一つ一つが八重くれないに華やいだ小褥に。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まったく途方とほうれたのであろう。春信はるのぶかおあげたおせんのまぶたは、つゆふくんだ花弁かべんのようにうるんでえた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なお四人、六人、八人と、数を加えて、同じように光秀の死骸をめぐって殉じた人たちの亡骸なきがらは、またたくうちに大きな一箇の血の花弁かべん花心かしんを地上に描いた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その唇は二枚の小さき花弁かべんの如く、その鼻は美しき貴公子きこうしの鼻と異なる所なく必ず細き曲線に限られ、またその眼は二つの穴の真中に黒点を添へたるに過ぎず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そよともしない沈黙がこめていた。頭の上には一蔓の薔薇がものうげにたれ下がっていた。突然、もっとも美しい一輪の薔薇が散り去った。雪白の花弁かべんが空中に散らされた。
地は黒塗で、牡丹の花弁かべんは朱、葉は緑、幹は黄、これに金箔きんぱくをあしらいます。蓋には二つのさん、胴には二段のたが、その間に線描せんがきの葉を散らします。作るのは盛岡であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それで、たちまち、なんともいえない香気かおり恍惚うっとりとなってしまって、ちょうは、あとさきのかんがえもなく、その真紅まっか花弁かべんいつけられたように、そのうえりてまったのです。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちょうど花弁かべんでも開くように、その紅色は拡がった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ花の器官に大小広狭こうきょう、ならびに色彩しきさいの違いがあるばかりだ。すなわち最外さいがいの大きな三ぺん萼片がくへんで、次にあるせまき三片が花弁かべんである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
もう永久えいきゅうに、あの姿すがたられないとおもうと、ちょうは、また物狂ものくるおしく、昨日きのうのように、そらたかがったのです。うつくしい花弁かべんのようにきずついたちょうの姿すがたは、夕日ゆうひかがやきました。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いいえ心配しんぱいありません。酒があんなに湧きあがり波を立てたりうずになったり花弁かべんをあふれてながれてもあのチュウリップのみどり花柄かへい一寸ちょっともゆらぎはしないのです。さあも一つおやりなさい。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
花茎かけいにはかならずその途中に狭長きょうちょうほうがほとんど対生たいせいしていており、花には緑色の五萼片がくへんと、色のある五花弁かべんと、五雄蕊ゆうずいと、一雌蕊しずいとがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「この花弁かべんに、晩方ばんがたかぜがかすかにわたるのをながめますと、わたしはたまらなくかなしくなります。音楽おんがく音色ねいろわたしこころたのしませることはできません。」と、むすめこたえました。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ていると、銀色ぎんいろ小舟こぶねは、波打なみうちぎわにこいできました。が、あか花弁かべんえついたように、はたいろがかがやいて、ちょうどかぜがなかったので、はたは、だらりとれていました。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)